対策会議を開きました
かつて世界が誕生して間もない頃、北の果ての大陸で邪神と光の神の戦いが起こった。
その影響で陸地の殆どは海中に沈んでしまい、今では大きな島が一つ残るだけとなった。
「島には古き神々が命を削り、邪神たちを封印した神殿が残されている。
内部は広大なダンジョンとなっているが、地下何階まであるのかはわからん。
しかも今は結界が解けかけているのか、怪物共が際限なく湧き出てくきている」
王城の大会議室で、国王様から日本へ帰還する手がかりを得ようと話を聞いているのだが、これは多分だが地球にあるダンジョンと同じだろう。
一応別種の可能性もあるが神様が絡んでいる時点で、そっちのほうがらしいと思った。
「もしかして、五階層ごとにフロアボスが出たりする?」
「その通りだ。五階層ごとに強敵が現れ、倒せば財宝が手に入り、地上に帰還する転移の魔法陣が起動するんだ。もっとも、片道だがな」
国王様の話を聞き、私は内心で喜んだ。ここまで規模が大きいダンジョンならば、最深部の転移の魔法陣を使えば、また事故が起こって今度は逆に日本への帰還が叶うかも知れない。
だがそこでふと、神々の伝説を思い出して首を傾げる。
(精霊が私のことを邪神に敗れた古き神って言ってたのは…?)
命を犠牲にして邪神たちを封印した古き神々は、最深部の転移の魔法陣から地球に渡って来たのかも知れない。
だが神殿内部で魔物数が増え続けて、さらに力を増すことで結界を破り、現在進行系で氾濫などという危機的状況に陥っている。
ついでに言えば、神様は力を与えたりメッセージを送るだけで、直接魔物を討伐したりはしない。これは過去の戦いで肉体を失ったせいなのかも知れない。
となると、最初にこちらに転移したときに見かけた巨像は古き神々であり、私は彼女たちの装備を身にまとって、代わりに邪神と戦っていることになる。
だがまあ神々の思惑がどうあれ、自分がやるべきことは一つだ。
「北の果ての大陸に行って、私が神々の神殿を攻略する」
「本気か!? いくら邪神殺しだろうと…!」
「ダンジョン攻略は慣れてるから、大丈夫」
「しかし強敵は邪神だけでなく広大な迷宮と、最深部には大邪神が封印されているのだぞ!」
ワイルドな国王様が頭をかきながら渋い顔をする。確かにあんな怪獣がたくさん居たら、ダンジョンを攻略するのも一苦労だ。
だが超重力砲でちまちま駆除していけば先へは進める。
それでもナビ子の案内があっても、移動距離の問題はどうしようもない。時間をかければその分、登山用のリュックサックに詰め込んだ食料が減っていき、最悪途中で引き返すハメになってしまう。
大会議室に集まっているメンバーは私の強さを知っており、さらにパメラは邪神殺しをべた褒めするので、最初は無謀な試みは止めるようにと心配していた国王も、すぐにワンチャンあるでぇ…と協力的になる。
そして何とか神々の神殿の最深部まで潜る方法はないだろうかと、皆でああでもないこうでもないと相談することになった。
「ふむ、ならば一粒食べれば、三日飲まず食わずでも平気になる豆が…」
「あるの!?」
「あー…いや、神々の神殿の宝箱から手に入ったと、先々代がな」
邪神の軍勢を抑え込むには、全ての魔物生みの親である大邪神を倒し、間引きではなく氾濫そのものを起きなくするのが、一番手っ取り早いらしい。
人間がどれだけ束になろうと、指先一つで軽く蹴散らすような恐ろしい存在だが、私ならばきっと勝ち目がある。
ちなみに魔法副団長も大火球を三連続で発動で放てるので、決して弱くはない。それどころか地球では、上位ランカーに名を連ねることができる。
ただメイドフォームが、それ以上に頭がおかしいレベルで強いだけだ。
結局長時間話し合っても良い案がでなかったので、次回までの宿題になった。
次の日の早朝、私は神々の神殿をナビ子に検索させて、目標地点を定めるや否や、漆黒の翼を展開して大空に舞い上がる。
ジェット機以上の速度で海を渡り、長い年月が経っているがまるで風化していない神々の神殿に足を踏み入れて、自動追尾弾で五階層まで駆け足で踏破し、間引きを完了させた。
そして証拠として戦利品をリュックサックに詰め込み、何とか夕食前には帰宅できたのだった。
私の日帰り攻略を知った国王や重臣たち、そしてパメラも驚愕し、これで数年は氾濫が起きないはず…と、気休めの言葉をかけておいた。
感知石がないので、信用度は大したことないが、ダンジョンに関しての経験豊富な自分の直感は、ある程度信頼できるはずだ。
とにかく一段落したので、お風呂に入ってさっぱりした後、経過を聞きたいと国王様に呼び出された。
私とパメラは顔パスで執務室に入り、ワイルドなおじさんやその他数名の重臣と向かい合うように、用意された席に座る。
「アヤカ殿が定期的に間引きをするだけで良いのではないか?」
「嫌だよ!」
開口一番に真面目な顔で、冗談か本気がわからない提案をしてくる国王様を、はっきりと否定する。
「今なら新たなメイドたちと女暗殺者もつけるが、…駄目か?」
「絶対にノウ!」
私を籠絡しに来たお姉さんは、今は国王様の飼い犬になっている。
何とも釈然としない結末だが、命を取られなかったし、キスは気持ち良かったからいいかな…と、受け入れてしまっていた。
同性には甘いからこそ致命的な弱点なのだが、私自身ではどうにも修正できそうにない。
「もしまた襲わせたら国王様のこと、許さないから」
「わかった。アヤカ殿には手を出さないようにと伝えておこう」
これは政治家の秘書が勝手にやったことですとか、言い訳が通るパターンではなかろうか。
ついでにメイドたちに関しては何も言っていないが、知らないうちに世話役が増えている可能性まで出てきた。
パメラのガードが崩されないように、気をつけなければいけない。
「ところで世界中の邪神を討伐してくれているのは、アヤカ殿か?」
「あれは邪神じゃなくて巨大怪獣よ。それで質問の答えだけど、確かに私が倒してるよ。
ナビ子の検索に反応しなくなったから、もう全滅したんじゃない?」
ナビ子に惑星全土を検索してもらい、近場の怪獣を見つけたら行動開始。敵の意識外である上空から飛来して、超重力砲による一撃離脱を行う。
遮蔽物のない空から落ち着いて狙えるので、駆除もスムーズに行えた。
「中には攻撃を防ぐタイプも居たけど二発で沈んだし、何とかなって良かったよ」
バリアを張って超重力砲を防ぐ怪獣も居たが、ならば壊せるまで威力を高める…と、脳筋的思考で二発目を放った。
すると私のフワッフワな考えを忠実に再現し、ちょうど防御を貫くだけの力を発揮して、次弾であっさり消し飛ばして巨大な魔石となった。
「いやはや、素晴らしい! 流石は邪神殺し殿だ! これはぜひ王都に招待し、国をあげて歓迎せねばならぬな!」
「ならば私がイチオシの名店を紹介しよう! きっとアヤカ殿も満足しますぞ!」
「ふむ、ではピンクラビリンスはどうだ?」
「国王様! あそこは当たり外れが激しゅうございます! 儂ならば…」
スイートキャンディなら年齢的に…。指名は王命で複数当てれば…。いやいやそれならば…と、男性陣の間で熱い議論繰り広げられて収拾がつかなってしまい、その日の会議はお開きになった。
私もパメラも国境沿いのお城に住んでいるが、別にそこの住人ではない。実際には根無し草であり、王都に招いてくれるなら観光に行くのもやぶさかでない。
しかし国王様たちが熱く語り合っていたのは、中学二年生の女子が喜ぶスイーツの美味しいお店や、お洋服やジュエリーのショップではない。
彼らが熱く話しているのは、綺麗な女の人が複数で接待をして、ベッドの上でくんずほぐれつする、未成年者お断りのお店である。
確かに一度体験すれば彼らと同じでドハマリし、王国側に天秤は傾くだろう。
味方に引き込むのに必死な首脳陣に、そんなに欲しいんだ…と、私は何とも釈然としない表情になり、パメラと一緒にまだ議論が続いている執務室を、静かに立ち去るのだった。