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初めてのボスせ…あれ?

 ダンジョン探索三日目、今日は地下四階のマッピングを行う。ランドセルだけでなく予備の手提げ鞄も用意したので、準備は万端である。

 なお方眼ノートに記録を取りながらで、両手が塞がって咄嗟に超重力砲を撃てなくても、自動追尾弾を常時浮遊させているので問題はない。…はずである。


「もしかして、レベルアップした?」


 私は周囲三方向に浮遊させている自動追尾弾を観察する。その結果、索敵範囲と再装填時間が向上していることに気づいた。

 そしてたった今、曲がり角の先に軌道を変えて飛んでいったので、大いに驚く。


 慌てて小走りに様子を見に行った私の足元には、黄色い小石が二つ転がっていた

 もちろん速やかに回収してランドセルに詰め込みながら、疑問に思ったことを口に出す。


「昨日までは私が見える範囲に直線軌道だったのに…」


 メイドフォームでない私は相変わらず鈍くさくてへっぽこなままで、何も変わっていない。

 しかし魔物を倒したり練習を重ねれば、身体能力や魔法が成長するらしいし、そのおかげで自動追尾弾も強化されたのかも知れない。


「成長したのはメイドフォームだけ? …何で?」


 成長速度は人それぞれなので、たまたま本体が育つのが遅いタイプなのかも知れない。しかしこれでは常にメイドフォームでいさせるために、変身状態のみを強化していっているとしか思えない。




 だがただその場で考え込んでいるには時間が勿体ないので、首を傾げながらも地下四階の探索を再開する。


 途中で毒々しいカエルや大きな蛇といった、この階層で初めて目にする魔物も現れたが、見ても見てなくても自動追尾弾が勝手に敵を消し飛ばすので、私は方眼ノートにマップを書き込んでいくだけだ。


「あー…そう言えば、解毒ポーションを用意してなかったよ」


 綺麗な石を拾ったり宝箱を開けたり、他はマッピングを続けているうちに地下四階の探索はすんなり終わった。

 私は下り階段の前にレジャーシートを敷いて腰を下ろし、用意してきたサンドイッチを美味しくいただく。


 入ってすぐの魔物はスライムとゴブリン、そしてコボルトぐらいなので、毒を受ける心配はなかった。

 だが今はポイズントードとグリーンスネークが出現するようになり、毒を受ける危険がでてきた。


「状態異常は個性魔法でも肩代わりできないって聞くし、ちょっと不安かも」


 もし私が毒を受けたら、着ているメイド服がジワジワと変色していくのだろうか。そのような状態になったことがないので、今は想像することしかできない。


 それでもいざとなったら魔力を吸わせて修復し、ダンジョンを脱出して最寄りの診療所に駆け込んで治療を受ける。もしくは薬局で解毒ポーションを購入する必要がある。

 備えあれば憂いなしだが、今の自分は準備が整っているとは言い辛かった。


「よし決めた! 明日は役所に行こう!」


 サンドイッチを食べ終わったので、包装に使ったサランラップをポイッと捨てて立ち上がる。

 役所の魔法科に行って魔石やアイテムを売却すれば、解毒ポーションを購入する資金が手に入る。

 だがその前に地下五階の探索を行うのだが、常に自動追尾弾を展開して一定範囲内に近寄らせないので、毒を受ける心配は全くなさそうだ。


 ペットボトルのお茶を小さな口からゴクゴクと飲んで、プハーッと一息つき、ランドセルに仕舞った後、私は慎重に下り階段を降りていくのだった。







 地下五階は四階よりも薄暗いが、壁にはめ込まれている異世界の蛍石が微かな光を放ち、歩くのに不自由のないぐらいの明るさが保たれていた。

 念のために灯油式のカンテラを持ってきたのだが、どうやらその必要はなさそうだ。


「宝箱から手に入った具足とか剣がかさばって、持ち運びが面倒だよ」


 宝箱を開けて入手した金属製の具足と剣を手提げ鞄に詰め込もうとしたのだが、防具はともかく武器は難しく、結局私が手で持って運ぶことになった。

 直接振るおうとすると電流が走ったように痺れるので装備することはできない。しかし持ち歩くだけなら、邪魔だが問題はないのだ。


「相変わらず毒持ちの魔物が出るし。あー…ポイズントードとグリーンスネークだよね?」


 浮遊する黒玉の追尾性能が天井知らずで上がっていき、今は私が全く気づかないうちに倒されている。

 そして無人のダンジョンに落ちている綺麗な石を拾いながらマッピングするという、何だか良くわからない攻略方法を確立してしまっている。

 地下四階の魔石の色と大きさが酷似していたので、毒持ちの魔物が倒されたのだと気づけたのは幸いだった。

 そうでなければ自分が倒した相手のことが、わからず終いであった。


「うーん、冒険者用のリュックサックが欲しいなぁ。魔石や道具を売ったお金で買えないかな?」


 ランドセルにはこれ以上詰め込めないので、拾った小石を手提げ鞄に放り込みながら愚痴をこぼす。

 祖母は昔こそ売れっ子ファッションモデルで貯蓄も十分にあるが、貧乏生活が染み付いている。

 なので使ってない荷物入れを探すのは大変で、そろそろ自分専用の物が欲しいと思っている。


「片道切符か往復できるかはわからないけど、帰り道のことを考えなくていいのは気が楽だなぁ」


 今回は地下五階なので、フロアボスを討伐すれば転移の魔法陣が現れて、地上までひとっ飛びだ。最深部なら今後は自由に往復できるが、さらに下層があれば一方通行だ。

 しかし帰りの時間と回収分を考えなくていいので、気楽である。


「…残りはボス部屋だけになったんだけど」


 特に見どころもなく綺麗な石を拾いつつ、第五階層のマッピングも済んだので、残りは立派な大扉の向こうを残すだけとなった。

 その前に初めてのボス戦ということで、長丁場になることを覚悟して、カロリーメイトのフルーツ味を齧っておく。

 さらに水筒のお茶で乾いた喉を潤して、一息つく。


「最低ランクのダンジョンなら、地下五階のボスを倒せば終わりらしいけど。どうなんだろ?」


 最深部のフロアボスの討伐を終えるとそのダンジョンはクリアー扱いとなり、以後地上と最下層を自由に行き来できるようになり、氾濫は発生しなくなる。

 異世界からの魔物の流入が止まるかららしいが、それ以外にも複雑な事情が絡み合って起こっていると言うのが、専門家の見解だ。


 だが実際に攻略する冒険者にとってはそのようなことはどうでもよく、ボス討伐後に必ず出現する宝箱のほうが、何よりも重要であった。


「ダンジョン攻略に夢を見る気持ちはわかるなぁ」


 昔はともかく今のダンジョンは魔石や素材、宝箱の取れる金鉱だ。毎年多くの死者や行方不明者が出ているが、それでも一攫千金の冒険者を夢見る人間は多い。

 我が家の庭に沸いた最低のEランクから、国が厳重に管理しているAランクまで、危険度は様々だ。


「世界の何処かしこで、毎日新しいダンジョンが沸いてるって言うし。

 そう言えば隣町では、ダンジョン探索で入場料を取ってったっけ」


 私も最初は入場料を取って間引きを頼もうかと考えたが、祖母は見知らぬ人を家の敷地に入れるの嫌ったのだ。

 だが何より、片方はそろそろお迎えが近いしもう片方は平日は中学校に通っている。つまり管理する人手が足りなかった。

 最終的に地元の役所に駆除を頼むことに決まったのが、もし彩花にその気があるなら…と、冒険者証を発行しに同行してくれた。


「…おっと、考えるのは後にして、今はダンジョンボスだね」


 いくら自動追尾弾が休まず警戒しているとはいっても、大扉の前でのんびり考え込んでいては日が暮れてしまう。私は頬を手で軽く叩いて気合を入れ、重そうな石造りの扉をグッと押し込む。

 すると拍子抜けするほどあっさりと開いていき、おっかなびっくりに大部屋に足を踏み入れる。


「うわっ! やっぱり勝手に扉が閉まったよ!」


 何歩か歩くと重い音がして背後の大扉が閉まって逃げ道を塞がれ、中央の魔法陣が光り輝く。そして十秒程度で鎧姿で大剣を構えた巨大なオーガが実体化する。

 私自身が幼女サイズなのもあるが、パッと見た感じ二メートルはあるので思わず圧倒されるほどの巨体だ。

 だが立ち竦んでいる時間はないので、何よりもまずは行動しなければいけない。


「先手ひっ……へ?」


 私は巨体のオーガに向けて右手を構えるが、それよりも先に自動追尾モードにしていた黒玉が射出され、頭、足、手、腹、大剣、鎧…等、あらゆる部位を瞬時に消し飛ばしていった。


 それはまるで旧時代のガトリングガンに匹敵する連射速度であり、結果的に敵も私も棒立ちのままで勝敗は決してしまった。戦闘開始から僅か十秒足らずの出来事であった。

 他の魔物よりも大きな魔石が石畳にゴトンと落下し、続いて魔法陣がパアッと輝き、派手な演出と同時に宝箱が現れるのを、私は呆然と見つめるしかなかったのだった。


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[良い点] 3/4 ・カロリーメイト フルーツ味 美味しいですよねw
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