四.精霊術とEX属性【死属性】スキル ~揺れるメロン
レイが再び世界へ降り立ち、数日が経った。
あの日、レイはルシアとひとつになった。目覚めた先は見知らぬ森。色とりどりの植物が、澱みのない爽やかな風が、元居た〝火の国〟でない事を彼に認知させた。
耳を回転させ空を飛ぶ耳飛び兎。鴬のように鳴く黄色い花。全てが未知との遭遇。この世界の広さを体感しつつ、ひたすら歩くこと三日。
「なぁ、ルシア。此処、本当に風の国〝ウイングシルビア〟 なんだよな?」
【ええ、間違いないわよ?】
「で、いつになったらそのエルフの里とやらに到着するんだ?」
【仕方がないでしょうレイ? 転移場所までは指定出来なかったんだから】
森の中、彼は気が狂った訳では決してない。傍から見ると明らかな独り言に見えるが、彼は今、脳裏に響く大人びたお姉さんの声と会話をしているのだ。森を抜けると〝エルフの里〟がある。彼女の案内に従い、道中魔物を倒しつつ、野宿を繰り返して三日。
「もしかして……道に迷ってないか?」
【闇精霊を信用してないわね? 信用しない子には……えい!】
刹那、彼の身体を覆っていた艶やかな漆黒の軽鎧が消失。産まれたままの姿となった彼は慌てて大事なところを隠す。
「ちょ……ちょっと待てルシア! 分かった! 分かったから!」
【分かればいいのよ……嗚呼でも、あなたの鍛え抜かれた肉体をもう少し見たいから、このまま眺めていてもいいかしら?】
「いや、やめてくれ」
【ちぇっ。しょうがないなぁ】
彼の周囲に紫色の煙が渦を巻いたかと思うと、再び漆黒の軽鎧が彼の肉体を包む。そう、肉体だけでなく装備品全てを失っていた彼は、再びこの地に降り立った際、まさに産まれたままの姿だったのである。
「それにしても、その闇闘気ってすごいな。防具にも武器にもなるんだろう?」
【これは私の力であり、レイの力でもあるのよ?】
闘気――精霊の魔力を可視化出来るパワーとして変換したものだ。火精霊イフリートなら火闘気。水精霊ウンディーネなら水闘気と言った具合だ。
精霊と契約したものは、その属性に付随したスキル――〝精霊武技〟を扱う事が出来る。
ルシアが持つ闘気は闇闘気。今、レイを覆う漆黒の軽鎧は、彼女の闇闘気を防具へと変換したものだ。
「それにしても、イフリートと契約したグラシャスだって、剣に炎を纏わせるだけだったのに、何が違うんだ?」
【そりゃあそうよ。あれは契約と言ってもふ……。ま、それは追い追い説明するとして……】
ひと呼吸置いてルシアはレイへ解説する。
【レイ、あなたと私の場合、その火の勇者が使っていた精霊武技ではないわ。武器へ纏わせるどころか、創造次第で武器や技そのものへ変化する力――言うなれば〝精霊術〟ね】
「――〝精霊術〟」
【ま、レイと私は融合――文字通りひとつになったんだから、違って当然よ】
精霊武技と精霊術。同じ精霊でも違うものなのであろうか。それにしても先程より〝ひとつになった〟をやたら強調してくる闇精霊に、レイは何故か先が思いやられる。
「うーん……この先どうなるんだ……」
【ふふふ、レイの肌の温もりを直接感じるわ~。このままあなたを包む衣となり、密着していたいわ~】
契約した相手を間違えてしまったかもしれない……レイがそう思いつつ森を進んでいた次の瞬間、木々を抜けた先に誰かの叫声が聞こえる。
「だ、誰か助けて!」
ミルク色の肌。肩までかかる煌めき掛かった淡翠色の髪の少女が巨大な棍棒を持った巨大な魔物に追われていた。レイと変わらない位の年齢だろうか? 振り乱した髪の間から尖った長い耳が垣間見える。どうやらエルフの少女らしい。
「あれは……銀等級の魔物――トロール!」
【レイの力を見せる時が来たようね】
三メートルはあろうかという巨漢。ブヨブヨの弛んだお腹。しかし、巨大な棍棒を持つ剛腕から繰り出される一撃は、ひと振りで地形を変える程の力を持つ。剥き出しの肌に腰布を巻いただけの魔物は眼前のエルフを犯し、喰らおうと巨大な口腔より涎を垂らす。
「あ……ああ……」
木の枝に躓き、腰から崩れ落ちてしまう少女。口角をあげてニヤリと嗤う魔物。少女は震えているのか、口をパクパクさせ、思うように言葉を出す事が出来ない。
「オマエ……オレ……喰ウ!」
「そうはならないさ」
振り下ろされた巨大な棍棒を受け止めるは、巨大な刀身を成した漆黒の魔剣。大剣を両手で握った少年は、エルフの前に立ち、敵を見据えて不敵に笑う。
「その巨体、見掛け倒しか?」
「キサマ……ニンゲン!」
棍棒を力で押し返した事で、後退するトロール。再び振り下ろされる棍棒を横に飛んで躱し、エルフを抱き抱えて素早く安全なところへ移動する。
「すぐ終わらせる、此処で待っていろ」
「は……はい」
エルフの少女は、颯爽と現れた銀髪の少年に釘付けとなっていた。トロールの巨漢から放たれる棍棒による一撃。動きは遅いものの、大地は抉れ、風圧により樹々が揺れる程の力。
しかし、彼は赤子の手を捻るかのようにトロールの攻撃をいなし、巨大な剣を横に薙ぐ。トロールの腹へ傷がつき、緑色の体液が飛散する。そして、続けて放たれる彼の攻撃に、エルフの少女は目を見開く事となる。
「終わりだ。【死属性スキル】――黒妖魔剣」
(え? 死属性)
エルフの少女が初めて見聞きする属性。
闇精霊ルシアから与えられし新たな力――EX属性【死属性】。
その本質は、対象の〝生命力〟を〝奪う〟という事。
体躯を斬り裂く重苦しく激しい衝撃音! トロールの巨漢へ魔剣による大きな刀傷がつく。緑色の体液を流しつつ、黒い闇が靄のように傷の周囲を覆い、やがて闇の奔流はレイの魔剣へと還っていく。
白目を剥いた巨大な魔物は前方へ倒れ、そのままあっけなく絶命する。
役目を終えた魔剣は彼の前で霧散し消失。戦いを終えたレイの脳内に、闇精霊の〝声〟が響く。
【レイ、お見事だったわ。力の使い方、少しずつ分かって来たみたいね】
(まぁ、三日間道に迷いつつ、魔物を倒し続けた結果だな)
騎士の時にはなかった力を身につけトロールを圧倒したレイは、心の中でルシアと会話をしつつ、エルフの少女の傍へと駆け寄る。
「もう心配ない。無事でよかった」
「た、助けて下さいまして、ありがとうございます」
透き通るようなプラチナブルーの瞳が真っ直ぐレイを見つめる。むず痒い気持ちになりつつも、レイは座り込んでいた彼女に手を差し伸べる。
「立てるか?」
「はい」
何故かうっとりしているエルフの少女は、白いチューブトップのような格好をしていた。清楚な白で覆っていても溢れんばかりの果実が主張している。それは闇の林檎よりも大きな果実……。
【ふふふ……そうね、メロンサイズね】
(ルシア、俺の心の中を読まないでくれ……)
ルシアの声が聞こえない振りをしつつ、話題を逸らそうとエルフの少女へ話しかける。
「君、エルフだよな? 実は、道に迷ってしまってな。この近くにエルフの里はあるか?」
「はい。此処から西へまっすぐ行った先にあります。あ、里に用事でしたら、わたしが案内しますよ?」
「それは助かる」
ようやく目的地へ辿り着けるという事実に安堵するレイ。
「わたし、アン・エルメシアン・ディアって言います。よろしくお願いします」
「俺はレイ。気軽にレイって呼んで貰って構わない」
握手をするエルフのアンとレイ。これが運命の出逢いとなるとは、今の二人は知る由もないのである。
【今、メロンが盛大に揺れたわね】
(だから、言うなルシア)
【読者の皆様へ】
下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。
お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!




