魔物の群れを駆除しました
今回ガールズラブ描写がありますので、苦手な方はご注意ください
シャボンバリアに乗ったまま、時速三十キロで魔物の密集地帯を横断し、射程に入った敵は自動追尾弾に撃ち抜かれ、為す術もなく魔石に姿を変えていく。
攻撃は人工知能任せなので、私はとにかく敵のいそうな所に真っ直ぐ突っ込んでいくだけだ。
途中で空からワイバーンが襲いかかってきたが、敵の火球を黒い弾丸が相殺し、その後本体もあっさり消し飛ばしたので、何も問題はなかった。
パメラはと言うと、攻撃こそしないが風魔法を使い、自分たちは友軍だと必死にアピールしているので、喉が枯れて辛そうである。
王城の宝物庫から拝借してきたポーションも、五本目を飲み干したところだ。
「……! アヤカ…! ……!」
王女様が顔を向けたほうを見ると、外壁の門が開け放たれて、多くの騎兵がこちらに向かって雪崩込んできたところだった。
彼らは私たちと勝手に連携を取り、勇ましい声をあげながら混乱している魔物を次々と討ち取っていく。
そして自分たちが味方だと伝わっているのか、混乱もなくすんなり合流できた。しかし私が異世界の言葉に不慣れなために、しばらく騎兵団と並んで外周コースを走る。
パメラはこちらの事情も知っているので、ゆっくり丁寧に喋ったり、単語ごとで区切ってくれる。
だが馬に乗った中年の騎士っぽい人が大声で話しかけても、自分の頭の中での翻訳が間に合わないのだ。
「ええと、パメラ。何言ってるの?」
「高名なる、大魔法使い、アヤカ殿に、お会いできて、光栄です」
「なるほど」
一心不乱にシャボンバリアを走らせている間に、石壁の外の魔物は大体片付いたので、今度は大勢の騎士を引き連れて、開門している場所から混乱の続く町の中に入る。
そして途中で襲いかかってくる敵は、周囲の護衛が斬り捨てながらゆっくり進んでいく。
ざっと見た感じだと、魔物の襲撃を受けてあちこち壊されてはいるが、建物はまだ無事なことから、侵入はされたがそこまでの時間は経ってないのだろう。
「ナビ子、魔物がたくさんいる場所に案内して」
「…!? ……!」
今までは何処を見ても敵ばかりでナビゲーションは必要なかったが、これからは隠れている魔物を探し出す必要がある。
手乗り妖精サイズの私を宙に出現させると、周りの大勢の騎士たちが大きくどよめく。
「…これは精霊? まさか使役できる、のですか。…と言っています」
パメラが通訳をしてくれて本当に助かる。ついでに彼女に説明も任せて、私はナビ子の案内通りにシャボンバリアを操縦する。
足場が悪くても宙に浮いているので最高速度は維持できるが、ちょっと護衛が邪魔に感じてきた。
「パメラ、単独行動したいんだけど」
「ええと、……! …!」
「……!? …!」
騎士の団長さんとパメラが交渉している間も、私は馬の速度に合わせて微速前進である。今は軽くジョギングしているぐらいの速さだ。
ついでに大勢の護衛に囲まれていては自動追尾弾の射線が確保できないので、攻撃力も大幅ダウンだ。
つくづく集団行動には向いていない魔法ばかりで、思わず大きな溜息が出てしまう。
「…アヤカ」
「どうだった?」
「危険だから、駄目」
「そっかー」
こうなることは予想していたので、そこまでガッカリはしなかった。片方は亡国の王女、もう片方は見た目は幼女がメイド服を着た魔法使い。騎士たちからすれば護衛対象なのだ。
その気持ちはありがたいが、このままでは犠牲が増える一方である。ならばプランAではなく、Bに移行するしかない。
「パメラ、この場に残るか一緒に空を飛ぶか。…選んで」
「すっ…少しなら、我慢できる。でも怖いから、アヤカにくっついていても、良い?」
護衛が邪魔でも彼らに離れる気がないなら、手が届かないほど遠くに行ってしまえばいい。その際にパメラは高所恐怖症なので、てっきりこの場に残ると思っていた。
だがまあ彼女が私と一緒に居たいのなら、そちらのプランを実行に移すことにしよう。
「まあ、それぐらいなら別にいいよ」
「ありがとう! アヤカ!」
私が許可したら王女様が間髪入れずに抱きついてきた。まさか最初からそれが目的だった? …と一瞬脳裏をよぎったが、ただ依存先に肯定してもらえて嬉しかっただけだと、慌てて妙な思考を振り払う。
「はぁ…仕方ないなぁ」
パメラはこれまで私のために色々協力してくれた現地の友人である。そんな彼女を邪険に扱うわけにもいかず、とにかくシャボンバリアを真っ直ぐに浮遊させて、建物よりも少し高い位置でピタリと止める。
「……!? …! …!」
真下から私たちを見上げている騎士団の隊長が何か言っているが、言葉がわからないだけでなく、離れているので聞き取るのも難しい。
だがどうせ今すぐ降りてくるようにとか、そんなところだ。しかし私は従う気はない。
それとは関係なく、豊かさを強調する胸当てが顔にあたって大変鬱陶しいし、両手をメイド服の中に入れるのは止めてもらいたい。
くっついても良いとは許可したが、誰がそこまでやれと言ったのだ。
「とにかく、振り切るよ!」
「…! …!?」
「足はガタガタ震えてるのに、パメラの両手は元気だね!」
シャボンバリアにやけくそ気味に魔力を込めて、開始数秒足らずで最高時速に到達する。そのままナビ子の案内に従い、私たちは空を駆け抜ける。
シートベルトなどないので急カーブや急停止を行うたびに大きく体が揺れるが、そのたびにパメラの密着の度合いが増したり、指先が変な動きで私の体を弄るので、もう色んな意味で危険が危なかった。
メイド服の上からではなく、ちゃっかり中に入れて柔肌にまで触れているので、あまり長引くと変な気分になってしまいそうだ。
パメラと言う王女様は、いずれは他国に嫁ぐつもりだったのだろう。自らの容姿と女の武器を徹底的に磨かれ、しかも大変筋が良いようだ。
固い金属の軽装備で身を固めた彼女は、始終密着している私を翻弄し続け、町中の魔物が片付いた頃には、こっちの足腰まで、子鹿のようにガタガタに震えてしまっていた。
「もっ…もう終わったから、…離れて」
「でも、アヤカ、一人で立てる?」
「きっ…汚いな! 流石パメラ…きっ、汚い!」
別に褒め言葉でも忍者でもないが、町の中央付近に降下したシャボンバリアには、何処となくやり遂げた感いっぱいで満足そうな笑みを浮かべる亡国の王女と。
はぁ…はぁ…と荒い呼吸を繰り返して、足腰をガクガクと震わせて頬を朱に染めた幼い魔法使いが居た。
女同士のニャンニャンの前には、私はか弱いチワワであり、パメラは百戦錬磨の狼だ。
と言うか、自分にはそっちの趣味はないのに、私の背中を優しく撫でて気遣いながら、とても敏感になっている赤い耳にそっと吐息を吹きつける王女様は、百合の道に引きずり込む気満々である。
今の彼女は邪神なんかよりも余程恐ろしく思えるが、既に足腰が限界に来ていた私はまともに立つことさえできず、結局パメラの肩を借りて、王城に入場することになったのだった。
亡国の王女様に足腰立たなくされてしまった私は、邪神の軍勢を退けた功績を称えるために、町の中心に建っている白亜の城に招かれた。
しかし領地を治める貴族との謁見の前に、まずは身なりを整えたり、しばしの休息が必要だとパメラが力説した。
時刻は既に午後五時を過ぎており、夕焼け空に包まれていたので、お髭が立派な中年貴族は、王国からの援軍が到着するまでは、城内の一室を無償で貸し出し、王族待遇で歓迎することを約束してくれた。
申し出はとてもありがたく、一ヶ月近く入れなかったお風呂に入浴できると聞いて、私はとても喜んだ。これまで水浴びだけで済ませていたので、実際かなり臭っていたのだ。
しかし脱衣所で服を脱いで大浴場の扉を開けるや否や、あまりにも予想外のことが起きて、慌てふためいてしまう。
「だから! 体ぐらい一人で洗えるから! やっ…やめっ!」
日本で暮らしていた頃と違い、今の私は選りすぐりの美しいメイド衆に囲まれており、寄ってたかって私の体を柔らかな布で撫で回して、泡だらけにしてくるのだ。
「アヤカ、早く慣れたほうが、良い」
パメラは王族であり、慣れているのかされるがままのようだが、こっちは生まれも育ちも平民であり、使い切れない程のお金を持っても、自分の体はいつも自分で洗ってきた。
「あら、アヤカ様、ここが汚れて、いますよ」
「そこは止めて!」
「こっちも、なかなか、…うふふ」
「…にゃふん!?」
しかし敵もさる者で、私の弱いトコロなどすぐに見つけ出して、そこの汚れを重点的に落とすのだ。
幼女の抵抗など可愛いものとばかりに、あっという間に蕩けさせられ、この上ない程の良い気分になってしまう。
結局数分足らずでメイドさんたちに優しく抱えられ、浴槽のお湯の中にゆっくりと沈められていく。
「あーうー…もう駄目」
「アヤカ、良い顔してる」
「まあ、気持ちよかったからね」
このまま流されるのは不味い気がするが、久しぶりのお風呂に入れて嬉しいし、熟練のマッサージ師に全身隅々まで丁寧に揉みほぐされた気持ち良さで、何もかもがどうでも良くなってしまう。
それにメイド服を脱いでも変身を解除しない限りは効果が続いているようで、どうせ何されても死なないし…と、ゆっくり近寄ってくるパメラの抱擁を黙って受ける。
と言うか体中がフニャフニャに蕩けていて、もはや指一本まともに動かせないのだ。
「アヤカは私が、付きっきりで、お世話する」
「それ、絶対…駄目なやつ…だから…」
お風呂に浸かって心身共にリラックスした結果、緊張が解けてこれまでの気疲れが一気に出てようで、大きく欠伸をした後に、睡魔が急に襲ってきた。
愛おしそうに私の濡れた髪を撫でているパメラの依存度は、天井知らずに上がり続けている。
このままでは絶対に不味いことになるが、今現在頼れるのも彼女しか居ないので、私の方も若干依存気味である。
「おやすみなさい。…私のアヤカ」
いつパメラのモノになったの…と言いたいが、とうとう意識を保つのも難しくなる。
結局私は倒れ込むように、王女様の豊かな胸に顔を埋めて、幸せそうな表情を浮かべながら、可愛らしく寝息を立て始めるのだった。