十二.イチゴバニーとメロンエルフ
「なっ、風の勇者だって?」
「闇の者よ、驚くのはまだ早いぞ?」
自らを風の勇者と名乗る彼女は口角をあげ、纏っていた外套を脱ぎ捨てる。そして、彼女の隠されていた全身を見た瞬間、レイは戦慄する!
「なん……だとっ!?」
今の状況を説明する間もなく羽織っていた外套を投げ捨てた風の勇者。兎耳に白く真ん丸な尻尾。黒い蝶ネクタイと肩を露出させた黒い衣装と網タイツ。
そう、風の勇者――リーズの格好は、どこをどう見てもバニーガールの格好だったのである。
「バニーガールだと!?」
【レイ、考えている暇はないわっ!】
それは一瞬の出来事だった――
レイが自らを風の勇者と名乗った女性を〝バニーガールの格好である〟と認識した時には、彼女の周囲に風の環が出現しており、次の瞬間には大きな刀をレイの頭上より振り下ろしていたのだ!
「……っ!? 速い」
「ほぅ、初撃を防ぐか」
先日レイが剣を交えたエルフ、ガルシアの比ではない。
ルシアの警鐘が無ければレイは恐らく風の勇者の剣戟に真っ二つとなっていただろう。振り下ろされた太刀筋は同時に顕現された魔剣によって受け止められ、彼女は一旦距離を取る。不敵な笑みを浮かべる彼女の両手には、華奢な体型に似合わない大太刀。しかし、その斬撃は、初撃一撃のみでレイの魔剣を持つ手にも痺れが伝わって来る程であった。
【風の勇者リーズ……あれは本物ね】
『とにかく話をしないと……今、彼女と戦う理由がない』
念話でルシアと会話をするレイ。大太刀に風を纏わせ、バニーガールは悠然と迫る。
「その魔剣。やはり君は闇の者……いや魔族……。君は此処で滅びなければならない」
「待ってくれ。あんた、何か誤解をしている。俺は戦闘スタイルが暗黒騎士なだけであって魔族ではない!」
「弁解はあの世で聞こうか。風精霊シルフよ、今こそ力を!」
誰かに話しかけるように彼女が最後言葉を紡いだ瞬間、レイの眼前から消えるバニーガール。刹那、懐へ入った状態でリーズは大太刀を横に薙ぐ。レイは、上体反らしで太刀筋を回避。左手を地面へ突き、返しに彼女の脚を狙って水面蹴りを加える。
しかし兎は地面を蹴って、そのまま跳ねる。空中で一回転する女勇者。着地と同時に反転し、大太刀を持っているとは思えない速さで剣戟を繰り出す。押し切れないと思ったのか、リーズがバックステップで距離を取ると同時――
「カザミドリ・序――風黄泉乃太刀」
「くっ!」
振り下ろされた太刀筋が無数の真空の刃となってレイへと襲い掛かる。魔剣を前に出し、レイが攻撃を受け止めるも、突如吹き荒れる風は彼の体躯を後方へと押し流す。
「レイ様!」
離れた場所よりレイの様子を見守っていたエルフ、アンが思わず叫ぶ。レイが声のした方を一瞬見やり、『大丈夫だ』と視線を送る。事実、漆黒の軽鎧で身を包んでいたお陰で、レイの身体が斬り刻まれる事はなかったのだ。
「さしずめそこのエルフも奴隷商会へ売ろうとしていたのだろう?」
「誤解だ。アンは俺の仲間だ」
どうやらリーズはレイがアンを連れ去ろうとしていたと誤解しているようだった。レイの言葉に耳を貸そうとしない彼女は再び両手で大太刀を構える。彼女の刀身に纏う風の音が周囲に響く。
【さっきのスキルは精霊術。やはり……風精霊の力を纏っているわね】
『嗚呼ルシア。そうみたいだな』
ルシアの念話に応えるレイ。周囲の空気を変える程のスキル。眼前のバニーガールは、本物の強さだった。
「あくまで白を切るつもりだな。いいだろう。風の刃で君を裁く」
「仕方がない……こちらもスキルを使って止めるしかない……」
なるべく死属性スキルを相手にぶつける事は避けたかったレイ。止む負えない状況にレイは魔剣を構える。そして、リーズが地面を蹴って、互いにスキルを放とうとしたまさにその時――
「リーズ様! レイ様! 止めてください!」
二人の間へ割り込もうと飛び出すアン。レイを庇うようにエルフが出て来た事で、リーズは地面へ太刀を突き立て無理矢理勢いを殺し、身体を一回転させてアンの眼前へと着地する。
「な、なぜ……君を攫おうとしている魔族を庇うんだ……?」
「風の勇者リーズ様。レイ様は魔族ではありません。私を助けてくれた命の恩人であり、パーティです!」
「アン!」
自身の前に立ったエルフの名を呼ぶレイ。『怪我はないか?』とアンを気遣うレイの様子に、風の勇者は平静を取り戻す。
「そうか。すまない。どうやら私の勘違いだったようだ……ん? 君……もしかして……!?」
「え? わたしですか?」
突然風の勇者はバニーガールの格好のまま、アンを頭からつま先まで凝視していき……。
「ライトグリーンの艶やかな髪。宝石のように輝くプラチナブルーの双眸。何より、破壊力抜群の二つ実った豊潤な果実……まさか……エルフの里の巫女――アン・エルメシアン・ディア?」
「ええと……はい。里の巫女をやっています、アンです」
精霊の意思を伝えるエルフの里の巫女。選ばれし存在だけあって、風の国では風の勇者と並んで有名な存在だった。戦いに集中している最中は気づかなかったが、リーズは目の前にしてアンの容姿と巫女の姿を重ね、その名を呼んだのである。
(何なんだこいつのメロン……こんなの歩く兵器じゃないか……決して、う……羨ましくなんか……ないぞ……)
そして、彼女は心の中で思うのだ。
――このエルフ、只者ではないと。
「あの……リーズ様?」
「否、何でもない」
風の勇者にまじまじと見つめられ、頬を赤く染めるアン。格好はセクシーなバニーガールであるリーズ、果実はまだ育ち盛りのなだらかなイチゴの丘だったのだ。自身の果実とエルフの果実とを見比べ、暫くぶつぶつと何か呟いている風の勇者は、アンの声かけに咳払いをし、ようやく我に返る。
「自己紹介がまだだったな。リーズ・シルフィー。此処、風の国で風の勇者をやっている」
「冒険者のレイだ。アンとはさっきパーティ登録をしたばかりだ。訳あって旅をしている」
互いに自己紹介をするリーズとレイ。リーズは既に、外套で露出度の高いバニーガール衣装を隠していた。
「それにしても君。私の攻撃を受けて傷ひとつついていない。それに異常なまでの〝闇の気配〟を感じる。私が魔族と勘違いするくらいに。それに……巫女と一緒のパーティというのも気にかかる」
「そうだな。リーズ、あんたには事情を話しておく必要がありそうだ」
火の勇者のパーティメンバーだったレイは、風の勇者には内情を話しておくべきだと判断する。
そして、そんな張り詰めた空気を打ち破るかのように……エルフのお腹の虫が鳴った。
グルルルルル――
「……あの……すいません。立ち話もなんですし、宿場町でお食事しながら話しませんか?」
「そうだな。いいだろう。お薦めのお店がある。連れてってやろう」
尖った耳を真っ赤にするエルフに少し笑みを零すリーズ。こうして三人は、宿場町の食事処へと移動するのであった。
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