二十.魔族長ラウムの実力
「ほぅ……まだ粘りますか」
白い仮面を被った男は、苦悶の表情を浮かべつつも立ち上がる兎耳族の勇者を見つつ、仮面の下、笑みを浮かべていた。
キマイラの猛攻に傷つきながらも、返しに太刀を振るうリーズ。獅子の両前脚が斬り払われ、バランスを崩した獅子の脳天に刃を突き立てる。
「精霊術が……使えなくとも。私は……負けない!」
緑色の体液を飛散させ、叫声をあげるキマイラ。続けて巨大な胴体を斬り捨てリーズが着地すると同時、魔獣は轟音と共に地に伏す。
「【魔属性スキル】――魔の光線」
「くっ!?」
着地したリーズの左肩を黒い光線が貫通し、赤い鮮血が飛び散る。刀身を地面へつけ、右手で肩口を押さえるリーズ。
「負けない? どの口が言っているんですか?」
ラウムの右手から放たれる漆黒の波動により、リーズの身体が無情にも吹き飛ばされる。傷つきながらも立ち上がる女勇者。立ち上がるバニーガールの両耳を掴み、持ち上げるラウム。投げ飛ばされたリーズは地面へ叩きつけられる。
「かはっ……!」
「このまま殺しても面白くないですねぇ……存分に嬲った後、犯して差し上げましょうか。シルフの力をいただくのはそれからにしましょう」
この時、ラウムの背中にコツンと何かが当たる。魔族長の足許には拳大の石ころ。振り返った先には、震える両脚を必死に堪え、涙を溜めつつ佇む兎耳族の女の子。
「お、お姉ちゃんを、虐めるな!」
「ば、馬鹿……あの子!」
遠くから魔族長と女勇者の戦いを見守っていたらしい女の子が、リーズのピンチにあろうことか戦場へと飛び出して来たのだ。興を削がれ、軽く舌打ちするラウムは、指先を女の子へ向けひと言。
「ガキが……死ね! ――魔の光線」
女の子の心臓目掛け放たれる漆黒の光。しかし、闇の閃光は、女の子の身体を貫く事はなく、女の子を庇うように抱き抱えたリーズの背中を貫いてしまう!
「お、お姉ちゃん!」
「馬鹿だな。飛び出したら危険だぞ。でも、心配してくれてありがとう、私は大丈夫……だ」
女の子へ覆い被さるように倒れ込むリーズ。魔族長の高嗤いが無情にも周囲へ響き渡る。
「ハハハハハ! 馬鹿はあなたですねぇ~。そんなガキ一人を庇って自ら死に急ぐとは! 風の勇者、あなたはもう終わりですよ! ――魔の波動!」
掌を翳し、漆黒の波動を放つラウム。しかしこの時、魔族長は気づいていなかった。上空より滑空する双翼。その背中に乗る騎士の存在に。
「――お前が終わりだよ。【死属性スキル】――黒妖魔剣」
飛来すると同時にレイの魔剣が一瞬にして漆黒の波動を喰らう。白い仮面ごと斬り付けられたラウム。仮面へ罅が入り、服の上からついた刀傷より紫色の血が滲む。
「レイ……アン?」
「私の治癒スキルで回復させます。ゆっくり休んで下さい、リーズさん」
銀翼鷲より舞い降りたエルフがリーズの傍へと駆け寄る。巫女としての力を受け継ぐアンは、ある程度の治癒スキルを身につけている。リーズはそのまま気を失い、アンは女勇者の治療へと専念する。
「あなたたち……何者ですか」
「俺はレイ。この戦いに雇われたただの騎士だよ。お前が魔族長だな」
「フフフ、如何にも我は魔族四柱が一人。魔族長――朱雀のラウムですよ。誰が来ようが、我等の野望を食い止める事は不可能。我にひれ伏し、蹂躙されるが……」
魔族長が言い終わる前にレイの魔剣がラウムの眼前に迫っていた。ラウムは長く伸びた鋼鉄よりも硬い爪でレイの魔剣を受け止めるも、斬撃の衝撃により後方へと吹き飛び、石壁に激突してしまう。
ラウムの顔を覆っていた白き仮面が割れ、褐色肌の素顔が見える。爬虫類のような黄色の瞳。焼け爛れたような異形の顔。
「我の素顔を見ましたね……人間……許しませんよ!」
「許さないのはこっちだよ、魔族長」
怒号するラウムが五指から伸びた爪を出し、両脚で地面を弾く。レイの魔剣と鋭い爪がぶつかり合う金属音。すると一旦距離を取るラウムが指先より閃光を放つ!
「【魔属性スキル】――魔の光線」
先程リーズを貫いた黒き閃光。しかし、レイの心臓目掛け放たれた閃光は、軽鎧を纏う漆黒の闘気に呑み込まれる。そう、レイは既に死喰魔装を展開していたのだ。
「成程、おかしいと思いました。あなたの力……人間の力ではありませんね」
「だったらどうする魔族長?」
「こうするまでです!」
妖しく口角をあげると同時、ラウムはあのシルフの力を封じた宝玉を懐より取り出す。妖しく光る宝玉。揺らぐ大気。レイの身体を禍々しい妖気が包み込んでいく。
【レイ、あの宝玉がシルフの力を封じた原因みたいだわ】
『成程、そういう事か』
宝玉を狙って魔剣を振るうレイ。宝玉の力に屈しない眼前の少年に驚き、黒い波動で距離を取るラウム。
「馬鹿な。何故動ける!?」
「さぁな。あんたのその力、魔属性だろ? 力を奪う宝玉か何か知らないが、効果がないのは、俺の持つ死属性の劣化版だからなんじゃないか?」
「劣化版……だとぉ!」
黒き閃光も、黒き波動も、レイの魔装を貫く事はない。ゆっくりとラウムへ迫るレイは、右手の爪を魔剣で弾き、左手首を斬り落とす。飛散する紫色の体液。切断面を押さえて奇声をあげる魔族長。
「命を弄ぶような卑劣な行為。俺は怒っているんだよ、魔族長」
「くそぉ! くそぉ!」
レイの紅い瞳。蔑むような眼差しに、後退りする魔族長。しかし、最早手立てがないように見えたラウムはあの宝玉を掲げ、高嗤いを披露する。
「ハハハハハ! 此処まで我を本気にさせるとはな。我の力に滅びるがいい! 呪縛の宝玉よ、我に力を与え賜え!」
刹那、魔族長を取り巻く空気が一変し、紫色の禍々しい光と共に、爆発が起きる。爆風により強制的にラウムから引き剥がされるレイ。
【不味いわ……あの魔族長。縛っていたシルフの力の一部を取り込んだ】
「なっ」
ルシアがレイへ向け警鐘を鳴らしたと同時、上空より真空の刃が飛来し、鮮血が飛び散る。闇闘気で覆っていたレイの左腕に、この時初めて傷がついていた。
「サァ……蹂躙ノ時間デス」
レイが見上げる視線の先、そこには大鴉のような黒く染まった羽根。両脚に巨大な鉤爪を携えた褐色の体毛に覆われた鳥獣――本性を現した魔族四柱、〝朱雀のラウム〟の姿があった。
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