ニ十八.遭遇
レイ達が到着する少し前、幼女姿のドワーフ三名と、男子姿のドワーフ一名が採掘場でツルハシ片手に歌を歌っていた。名を朱髪のアプリン、栗色髪のマロン、水色髪のドロップ、翠髪のピューマ。みんな土勇者ポポロンの弟子の子達である。
「♪トンテンカンテントンテンカン!」
「♪せいれーせきをとりましょお~~」
「♪あか、あお、きいろ、みどりにひかる~」
「♪キラキラきれいなせいれいせき~~~」
可愛らしいドワーフが軽快な動きで岩を砕き、精霊石を掘り起こしている。自分の身長くらいはあるであろうツルハシを軽々しく振るい、精霊石を採っては台車へと運んでいる。
そんな中、幼女、幼児へ声をかける上半身剥き出しの覆面男が現れる。後ろには迷彩のフードを被った男に、紫マントのお姉さん。どこからどうみても、いかにも……な怪しい集団である。
「おーい、居た居た。君たち確かポポロンのお弟子さんだろ?」
「そうだけど? おっちゃん達何の用?」
「ポポロンに緊急事態だからって君たちを呼んで来てって頼まれたんだよ」
「え? そうなの?」
「お店が盗賊に襲われたみたいよ? お姉さん達と一緒に来てくれる?」
「え? それは大変だ! でもここからだと戻るのに半日かかるよ」
どうしよう、どうしようと騒ぎ出す幼女たち。覆面男はポポロンとは知り合いで、たまたま事件現場に遭遇した事で、ここへ来るように頼まれたと説明する。紫マントのお姉さんが懐より水晶玉のようなものを取り出す。
「通常なら半日かかるけど、お姉さんが一瞬で移動出来る魔法のアイテムを持っているの。だから安心してついて来て」
紫色の光を放つ水晶玉。それまで黙っていた可愛らしい男の子、腕を組んだ状態で悩んでいる様子のピューマが口を開く。
「う~ん。でも、知らない人についていっちゃあダメだってポポロンお姉ちゃんも言ってたし……」
「大丈夫、そのポポロンお姉ちゃんから頼まれたんだから、ね」
お姉さんがウインクする。と、同時にお姉さんの身体から、何やら霧のようなものが出現していた。霧状の何かが弟子たちを包み込んでいく。
「どうしよう……あれ?」
「なんだか眠くなって……」
「おやすみなしゃい……」
倒れていく幼女を両肩へ抱える覆面男と迷彩フード。意識朦朧とした状態で眼前の大人を睨みつける男の子ピューマ。
「おまえら……わるいひとたちだな……」
「あら、あなたは効きが悪いみたいねぇ~。でも安心して、お姉さんと素敵なところへ行きましょう」
男の子が振るうツルハシは空を切り、力を失った事で地面へと落ちる。そのまま女の腕に抱き抱えられ気を失ってしまう。そして、妖しい水晶玉を天に掲げると、紫色の渦が顕現すると共に、周囲を包み込む。
そして、幼女たちを引き連れ、彼等はその場から姿を消すのだった――
◆◇◆
レイ達が駆けつけた時には既に、紫色の渦は消滅した後であった。
採掘していたであろう岩盤のあと、捨て置かれたツルハシ。そして、採掘された精霊石を積んだ台車。
「くそっ……ひと足遅かったか……」
「お弟子さん達は攫われてしまったのでしょうか……」
「もし、そうなら、精霊石がそのままである事を考えると、やはりドワーフの拉致が目的のようだな」
台車には色とりどりの精霊石と鉱石が山積みとなっていたのだ。
純度の高い精霊石はお金になる。それを捨て置いてもドワーフの拉致を優先したと言う事は精霊石が目的ではないという事になる。
【今ならまだ間に合うかもしれないわ!】
【そうね、まだ魔力の残滓が残っている】
声がした時には漆黒の靄と共にルシアがその場へ顕現する。リーズの傍には風精霊シルフも姿を現していた。
「どういう事だ、ルシア、シルフ」
ルシアとシルフは、この空間からとある魔力の残滓を感知出来ると説明した。混沌流へ渡る力を持つルシアならば、この残滓を辿り、空間転移による転送門を創り出す事が出来るというのだ。
「その魔力ってもしかして……」
「ええ、魔属性スキルから派生する魔法具ね」
「それって魔族が絡んでいるって事か?」
「それは分からないわね。空間転移を使える魔族ならば、魔法具を使う必要がない訳だし」
同時に複数人を転移させる事が出来る空間転移を扱える魔族ともなれば、相当な力の持ち主であるという。前回シルフの闘気を封じたあの宝珠も然り。やはり背後で何かが動いているに違いなかった。
「今から私は魔力の残滓を追って、転移先を捕捉する。その上で転移門を創るわ。リーズ、あなたは風精霊の翼による瞬間移動でポポロンへ報告してくれないかしら? この精霊石もそのままにしてはおけないでしょうし。あなたが此処へ戻ってき次第、犯人を追いかけましょう」
そう、リーズなら一度行った事のある場所へ単身で移動が可能。一瞬にしてポポロンへ現状報告が出来るという訳だ。それに、武具の精製にも精霊石は届ける必要があった。
「了解。では、すぐに戻る。精霊術、【風属性スキル】――風精霊の翼!」
「じゃ、またね~~」
リーズとその精霊シルフは採掘された精霊石を持って、すぐにポポロンの自宅へと転移する。広間の入口をレイとアンが見張り、ルシアが転移門創造に取り掛かる。
ポポロンへ現状報告をしたリーズはすぐに洞窟へと戻って来る。弟子たちの拉致という緊急事態。ポポロンも一緒に行くと申し出たそうだが、リーズは私達がなんとかするので、グランディ城へ緊急事態を報告した上で、武具の作成を続けてもらうよう、彼女へお願いして来たそうだ。
「もしも魔族が絡んでいるならば、国も監視しておくべき事態だからな。ポポロンも納得してくれた」
やがて、広間へ漆黒の渦が顕現し、同時に複数人が移動出来る空間転移用の転移門が完成する。
「普段は疲れちゃうからあまり使用しないのよね。緊急事態だから特別製よ」
「ありがとうルシア。行くぞ、みんな」
「はい、レイ様」
「転移先に何があるか分からない、みんな気を引き締めていこう」
闇収納顕現と言い、転移門と言い、闇精霊は規格外だとレイは改めて感じていた。ドワーフを拉致した者は一体誰なのか? まだ見ぬ新たな敵を追い、レイ達は漆黒の渦へと飛び込んだ――




