四十一.グラシャスと火の精霊
赤銅色の大地――地面から噴出する蒸気は熱を帯び、所々に湧き出る溶岩が灼熱の池を作っている。
周囲の熱気に呼応するかのように靡く赤い髪。橙色に発光する剣を強く握り、目的地を目指す少年。自ら持つ剣の刀身へイフリートを封じる火の勇者――グラシャス・フレイア・ロード、その人であった。
やがて、山頂の手前、岩肌が剥き出しになった山に囲まれた広い場所へ辿り着いた少年は、イフリートを封印した剣――紅蓮の剣を山の頂へ向け、高く掲げる。
「さぁ、出て来い。外の空気を吸わせてやるよ、イフリート!」
グラシャスが叫ぶと同時、赤銅色の大地へ全身を橙色に発光させ、燃え上がる炎を衣のように纏った戦乙女が顕現する。火の勇者が封印している火の精霊――イフリートだった。
「グラシャス……こんなところへ連れて来て、どういうつもりだ……!?」
「どういうつもり? このフレアデス火山はお前の精霊としての力に満ちている。此処なら封印した状態のまま、あんたを顕現させる事が出来る。これは、たまには外の空気を吸わせてやりたいって言う俺の優しさだぜ?」
フレアデス火山――火の精霊の力の根源を司ると言われる、火の国の南に位置する火山。イフリートが封印された状況にもかかわらず、火の国がイフリートの恩恵を受ける事が出来る理由――それは、何万年もかけて精霊の力を溜め込んで来た、この雄大な自然にあった。
グラシャスがイフリートに告げた通り、彼女は封印される前と同じ凛とした姿を保っている。が、火の精霊は彼を睨みつける。彼がイフリートを顕現させる時――それは自らの欲求を満たす時だと彼女は知っているからだ。
「忌々しい鎖だ……くっ……早くあたいを解放しろ!」
「相変わらず威勢がいいねぇ~。その表情、嫌いじゃないぜ? 痛めつけがいがあるからな!」
イフリートは両腕を手枷のようなもので縛られ、炎を帯びた鎖が紅蓮の剣の刀身へと繋がっている。彼女は全身を纏う炎をグラシャスへ向けて放とうとするが、炎は渦をなす前に剣へと吸い込まれていく。
笑顔を見せたグラシャスは、イフリートの頬を思い切り叩く。地面に倒れるイフリートは、歪んだ勇者へ向け、呪詛を吐く。
「くっ、殺せ!」
「殺しはしないさ。お前は俺の大切な奴隷だからな。まぁ、ご主人様へ歯向かう奴隷には、お仕置きをしないといけないな?」
イフリートの纏う衣装は火闘気そのもの。普通なら触れる事すら出来ない衣へグラシャスは手をかけ、胸元を覆う衣を炎ごと引き剥がす。彼女の朱い肌が露出し、胸元が露わになる。
「貴様……! 何をする気だ!」
「安心しろ。今日は少し趣向が違うのさ」
するとグラシャスは、紅蓮の剣の鋩をイフリートの胸元へ近づける。柄に納められた橙色の宝石が妖しく光り、イフリートが纏っている炎――火闘気がみるみる刀身へと吸い込まれていく。
「なっ!? やめろ……」
イフリートは脳震盪を起こしたかのうような眩暈を覚える。自らを覆う炎が引き剥がされていく。ぐらつく視界の中、イフリートは胸元を隠し、悠然と佇むグラシャスを見上げる。
「いいぜいいぜ! 力が漲ってくるよ。炎の魔封石をアップグレードした甲斐があったぜ。契約と封印の違いか何だか知らねーが、俺には関係ねぇ」
グラシャスは自身の強さに絶対の自信を持っていた。しかし、強さを求める中で、精霊についての秘密を知る。封印している状態では、精霊の力の十分の一程度の力しか発揮出来ていなかったのだ。
しかし、グラシャスはイフリートの力を解放するつもりはなかった。彼はあろうことか、剣へ嵌め込んでいた魔封石へ魔族長の力を籠め、精霊を縛る事で、強制的に力を得ようとしたのである。
「これ以上は……やめてくれ……」
「さぁ、そろそろ時間だよ。イフリート!」
刀身が発光する。火闘気を吸収した魔封石が、今度は紫色の光を放ち始める。それは、グラシャスが持つ筈のない、魔属性の魔力。魔力は紫色の靄となり、イフリートの身体を包んでいく。
「うぅ……うぁあああああああああああ! やめろ! やめろぉおおおお!」
「ふはははは! そうだ、喚け! そして、俺に跪け! イフリート、俺に力を貸せ!」
地面に蹲り、頭を抱え、必死に抵抗するイフリート。身ぐるみ剥がされ、剥き出しとなった精霊の精神へ魔の妖気が入り込んで来る。
(いけない、あたいがここで負けたら……こいつは世界を……こいつを止めなきゃ……)
グラシャスが身につけていた白金の鎧が赤い蒸気を帯びている。
「俺はお前のご主人様だぞ? わかるか? イフリート。お前は俺に全てを捧げるんだよ?」
(だめだ……こいつを止めないと……こいつはあたいのご主人様……あたいはこの人のために……あれ……どうして止めないといけないんだっけ?)
やがて、紫色の靄が消え、抵抗を続けていたイフリートが、両腕をだらんと下げたままペタリと地面へ座り込む。橙色の瞳は光を失い、虚ろな表情へと変わってしまう。
「どうだ? 生まれ変わった気分は? お前はイフリート、俺の奴隷。俺はお前のご主人様だ」
「あたいは……ワタシハ……イフリート……ゴシュジンサマニツカエル奴隷デス……何ナリト……御命令クダサイ……」
緩んだ口元……彼女の瞳から流れ落ちる涙。
「そうかそうか! イフリート。じゃあ、俺を存分に楽しませて貰おうか!」
剣を納めたグラシャスは、イフリートの髪を持ち、彼女を持ち上げたまま精霊の唇を強引に奪う。
自らの欲望を満たすため、更なる高みを目指すグラシャスは、こうして、己の道を歩んでいくのだった。
構成の調整のため、少しお休みをいただきます。
次章は8/1からスタートです。
引き続きよろしくお願いいたします!




