三十.捜索、水の勇者ロイド登場
翌朝、レイとアンは、水の国の冒険者ギルドを訪れていた。
大理石をふんだんに使ったエントランス。商業都市のギルドだけあって、銅像や彫刻、壁面にも絵が飾られており、他国のギルドよりも豪華な造りとなっている。エントランスのホールは十人十色。様々な異種族の冒険者たちで賑わっていた。
【今日は気分を変えて黒いローブへと衣装チェンジしてみたわよ?】
(ああ、ルシア助かる)
この日、聞き込みをするに当たって、レイはいつもの漆黒の軽鎧ではなく、ルシアの力で顕現させた黒いローブに全身を覆っていた。尚、アンも白いチューブトップとショートパンツを外套で隠すようにしている。拉致した犯人を追うに当たり、あまり目立たないようにするためだ。
「レイ様……なんだか視線が気になります」
「気にするな、俺の傍に居ろ」
しかし、レイの目立たないようにする作戦は徒労に終わる。美しいライトグリーンの髪を隠し切れても、収穫を待つたわわに実った二つの果実が外套の隙間から主張しており、冒険者の視線はアンに釘付けだ。
【頭隠して乳隠さずね】
(いや、ルシア。その解説は要らないから)
気を取り直してギルドのクエストが並ぶ掲示板の前へ移動するレイ。レイが以前活動拠点としていた火の国のギルドと大きく違うところがあった。冒険者ランク別に近くのダンジョンへの魔物討伐クエストは勿論並ぶが、それよりも素材やアイテムの収集クエストや、依頼された物を運ぶようなクエストが目立つ。恐らく商業都市だけあって、商人からの依頼が多いのであろう。
人探しのクエストがないかも確認はしたが、見当たらなかった。少なくとも子供の行方不明者が多発しているという事例は見当たらない。レイは真剣な眼差しで掲示板を見ていると、背後から図体の大きな男に声をかけられる。
「お、そこのガキとお嬢ちゃん。この国のギルドは初めてかい?」
突然声を掛けられ振り向くと、銀色の鎧を纏った髭面の男が満面の笑みで立っていた。それなりに経験を積んだ冒険者なのだろう。敵意がないと判断し、警戒を解くレイ。
「ん、そうだが、それが何か?」
「なんだよ、つれないなぁ。掲示板を真剣に眺めていたアンタを見て、色々親切に教えてやろうかと思っただけだぜ?」
「いや、別に……」
別に教えてくれなくてもいいと思ったレイだが、情報収集には使えるかもしれないとスタンスを切り替える。
【どうやらランクも高い冒険者のようだし、ここは色々聞いておいてもいいかもよ?】
『そうだな、ルシア。そうするか』
脳内の意思伝達でルシアと会話し、男へ向き直るレイ。
「俺はレイだ。こっちはパーティのアン。じつは旅の途中で、水の国は初めてなんだ。善意感謝する」
「おうおう、そうかそうか。俺は水の都マーキュリアの大剣使いエンドだ。歓迎するぜ、レイ、アン!」
「えっとエンドさん、よろしくお願いいたします」
ペコリとお辞儀をするアン。揺れる果実に大剣使いが生唾を飲む音が確かに聞こえた。破壊力抜群なエルフの果実に対する生理現象だ。仕方ないのである。
「お、おう! フードの隙間から見える耳からして、嬢ちゃんエルフか。こんな美人のエルフを連れて旅だなんて羨ましいなレイ! ちなみに、あんたの女を取るつもりはないから安心しな」
ニィっと歯を見せる男。フードの奥からでもアンの頬と耳が紅く染まっていくのがわかる。
「あわわわわ。エンドさん。レイ様と私は、そ、そ、そんなんじゃないですからーー!」
両手をパタパタさせるエルフ。その様子があまりにも可愛くて、レイの顔も思わず綻ぶのである。
◆◇◆
剣士のエンドは水の都を拠点に活動しているBランク冒険者らしい。あのあと、彼から水の都について色々説明を受けたレイとアンは、奇しくも水の勇者ロイドの活動拠点まで知る事となる。
きっかけは掲示板にあったクエストの各依頼――右下に刻まれていた紋章だった。エンドから、それが水の都を取り仕切る商会の紋章であると教えてもらったのである。
運河のゴンドラやマーキュリア北に位置する港町リファーナとの流通、食産、観光を取り仕切るシュリンプ商会は船と海老をモチーフにした紋章。他国との貿易や、美術品、冒険者用のアイテムなどを取り扱うクレメール商会は、剣と盾をモチーフにした紋章。
各商会からギルドへ商売を支援する素材収集や食材集めのクエストを提供し、国の商業へと結びつける。よく出来たシステムだ。
「成程、じゃあ勇者ロイドは今、シュリンプ商会に居るんだな」
「だな、水の都と言えば西のシュリンプ、東のクレメールと呼ばれる程、二大商会が有名なんだ。ロイドはシュリンプ商会の依頼をよく受けているから、あそこへ行けばきっとその姿を拝めるぜ」
最近リファーナの港へ出没していた金等級モンスター――クラーケンを討伐するクエストを勇者ロイドが受け、討伐したばかりらしい。大型の船を一撃で真っ二つにしてしまう程の巨大な烏賊型魔物クラーケン。金等級を倒したロイドの実力は本物だと言えるのだ。
「初めての水の都だし、その商会も見てみる事にするか」
「おぅ、それがいいぜ。困った事があったら、俺は普段からこの通りを真っ直ぐ行った先の酒場に居るから、尋ねるといいぜ!」
「そうか、恩に着る」
「ありがとうございます、エンドさん」
レイとアンはエンドと別れ、石畳の通りを西に抜け、シュリンプ商会へと向かう。大きく紋章が掲げられた商会が見えて来ると、ちょうど扉の前に人だかりが出来ていた。
「おー、出て来たぞーー!」
「クラーケンを倒した英雄だ!」
「ロイド様~~素敵よーー」
町娘や商人、冒険者の取り巻きが左右に開き、道を空ける。背の高い高級素材の服を身につけた初老の男。その隣で蒼い髪の優男が左手をあげ、声援に応えている。
「あれが水の勇者ロイド」
一瞬女性と見間違えそうな肩まで伸びる髪。白いジャケットを着た水の勇者――ロイドの様子をレイは遠くから静観するのであった。




