十.ご注文は兎耳ですか?
「此処が風の国の都、風の谷か」
切り立った二つの崖の間に創られた都――風の谷。コテージのような家が立ち並び、中央の街道には宿場町のようなお店が立ち並ぶ賑やかな場所も見える。
「あの山の中腹に見えるのが、風の国を治める兎耳族の王や貴族達が住んでいるキャロット宮殿ですね」
遠く山の中腹に見える石造りの宮殿。尖塔の先、人参を象った装飾も見える。装飾は兎耳族の趣味趣向だろう。
「それにしても、これだけみんな兎耳なのは凄いな」
「風の国は元々私達エルフや兎耳族、鳥人族などの亜人中心の国ですからね」
そう、この風の谷の住民。冒険者らしき装いの者以外は皆、頭の上に長く白い耳、真ん丸な尻尾を携えた兎耳族なのだ。尻尾をフリフリさせつつ歩く兎耳の女性や少女は見ていて誰もが可愛らしいと思える容姿だった。
「まずは旅の資金が必要だな。アン、道中回収した素材を買い取って貰える場所はあるかい?」
「宿場町の近くに冒険者ギルド~ウイングシルビア支部があります。まずはそこへ参りましょう。情報収集も出来ますし」
「そうだな。ギルドでちょっとやっておきたい事もあるしな」
レイは風の谷を進み、アンの道案内で冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルド――ウイングシルビア支部。ギルドは各国に支部があり、冒険者登録やクエストの照会、パーティメンバー紹介や、素材の買い取りなど、様々な役割を担っている。
高い天井の大きな建物に入ると、アンは何名か座っていた受付嬢のうち、正面奥の受付に座っていた茶色の兎耳をヒクヒクさせていた女の子へ声をかけた。どうやら知り合いらしい。
「いらっしゃいませ。って、アンさんじゃないですか! お久し振りです!」
「ショコラちゃんお久し振り。今日は素材を持って来たの。それから紹介したい人が居て……」
なぜか頬を赤らめつつ、アンが振り返ったところで、漆黒の軽鎧を身に纏ったレイが受付をしていた兎耳族の女の子へお辞儀をする。
「レイと言う。素材の買い取りに来た。仲間登録と併せて、冒険者の新規登録をお願いしたい」
突如眼前に出現した漆黒の騎士。レイの鋭い眼差しに、一瞬業務を忘れてボーっとしていた受付嬢ショコラだったが、すぐに我に返って仕事モードへと切り替える。
「え、あ。はい! わかりました。ではこちらへ必要事項をご記入下さい。冒険者カードをご準備しますね」
「ああ、頼む」
そう、あの時、肉体ごと全てを燃やされ消滅したレイ。生前、銀色のBランクに到達していた冒険者カードも所持している筈もなかった。むしろ、勇者にレイが生きていると特定されず動くためには、暗黒騎士というスタイルでゼロから冒険者登録をする方が好都合だったのだ。
冒険者ギルドが発行するプレート式のカード。タグとして首からかける事も出来る仕様で、カード内には冒険者としての身分や強さ、戦闘スタイルを記録するための魔法術式が組み込まれている。外縁の色はランクの強さを示しており――
Sランク ――白金 /魔物ランク、白金等級相当
Aランク ――金 /魔物ランク、金等級相当
Bランク ――銀 /魔物ランク、銀等級相当
Cランク ――銅 /魔物ランク、銅等級相当
Dランク ――青 /魔物ランク、中等級相当
Eランク ――緑 /魔物ランク、低等級相当
となっている。
尚、それぞれの強さの基準は以下の通り――
Sランク―― 伝説級。一人で国家戦力に匹敵するレベル。勇者のように、特別な功績を認められなければ与えられないランク。
Aランク―― 強力なスキルを持ち、大都市を滅ぼすレベルの上位ランクの魔物と戦う力を備えた者。
Bランク―― 一国の小隊レベルに匹敵する強さ。小さな村を殲滅するに匹敵する魔物と戦えるスキルや力を備えた者。或いは小隊を鼓舞する強力なサポートスキルに優れた者。
Cランク―― 冒険者として経験を積んだ者、複数の魔物を相手に戦う事の出来る者。
Dランク―― 戦闘に慣れた冒険者。同ランクの魔物なら討伐可能。
Eランク―― 初めは皆このランクから。駆け出し冒険者。
尚、国に認められた勇者グラシャスはSランクだったが、パーティの一員であったレイは特出したスキルを持っていなかった事もあり(勇者が手柄を全部自分のものにしていた事情もあるのだが)、Bランクの銀色であった。
受付嬢のショコラが手早く登録を済ませ、新しい冒険者カードをレイへ渡す。
「これで、登録完了です。戦闘スタイルは〝騎士〟ですね。格好もお似合いですし、合ってると思いますよ? 初心者さんですので、初めは緑の縁になっています。ギルド認定のお店では、この魔法陣の部分を翳して……」
レイが新規登録と言う事で、ランクの説明や、ギルドの保証内容等、丁寧に説明していくショコラ。ギルドに元勇者パーティである事がバレると火の勇者にも自身の生存を伝える事になる可能性があるため、あくまで新人冒険者として振る舞うレイ。
「でも、アンさん。以前より冒険者登録をしていたとは言え、箱入り娘であるアンさんが仲間登録するなんて、何かご事情があるのですか?」
「実はですね……」
アンは、自身が魔物に襲われていたところをレイに助けられた話、冒険者として目的を果たしたいというレイに寄り添いたいと思い、一緒に旅する決意をし、今に至ったという話をショコラへしていく。
〝アンが魔物に助けられた〟シーンを説明していた際、兎耳嬢が真ん丸な赤い瞳を輝かせていたのだが、レイは気に留めていなかった。
「素敵なお話です。レイさん、アンさんをよろしくお願いしますね」
「ん? 嗚呼」
目を輝かせるショコラの発言に一瞬首を傾げたレイだったが、魔法陣が描かれた羊皮紙へ手を翳し、変更届を完了させる。
「これで、わたしとレイ様は晴れて一緒のパーティですね」
「嗚呼。よろしく頼む」
「もちろんです!」
改めて握手を交わすレイとアン。
手続きを終えたショコラがレイへ話しかける。
「登録手続きは以上となりますね。あ、あとは素材の買い取りでしたね? 見せていただけますか?」
「実は此処では見せる事が出来ない。広い部屋を案内してくれないか?」
一瞬エルフの方へ視線を流したショコラに対し、『大丈夫ですよ』とアイコンタクトで促すアン。すぐにギルド奥の広い部屋を用意してもらう事となる。
「アンさん、アンさん」
「なに、ショコラちゃん?」
「レイさんカッコイイですよね! 実はもう、彼氏彼女だったりするんですかぁ?」
「そ、そんなんじゃないですってば!」
移動中、レイが見えないところで、ショコラがアンへ小声で話しかけた事で、エルフの尖った耳が真っ赤に染まる。このあと質問攻めに合うエルフは、羞恥で頭から蒸気を噴出していた。
広い部屋へと移動したレイ達。これにはある理由があった。
「レイ様、此処なら誰にも見られる事はありませんよ」
「すまないショコラ。これから見る事は他言しないで欲しい」
「え? はい、わかりました」
受付嬢のショコラへ念押しをしたあと、念話で闇精霊へ話しかける。
『ルシア、あれを頼む』
【ええ、いつでもどうぞ】
「【死属性スキル】――闇収納顕現、発動!」
レイが手を翳した瞬間、目に視える漆黒の渦が出現し、渦の中が蠢き、床へと何かが放出された。一瞬何が起こったのか逡巡した様子の受付嬢は、眼前に広がる光景に目を見開く事となる。
「え? これって!?」
そこには森で集められた花や蜜、きのこなどの素材に加え、中等級――はぐれ狼十数体の死体が丸ごと並んでいたのだ。
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