四十五.悪魔との激突
レイ達の前に千体の竜騎兵が剣を構える。しかし、そんな大量の魔物を前にしても、彼は余裕の表情のままだった。頭上に剣を掲げたレイの魔剣。少年の意思に呼応するかのように、魔剣を包む闇闘気が揺らぐ。
(ルシア、行くぞ)
【あれをやるのね……いいわ】
千の敵を前にしたレイは、ルシアと新たに創造したスキルを発動する!
「【死属性スキル】――死神の息吹」
刹那、戦場は漆黒のドームに包まれる――
◆◇◆
魔族長ブネリの側近――女悪魔グレモリー。ヘッドドレスをつけた頭には二本の角。艶やかな長い髪と瞳は燃えるような赤。黒と白が基調のゴシック風ドレスを身につけた上級悪魔はその力を買われ、魔族長の身の回りの世話を任されている。
レイ達が魔の大陸へ到着する直前、通常なら考えられないブネリからの命令に彼女は首を傾げていた。
「ブネリ様も可笑しな事をおっしゃるわね。この城は妖気による結界で誰も近づけないと言うのに……。人間自ら魔族の地へ滅ぼされに来るだなんて、滑稽だわ」
人間の国からこの居城へ来るためには、ブネリの妖気が籠った魔法具を通じて本来地下にある魔法陣へ転移するしかない。
魔族長ブネリの厚い妖気で出来た雲により、近づく事すら許されない魔族の地。仮に近づけたとしても居城は結界に覆われており、それを打ち破るスキルなどある筈がないと、グレモリーは考えていたのだ。
そう、自身の眼で結界が消滅する瞬間を見るまでは……。
「へぇ~。滑稽だわ」
そして、レイの手によって結界は破られる。謎の飛行物体が魔の領域へ降り立った事を目撃したグレゴリーは、闖入者を出迎える準備をする。
銀等級のトロール、そして、竜騎兵。グレモリーによる勇者と闇騎士を葬る手筈が整った。レイ達との別れの挨拶を終えたグレモリーは城へと帰還していた。
魔の地へ足を踏み入れた不埒者を血祭にあげ、肉片を魔族長へ献上する――女悪魔は愉悦に満ちた表情で人間が滅びる瞬間を想像する。
「滑稽だわ。後で肉片となった人間共の血肉をゆっくりと堪能する事にしましょ……」
女悪魔グレモリーの独り言は、背後からの爆発音により掻き消される事となる。
(何……今の爆発音は……!?)
グレモリーは驚愕する。爆発は竜騎兵が放つ炎によるものではなかった。ドレスより取り出した手鏡に、外の様子が映し出される。
赤銅色の大地へ巨大な漆黒の円。千ある竜騎兵の大群は一瞬にして消滅した後だった。
「へぇ~。あの竜騎兵をこの短時間で……どうやったの?」
「簡単なことだ。俺の持つ【死属性スキル】で消滅させた」
城内エントランス。入口に立つレイを出迎えるグレモリー。
【死属性スキル】――死神の息吹。あのとき竜騎兵へレイが放った死属性スキルは、圧縮した闇闘気を空間へ放ち、ドーム状の結界内で爆発させる最上級の破壊スキルであった。
千もの竜騎兵の大群は、圧縮された闇闘気の爆発により消滅し、最早塵すら残っていなかった。敵を殲滅させたレイは、アン、リーズ、ポポロンと共に、ブネリの居城へ正面から堂々と乗り込んだのである。
「へぇ~。死属性ですって。まさか魔族すら持たない禁断のEXスキルを扱う者が人間に居るなんてねぇ~。いいわ、このグレモリー様が遊んであげる。いらっしゃい、坊や」
魔の大群をものともしない人間の登場にグレモリーは歓喜する。『こいつを肉片にする事で、ブネリ様のお役に立てるのだ』と。
「何を勘違いしている。お前と戦うのは俺じゃない」
「この程度の相手、レイが出る幕もないさ。私が一瞬にして刻んでやるよ」
バニー姿のリーズが、大太刀を構え、レイの前へ立つ。彼等は事前に話していたのだ。敵の居城でレイの力はなるべく温存する。側近はリーズ達が仕留め、レイがブネリを討つ、と。
「レイ、早くブネリの下へ行け。ここは私が引き受けた」
「わかった。リーズ、頼んだぞ」
「無事で居てください。リーズさん!」
「こんな奴、すぐ倒して追いついてくるんだよっ!」
レイ達がリーズを置いて先を急ごうとする。しかし、その場へ立ちはだかる女悪魔は、空中へ浮かぶ真っ赤なナイフを出現させ、レイ達へと放つ!
「させないわよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
深紅のナイフはレイ達に届かない。放たれたナイフをリーズが高速移動により全て叩き落したからだ。加えて一瞬にして距離を詰めた彼女の大太刀がグレモリーへと迫る。女悪魔は右手を刃へ変化させ、リーズの大太刀を受け止める。
「血に染まる深紅の刃――上級悪魔グレモリー様よ。いいわ、遊んであげる」
「風の勇者リーズだ。行くぞ」
女悪魔の深紅の刃と、風の勇者の大太刀が激しくぶつかり合う――
◆◇◆
城を守る竜騎兵を倒し、レイ達は先を急ぐ。ルシアの逆探知により、ブネリの部屋は分かっていた。意思伝達により、位置情報を共有し、彼等は最短ルートで魔族長の下へと向かう。
魔族長の部屋がある場所へは中庭を通る必要がある。天井のない、広い中庭へ辿り着いた時、前方からの禍々しい妖気に気づく。
「あれは……なんだ!?」
全身緑色の体躯。巨大な尻尾に六本の腕を生やし、両眼がギョロギョロと動いている。
「オマエハ……オマエノセイダ……ユルサン……ユルサンゾォオオオオ!」
前方に出現した異形が咆哮した瞬間、圧縮された空気が口腔から放たれる。レイ達が散開し、妖気を纏った空気砲が背後にあった木をなぎ倒す。
【まさか……レイ、あの異形……ビーンよ! 魔物化しているわ!】
「なんだと!?」
咆哮による妖気砲を躱しつつ、レイがルシアと脳内で会話する。
「アン、ポポロン。こいつは商会を牛耳っていたビーンだ。どうやら魔族長の力で魔物に堕とされたんだろう」
「え? あのモノクルの……」
激しく咆哮する異形となったビーン。レイの事が憎いのか、彼へ向け、続け様に妖気砲を放つ。
「レイ、アン。先に行って。こいつボクの弟子達を攫った元凶なんだよねっ!? 一発殴らないと気が済まないよっ!」
ポポロンが地面を叩き、隆起した岩盤がビーンを襲う! しかし、ビーンは六本の腕を交差させ、岩盤から身を守り、再び咆哮する。
「シネェ、シネェ!」
地面に手を置いたポポロンが土壁を創り出し、妖気砲を受け止める。ビーンの攻撃を受け止めたドワーフはレイとアンへ先に行けと目くばせをする。
「此処はボクに任せて! さぁ早く行って!」
「わかったポポロン」
「こんな奴、倒しちゃって下さい!」
ポポロンが創り出す土壁により妖気砲を防ぎ、レイとアンが先を急ぐ。咆哮を防がれたビーンは激昂し、ドワーフへと襲い掛かる。
六本の腕により、ポポロンを掴もうとするも、彼女は両手で持ったハンマーを横に振るい、あろう事かビーンを体躯ごと打ち返し、異形は壁へと激突する!
「これはアプリンの分だよっ! 弟子四人分の借り、返してもらうからねっ!」
正義のハンマーを振るうポポロンと、異形と化したビーンが激突するのだった。




