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十一.収納スキルと風の勇者

 それは、風の谷(ブリーズバレー)へ向かう道中、はぐれ狼との戦闘を終え、素材となる狼の牙や毛皮を剥ぎ取り回収しようとしていた時に起きた。


「ん? どうしてそんな面倒な事をやっているのかしら?」

「おぅふっ!? ルシア。突然現れると驚くから!」

 

 融合していたルシアがいつもの黒レースの下着(ビスチェ)を漆黒の衣で包んだ姿で顕現し、レイの耳元で囁いたのだ。闇精霊はレイとアンがナイフで素材を回収しようとしている姿に首を傾げていたのだ。


「いや、面倒って、これが冒険者の資金源になる訳だから当然だろう」

「はぐれ狼の毛皮、ゲットしましたレイ様~~! って、ルシア様!?」


 アンが狼の毛皮を背負った状態で得意気にやって来たのだが、突然顕現していたルシアがレイと密着(・・)していたように見えたらしく、彼女の二つの果実が驚き振動する。


「いつ私が姿を見せても驚かないようにしないと、心臓と果実が幾つあっても足りないわよ?」

「ええ、ですから、せめて御姿を見せる際は……その……、レイ様との距離を保っていただけると幸いです」

「嗚呼、そういうこと。理解したわ」


 アンの言葉の意図を理解したルシアは立ち上がり、森の中、地に伏した狼の群れの前へと歩いていく。そして、レイへ説明する。


「レイ。私を誰だと思っているの? 闇精霊ルシアよ。この程度の死体、私にかかれば一瞬(・・)よ」

「なっ……これは!?」


 闇精霊ルシアが手を翳した瞬間、闇の渦が地に伏す狼の死体全てを呑み込んでいき……やがて、十数体あったはぐれ狼の死体はその場から消失したのである。


 そして、場面は先程のギルドのシーンへと戻る。


【死属性スキル】――闇収納顕現(カオスストレージ)


 生と死の狭間の空間である混沌流(カオスロード)と現実世界とを渡り歩く事の出来る闇精霊ルシア。彼女の空間を移動する力に派生する上級(・・)スキルだ。


 次元という枠組みを超えた〝闇の空間〟へ指定したものを取り込み、ルシアの権限により隔離する。そして、スキルを再度発動する事で、いつでも指定した対象を取り出す事が出来るというかなり重宝するスキルなのである。


冒険者が普段、素材を回収するといっても、そう簡単にはいかない。空間を一瞬で移動出来るような強力な能力でもない限り、ランクの強い巨大な魔物となると、素材の一部を回収する位しか出来ないのだ。


「銅等級――はぐれ狼(ストレイウルフ)の死体が十二体……しかも丸ごとって……有り得ないです」


 レイが広い部屋を用意した理由は二つ。一つは混乱を避けるため。十数体の魔物の死体が突然ギルドの正面ホールに出現したなら、大変なことになるだろう。


 もう一つは目立たないようにするため。彼には復讐という旅の目的もあるため、なるべく目立つ行動は控えておきたかったのである。


「びっくりしました。……って、レイさん!? 冒険者になる前、何をされていたんですか?」

「すまない。それは言えないんだ」


 これは、誰がどう見ても普通のスキルではない。駆け出しの冒険者が使える代物ではない事は明白。ゆっくり首を振るレイの様子に、ショコラは咳払いをし、それ以上詮索しない事に決める。


「わかりました。それにしても……こんな空間を扱うスキル……初めてみました」

「ね、凄いでしょう、ショコラ」


 収納する現場を一度目撃しているアンは鼻高々な様子だ。


「これで幾らくらいになりそうかな?」

「ちょっと鑑定しますので、暫くお待ちください」


 はぐれ狼の毛皮は冷気への耐性もあり、防御力も高く重宝される。牙も殺傷力が高いため、武器の素材として扱われる事が多いのだ。勿論死体が新鮮ならば肉も食用肉として食べる事も出来るのだ。


 他にもお辞儀桜草(ペコリンチェリー)の蜜や、薬草、赤丸茸(レッドマッシュルーム)などという素材を鑑定してもらう。


「はぐれ狼の死体の状態も非常によかったです。一体につき金貨1枚。他の素材もありましたので、合計金貨13枚、銀貨5枚になります」

「こんなになるのか」


 一度の素材換金で貰える金額を考えると破格の金額であった。これで冒険に必要なアイテムを買うお金や宿代に困る事はないだろう。

 

「す、凄いですね! 美味しい物いっぱい食べる事が出来ますねっ!」

「ショコラ。恩に着る」


「いいえ、ギルドとしてもこれだけ新鮮な素材。とてもありがたいです」


 ショコラへお礼を伝えるレイとアン。ギルド正面ホールへと戻り、このあとどうするのか聞かれたため、今日は宿場町を散策したあと、そのまま宿へ泊まる旨を伝える。するとショコラは、冒険者ギルドからの注意喚起をレイとアンへ伝える。


「せっかくのブリーズバレー。堪能して下さいね。ただし、最近、国は今、魔族の襲撃に備えて厳戒態勢です。国直轄の兎耳騎士団――ラビリオウイングと風の勇者リーズ様が都周辺地域の調査と警戒に当たっています。くれぐれもお気をつけ下さい」


「魔族の襲撃!? 都がそんな事になっているなんて知りませんでした」

「成程、了解した」


 魔族――魔物を率いて国々を襲い、自身の欲望のために動く存在。レイは、火の国(イグニスフレイア)に居た際も、勇者パーティの一員として国を脅かす魔族とその背後に潜む魔族長を探し出し、討伐する命を担っていたのだ。


「大丈夫です。レイ様の強さなら、魔物だろうと魔族だろうと関係ありません!」


 自信に満ちた表情をしたエルフの果実が二つ。上下に激しく揺れていた。ホールに居た冒険者(おとこ)達の目が釘付けとなった事は言うまでもない。


 

 

「どこの国も魔族との争いは変わらずか」

【そう、魔族の存在……。物騒ね】


 火の国にて正義のために騎士として剣を振るっていたレイ。国が変わっても蠢く闇に対する脅威は変わらないようだ。そして、宿場町へと向かう道中、背後からの気配に気づくレイ。


「アン、俺の背後に下がっていろ」

「え? レイ様」


 人気のない場所で足を止め、アンを自身の後ろへ素早く下げ、振り返るレイ。


「国の平穏を脅かす闇の者よ。私、風の勇者――リーズ・シルフィーが成敗してあげよう」

「なっ、風の勇者だって?」


 そこには自らを風の勇者と名乗る、銀色の外套を纏った兎耳を携えた女性の姿があったのだった――

【読者の皆様へ】


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