三十一.奴隷市場の真実
その後、水の都の教会や酒場など、人の集まるところを中心に聞き込みをしていくレイとアン。ポポロンの弟子達の居場所までは分からなかったのだが、水の都の仕組みを理解するに至った。
宿屋の一室にて風の勇者リーズと現状を報告し合うレイ達。闇精霊ルシアと風精霊シルフも顕現している。
「俺の予想では、ギルドか商会、或いは教会のいずれかがポポロン達の行方不明に絡んでいるんじゃないかと思う」
「え? レイ様、そうなんですか?」
レイの見解はこうだった。魔属性の力による転移を考えると、ポポロンの弟子達の誘拐には、魔族が絡んでおり、国と国を転移する程の力を考えた時に、まず単独犯とは考えにくい。しかし、ギルドのクエスト依頼や教会、商会をみても、国の中で誘拐や失踪といった事案が問題として取り上げられていなかったのだ。
水の国は火、風、土、他の三国と違い、この世界を創ったとされる女神信仰による教会の法王制で、ギルド、教会、商会、この三つで成り立っていた。国の治安は基本ギルドからの冒険者へのクエストや、教会直轄の法王騎士団によって護られている。
通常、魔族が絡む事案だと、国は必ず動く。問題となっていないとなると、国が気づいていないか? 或いは……。
「……何かしらの圧力で事案が揉み消されているか」
「そういう事になるな」
レイの見解に反応したのはリーズだった。そして、彼女が核心に迫る答えを導き出す。
「レイ、恐らくポポロンの弟子達は奴隷市場に居る」
「やはりか」
レイもある程度予想をつけていたらしい。それは、風の国でも魔族がエルフや兎耳族を拉致し、奴隷として売り捌いている噂を耳にした事があったからだ。
しかし、マーキュリアの酒場や教会で、そういった噂を耳にする事はなかった。
「どうやら、よそ者の前で奴隷市場の所在を話す事はタブーらしい」
リーズは一日かけて水の都に潜む闇を調べ上げたらしい。レイとアンが行った表の捜索だけでは奴隷の話など全く出なかったため、治安の悪いスラム街のような場所や、人里離れたところまで、あらゆる場所を捜索したようだ。
「ふふふ~。ワタクシ、シルフちゃんの力があればリーズは風になれるのよ~?」
街の隅々を一日で全て歩いて回るなんてことは到底不可能だ。しかし、リーズには風精霊シルフがついている。彼女は奴隷市場へ繋がる手掛かりを見つけたらしい。
「マーキュリア南に位置する裏五番街。そこに大きな屋敷がある。どうやら、その地下で毎週末奴隷市場がオークション形式で秘密裏に開催されているらしい。……美人のエルフやドワーフ、ケモミミの幼女は高値で売れるそうだ」
「ひ、ひどいです……」
「……なっ、よくもそんなことを」
エルフや獣人達を奴隷として売り捌き、飼った者は労働力や奉仕役として利用する。仲間の扱いにショックを受けるアン。レイは拳を震わせ憤りを露わにしていた。
「商品に傷をつける訳にはいかない。つまりポポロンの弟子達は恐らく無事だろう。あの子達が売り捌かれる前に、居場所を突き止め、救出する必要がある」
「成程、どうにかしてその屋敷へ潜入する必要がありそうだな」
週末まではあと三日。奴隷市場の現場を押さえるためには、主催している者が誰かを突き止める必要もあった。
「誰が裏で繋がっているか分からない。水の勇者の動向も気になるしな」
「そういえば、レイはロイドを目撃したそうだな」
「ああリーズ。クラーケンを先日討伐したばかりらしく、英雄扱いされていたよ」
水の都の英雄。街の者からはロイドの悪い噂は全く出て来なかった。それまで部屋のベッドに座って様子を見ていた闇精霊、ルシアが手を挙げる。
「伝えておかないといけない事があるわ。レイと一緒に居て、ロイドを視ていたんだけど、水精霊ウンディーネと会話出来なかった。あの距離で意思伝達出来ないとなると、やはりあの子はロイドの武器に封印されている」
「そうねぇ~。水の都へ来てからも、あの子の清らかな水闘気も感じないわねぇ~」
ルシアの横に座っていたシルフも同調する。 翠色の風を衣装のように纏い、大事なところは隠してある。
「もう少し、ロイドも調べる必要がありそうだな」
「奴隷市場開催当日が期限か。ちょっと作戦を立てよう」
この日、レイ達は深夜まで奴隷奪還作戦の計画を立てるのであった。
◆◇◆
「レイ様……本当にやるんですか……?」
「ああ。心配ない。俺とルシアがついてる」
翌日、レイ達は手分けして変装用の衣装を調達し、問題の屋敷へと向かっていた。
レイは貴族風の黒いジャケットにズボン。フードで目立つ銀髪を隠している。
アンは豊満な果実ごと身体全体を隠す毛皮のコート。コートの下はレースの入った桃色のビスチェドレス。そして、首元には中央にハート型の宝石が埋め込まれた銀色の首輪をつけていた。
(まるで本当の奴隷になったみたいで……なんだかドキドキしちゃいます……)
恥ずかしそうにモジモジしているアン。奴隷用のアイテムは、隷属主の魔力を注ぐ事で隷属の証を刻む事が出来るらしく、アンのつけている首輪もそんなアイテムだった。勿論今回は、あくまで潜入のための変装であって、レイが魔力を注いでいる訳ではない。
コートの下にビスチェ、しかも首輪という刺激的な格好。アンは色んな想像をして、ひとり悶えていたのだが、そんな事を考えているなど、レイは知る由もないのである。
(こんなえっちぃ格好で……わたし、レイ様に奉仕を……そんなのだめです……)
「アン……ってどうした? 顔が赤いみたいだけど?」
「え!? あ、はい。わたしは元気です!」
「そうか。ならいいけど。そろそろ到着するぞ?」
「はい。大丈夫です!」
首を上下に振って大丈夫アピールするアンを見届け、レイは屋敷へと向かう。その後ろをアンがついていく格好だ。
「おい、お前。何の用だ?」
「ああ。俺は旅の者だが、此処で奴隷市場をやっていると聞いてやって来たのさ。詳しい話を聞きたいと思ってな」
入口の大男は訝し気にレイを見るも、アンの首についているチョーカーを見た瞬間、ニヤリと嗤う。
「へっ、そうかい。あんた、物好きだな。その若さでエルフの隷属主か。入りな!」
【うまくいったようね】
(そうだなルシア。やはり、アンを俺の奴隷だと思ってくれたようだ)
意思伝達で会話をするレイとルシア。
こうしてレイとアンは奴隷市場が開催されているという屋敷へ潜入する。
この時、開いた扉の横を一瞬風がすり抜けたのだが、屋敷の者が誰一人気にする事はなかった――




