採用試験を受けることになりました
今回ガールズラブ描写がありますので、苦手な方はご注意ください
昨日は何だかわからないうちに、ずっと楽しみにしていたお風呂タイムが終わってしまった。
その後目が覚めたらパメラの抱き枕になっていて、天蓋付きのキングサイズベッドで横になっていた。
何故かお互いに全裸だったので、慌てて自分の体を調べたら何処にも異常はなく清いままだった。
私は、大きく息を吐いて一安心し、隣のパメラは余程疲れていたのか、幸せそうな顔でぐっすりと眠っていた。
ふと眺めたカーテンの隙間から、地平線の向こうから昇る朝日が差し込んできても、一向に目覚める気配はなく眠り続けている。
昨日は服を脱いで風呂に入り、メイドさんたちに全身を洗われたことは覚えているのだが、その後はさっぱり記憶にない。
綺麗好きの日本人としては、せっかく早起きしたんだから、今度はじっくりと朝風呂に入りたい…と思い、パメラを起こさないよう両手両足を引っ剥がし、ベッドの上から飛び降りる瞬間、メイドフォームに変身する。
「何処かにあったメイド服を呼び出して装着しただけだけど」
思えば島のダンジョンに入ってからずっと変身状態でバンバン魔法を使っているが、よく魔力が保つものだ。
本当にメイドフォームは謎だらけだが、役に立っているし考えてもわからないので、あっさり思考を放棄する。
何となく辺りを回すと、王族待遇と言うだけはあり、二人部屋にしてはやけに広いし、装飾付きの家具やカーペット、飾られている絵画や壁紙等も見事で、キングサイズベッドも隣り合うように二つ並んでいた。
「パメラも、別々のベッドで寝ればいいのに…」
私への依存がどんどん強くなるが、それも近いうちに終わるだろう。隣国に着いたので、これからは同じ異世界人や親族と絆を育み、亡国の王女の心はじきに癒える。
「パメラはここに置いていくとして、私は日本に帰る手段を探さないとね」
通訳係は欲しいが、ゆっくり喋ってもらえば簡単な意思の疎通程度なら何とかなる。私がパメラの面倒を見る必要も、もうないのだ。
それよりも今は朝風呂だとばかりに、ウキウキ気分で扉に向かって歩き、ローファーで柔らかなカーペットを踏んで、ドアノブを軽く回して廊下に出る。
すると外には昨日会ったばかりのメイドさんが二名、身なりを整えて待機していた。
「……?」
「えっ…ええと、お風呂…お湯?」
「浴場に、ご案内します」
対応したメイドさんたちは深く頭を下げて、背を向けて王城の廊下を歩いて行く。
まさか私の拙い異世界語が通じて、すぐに答えを返してくれるとは思わなかった。王族待遇でもてなすと言っていたので、きっと優秀な人を付けてくれたのだろう。
脱衣所で服を脱いだ後は、もう一度メイド衆による全身洗いが行われたが、パメラが居ないからか、昨日は数人程度だったのに倍に増えてしまい、もう色んな意味で勘弁してもらいたかった。
綺麗所を集めたり、やたらと手付きが艶かしくてテクニシャンなのは望んでないので、いい加減体ぐらい一人で洗わせて欲しい。
(…と言うか! 何で新しいメイドさんが増えるの!?)
昨日のメイドさんだけでなく、何故か続々と浴室に入ってきており、その誰もが私の全身を撫で擦っては、汚れを丹念に洗い落としていく。
そして前日にしっかり学習しているのか、スポンジ洗いだけで早くもフニャフニャに弛緩させらてしまった。
(このままだと…不味い気がする…けど。えへー…何だか凄く、いい気分ー…)
心地良く脱力しきっている私を、メイドさんたちは愛おしそうに浴槽までは運び、そのまま仰向けにゆっくりと沈める。
しかし私が溺れないようにしっかり支えて、クスクスと妖艶に微笑む無数の美女に囲まれて優しく包み込まれて、もはやお湯なのか人肌なのか良くわからない、とにかく温かくて柔らかな感触を余すことなく堪能させられる。
(あー…もう、ずっとこうしていたいよー)
まるで羽毛で撫でられているかのような絶妙なフェザータッチを受けながら、美人ぞろいのメイド衆に時々声をかけられる。
だが口を半開きにして蕩けきった表情で糸の切れたタコも同然にされた私は、お湯の中を漂うばかりで、彼女たちの言葉の意味を考えることすら億劫に感じ、ろくに聞きもせずに全てを無条件にウンウンと受け入れてしまう。
(もう…何も…考えたくない…。メイドさんたちに…もっと、…して…欲しいよぉ)
三十分もかからずに私は考えることを完全に放棄し、妖艶に微笑みながら私の体中を優しく揉みほぐす、そんな美しいメイドたちのマッサージに陥落した。
このまま何処までも堕ちていきたいと、そう自らオネダリするまですっかり蕩けきってしまったのだ。
「…! アヤカ!?」
「えへへー…パメラも、こっちにおいでよー。すごーく…気持ちいいいよー」
「今すぐアヤカから離れなさい! これは命令です!」
何やら顔を真っ赤にして怒っている王女様の命令を受けて、私の全身を代わる代わるマッサージしていた十人を越えるメイドさんたちは、皆慌てた様子で離れていった。
行かないでー…と、声をかけようとすると、パメラが怖い顔でこちらを睨むので、慌てて口をつぐむ。
「パメラー…浴槽に入る前には、体を洗わないとー…」
「そんな場合ではありません! ああもうっ! すっかり骨抜きにされて…!」
体を洗わずに湯船に飛び込んで、フニャフニャに弛緩している私に駆け寄ってくるパメラを注意すると、逆にお叱りの言葉を受ける。
何だか知らないが、今日の彼女はご機嫌斜めのようだ。
「アヤカ! 王城の者を、信用しすぎないで!
貴女を籠絡し、味方に引き込もうと考える人も、居るのです!」
彼女の言葉を信じるならば、つまり先程のメイドさんたちは私を骨抜きにして、都合よく利用しようとする者の一派である。
「命を救われた恩を、体で返したいと思っている者も居ますが、アヤカにはまだ早いです!」
町の危機を救った恩を返したいと考えているのも事実であり、実際に私はその全てに正直に反応し、可愛らしい喘ぎ声を漏らしてしまっていた。
お金がないので体で払いますというところか。自分には効果てきめんだが、ありがた迷惑である。
しかし道理で昨日の倍以上のメイドさんに揉みくちゃに洗われて、湯船の中でも全身マッサージをされたわけだ。
実際に体験した私からすれば何度か意識が飛びかけたし、眠らせずに夢見心地を彷徨う絶妙なラインを見極めるのが、皆とても上手なのだ。
「ありがとー…パメラ」
「はぁ…間に合って良かった、です」
あのまま全身を余すことなく可愛がられ続けていたら、私はメイドたちの絶妙な手管の虜になり、彼女たちのお願いなら何でも二つ返事で聞いてしまうほどに、身も心も骨抜きにされてしまっていただろう。
つまりあと数分もフニャフニャに蕩けたままだったら、最後の一線を越えて確実にR18(ノクターン)になっていた。それは流石に不味い。
「しかし彼女たちも、仕事には忠実です。
アヤカが警戒心を持って、毅然とした態度で対応すれば、まず大丈夫でしょう」
若い頃は盛りのついたお猿さんになりやすいと聞くし、一度でも堕ちたらもう戻れないだろう。
何よりメイドさんたちのテクニックは色々と凄かったし、危険なのはわかるけど、機会があればもう一度して欲しいなぁ…と考えてしまうのだ。
だがそれ以前に自分の性格からして、色々と不味い気がしたので、オズオズと手をあげてパメラに質問する。
「敵を素手で殴り飛ばしたり、罠を踏み抜いて突破するのが、私なんだけど」
「…これからは、私と一緒に、行動しましょう」
そういうことになった。パメラが言うハニートラップの回避方法を聞いて、これは自分には無理だとわかってしまったのだ。
プロレスのように相手の技を全て受けたうえで反撃して倒すというのが、本来のスタイルだ。
今は遠距離から超重力砲をぶっ放しているが、根っこは何も変わっていない。距離を詰められれば、すぐに化けの皮が剥がれる。
そしてメイドさんたちは常に近くに寄り添っており、変身状態でも防げない夜の技を修得しているので、相性は最悪である。
身体強化で弾き飛ばそうにも相手は生身の人間で、力加減を誤れば容易く命を奪ってしまう。
ただ私に尽くしてくれるだけなら、暴力に訴えることはできないのだ。
いつの間にか浴室に待機しているメイド衆が妖艶な笑みを浮かべて、すっかり正気に戻った私との距離を詰めてきていることに気づき、パメラがキッと睨みを効かせる。
慌てて元の持ち場に戻る彼女たちだったが、その表情は全く諦めてはいないようだ。
「味方に引き込むのが目的でしょうが、アヤカの反応が可愛いので。
堕とすのも楽しいのでしょうね」
「いっ…嫌すぎる! 私にはそっちの趣味はないよ!」
「でも、天にも昇る心地だったでしょう?」
そう聞かれた瞬間、私は頬を真っ赤に染めて魚のように口をパクパクとさせる。実際にメイドさんたちの全身マッサージは凄く良かった。
その気がない私でも何度も逝きかけて、ギリギリを見極めて一番弱いトコロを見つけてくれるので、残念ながら首を横には振って否定はできなかった。
「そういうわかりやすい反応が、大いにそそるのです。
それはアヤカの長所ですが、体を使って籠絡を仕掛ける彼女たちには、逆効果です」
処置なしとばかりに肩を落とすパメラを見て、これはもう生まれ持った相性というか、運命とかそういうたぐいだろう。
男性が近寄ると未知の恐怖心や警戒心を抱くが、ずっと祖母と二人暮らしゆえの気安さか、それとも心の奥底が甘えや母性愛を求めるのか。
とにかく女性に関しては来る者拒まずで、何故か無警戒でホイホイ受け入れてしまっている。
三つ子の魂百までと言うならば、自分の同性へのハニートラップ耐性は、きっと一生ゼロののままだ。
私は絶望とあまりの恥ずかしさに湯船に顔を沈めて、ブクブクと小さな気泡を漏らすのだった。
浴室でメイドさんたちによる全身マッサージ事件を終えて、私の中でパメラを置いていくという選択肢が完全に消えた。
何故かはわからないが、同性から迫られれば無意識に受け入れてしまうという、厄介極まりない弱点が判明したからだ。
強大な力を持つ自分を利用しようとする者が、これを見逃すはずがないのだ。
そして今は城内の謁見の間で玉座の前で、隣の友人に習って片膝をついていた。
集まっているのは、領主と援軍としてやって来たパメラの伯父、その他の名のある将軍や騎士、そして貴族や文官やその他諸々が勢揃いだ。
王女様は間に入って、私の通訳をしてもらっている。
「私とパメラは親友であり、対等な関係である。…と、申しております」
「…そうか。我が国に迎え入れようと考えたが、パメラ王女と同格では仕方あるまい」
今後はたとえ一見スムーズに会話が成り立っているように見えても、彼女がアヒルの水かきのように、一生懸命水面下で頑張ってくれているおかげであると、先に説明させてもらう。
テンポ重視でサクサク進めるのである。
「国王様! 何処の馬の骨とも知れぬ魔法使いを迎え入れるなど! 私は反対です!」
「王都の魔法団長は反対か。…他の者はどうだ?」
やけにワイルドな中年男性が玉座に座ったまま周囲を見回すが、反対しているのはしわがれた声で喚き散らす、豪華なローブ姿のおじいさんだけのようだ。
「魔法とは血筋で決まるもの! 長い年月をかけて知識や経験を受け継いできたからこそ! 強大な力を持つ、名家となれたのです!
道具に依存した魔法など、正道ではなく邪道! 王国で召し抱えるのならば、同じ魔道具使いの騎士で十分であろう!」
翻訳してくれたパメラも若干口調が荒くなっていたが、これは確実にキレている。
そして周りで会話を聞いていたおじいさん以外の人も、国王様の前ということで我慢はしているが、青筋が浮かんでいるのがわかる。
「今回は辛うじて勝利したが、相変わらず各国の情勢は思わしくなく、そう遠くないうちに第二波がやって来るだろう。
その時にアヤカ殿が手を貸してくれるのならば、心強いことこの上ないと思うが?」
野性的な笑みを浮かべるおじさんが私をヨイショするが、さては自分を骨抜きにするようにと命令を出したのは、このおっさんだな…と、直感が働いて警戒レベルが一段上がる。
男性に対してはちゃんと危機管理が発動するのに、グイグイ来る女性には何故か完全なノーガードになるので、これから本当に生き辛くなりそうで涙が出そうだ。
「それに先日は好感触だったゆえ、もう一押しで我が国の魔法団長を引き受けてもらえるだろう」
「国王様! 何ということをするのです! 王国の歴史ある名家に、穢れた血を入れようとするなど!」
魔法使いのおじいさんがやかましく何かを言っているが、今の私は聞こえていなかった。
やはり直感通りで、ワイルドなおじさんがメイド衆をけしかけたのだ。
反応がいちいち初々しくて、容姿も可愛くて好みだったので、任務とは関係なく堕としたくなったとか、あのメイド衆に限ってそんなことはないはずだ。
とにかくこれでもう私は、パメラの伯父である国王に仕える気はなくなった。
「私は国に仕えるつもりはありません」
「そうか? ならば世話係をもう十人ほど増やすとするか」
「それは止めてください」
今でさえパメラの鉄壁のガードをすり抜ける者が時々現れて、かなり危険なところまで堕とされかけては間一髪で救出されるということが、割と日常的に起きているのだ。
ここに来てさらに精鋭部隊を送り込まれたら、私は日本への帰還よりも、綺麗どころのメイドさんたちとニャンニャンするのに夢中になり、なし崩し的に王国の魔法団長までやらされてしまう。
「ならば我が国に来てくれるか?」
「お断りします」
だが叶わぬ未練を断ち切るという意味では、爛れた日常を送るのは必ずしも不幸ではない。
実際私の相手をしている世話係の人は現状を楽しんでいたのだから、皆で幸せになろうよと言うなら、これ程ベストな選択はないだろう。
だがまだ手を尽くしていないのに、日本に帰ることを諦めたくはない。
「自国に帰るために協力をするなら構いませんが、王国の魔法使いになるつもりはありません」
「今はそれで構わん。アヤカ殿のことを深く知れば、また違った面も見えてこよう」
こちらの返答にワイルドおじさんが顎に手を当てて考え込み、やがてにこやかな表情で言葉を返す。
どうせ彼の言う違った面というのは、私とニャンニャンする時の新しい弱点なんだろうなぁ…と、容易に想像できてしまう。
そんな一向に諦める気配のない国王様に対して、隠すことなく渋い顔をする。
「魔法団長も、臨時雇いならば文句はあるまい」
「むむむっ! 確かに名家に名を連ねるわけではない臨時の魔法使いならば、問題はありませぬが…」
魔法使いのおじいさんも私と同じように渋い顔をして、ウンウン唸っている。だが彼はまだ何か言いたそうであり、しばらく考え込んでいた。
数分ほど思い悩んでいたようだが、彼は何か名案を思いついたのか底意地悪い表情に変わり、こちらを見下ろしながらもったいぶって言葉をかけてきた。
「陛下。臨時の魔法使いとはいえ、その者が本当に実力者のなのかを見極めるためにも、魔法試験を受けさせる必要があります」
「ふむ、確かにそうだろうな。ならば、魔法団長が試験官をするのか?」
「いえ、我が息子である魔法副団長に、試験官をやらせましょう」
目の前の二人が勝手に私の今後を決めているが、まだ王国の臨時雇いになるとは言っておらず、あくまでも考えておきます程度だ。
だがまあ空気を読んでわざわざ突っ込むことはせずに、隣で苦笑を浮かべて成り行きを見守るパメラに小声で話しかける。
結局私たちは、謁見の間の物々しい雰囲気とは真逆のほんわかした空気で、王女様と異世界語しりとりをしている間に、国王様や魔法団長や貴族や騎士たちの話し合いで結論が出て、明日の早朝に私の採用試験を行うことが決まったのだった。