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巨大ラミアに捕獲されました

今回ガールズラブ描写がありますので、苦手な方はご注意ください

 リザードキングの大魔法の直撃を受けた私は、骨まで焼き尽くす炎の竜巻に翻弄されて宙を舞っていた。

 だが薄々そんな予感はしていたけれど、やがて効果が切れて嵐が収まったので、空中でくるりと一回転して遺跡の石畳に華麗に着地する。


「まあ、そんな予感はしてたよ」


 当然のように全くの無傷で生還し、大魔法を放ったリザードマンの王は驚きの叫びをあげるが、蒼雷の騎士の皆さんは全く動じずナイトの二体を危なげなく処理していた。

 残るは口を開けて呆然としているキングだけなので、私はスタスタと真っ直ぐ歩いて行き、無言で右ストレートをお見舞いする。


 魔法も何も使わずに普通に殴っただけで、リザードキングは壁まで吹き飛んでいき、激突後にカエルが潰れたような音を響かせて絶命する。

 よく見ると立派な鎧には子供の手ぐらいの穴が空いており、何のひねりもない普通のパンチでも、Aランクダンジョンの魔物を倒せるのだと実感した。


「こっちは何とか片付いたが、やはり小坂井さんは強いな」

「メイド服の性能が凄いだけで、私は普通の中学二年生だからね」

「ははっ、違いない」


 リーダーの山瀬武彦さんが戦いを終えて私に声をかけて、他の三人はリザードマンたちの素材や戦利品を、収納魔法やアイテムボックスの中に入れていく。

 明らかに入るはずのない大きさの物が吸い込まれていくのは、まるで未来から来た猫型ロボットが使う四次元ポケットに見えた。


「いいなぁ。私もアイテムボックスや収納魔法が使いたいよ」

「下級のアイテムボックスぐらいなら、使えないのか?」

「一通り試したけど無理だったんだよ。魔法のランタンでも拒絶反応が出るし」


 全ての回収が終わったようなので、私たちはナビ子に案内させて、再び歩き出す。

 ダンジョンや魔石の力がもっとも弱いのが魔法のランタンだが、自分はそれさえ使うことができなかった。


「個性魔法使いも、下級のマジックアイテムなら問題なく使えるとは聞くが。小坂井さんは色んな意味で規格外のようだな」

「本当に私もそう思うよ」


 溜息を吐きながらトボトボと遺跡を歩くが、今の私の背中にはきっと哀愁が漂っている。

 天は二物を与えずという言葉は正しく、魔物との戦闘は向かうところ敵なしでも、鈍くさくて罠や地形にしょっちゅう翻弄され、咄嗟の対応も思うようには行えず、何度うっかりで無駄に攻撃を受けることになったか。




 なので私なりに最高効率を追求した結果がダンジョン攻略RTAである。

 罠や地形は踏み抜いてでも強引に突破して、食料を持てる量に限りがあるため、時間をかけずにひたすら最下層を目指す。

 フロアボスを相手に単独で戦えるように、自己バフと破壊力の高い魔法ばかりを作り出した。

 パーティーを組んで集団行動をするのは、全くと言っていいほど向いていなかったのだ。


 適当に喋りながら下層を目指して歩いていると、ナビ子がまた魔物を発見したので、私は溜息を吐きながらも戦闘態勢を取り、下ろしたリュックサックをバリアで保護する。

 少しずつでも最深部に近づけたらいいなぁ…と、ぼんやり考えるのだった。







 Aランクダンジョンの五階層、フロアボス部屋の前に着いた時には、既に午後五時を過ぎていた。

 やはりと言うか、一人で攻略するよりも倍以上に時間がかかっている。さらに蒼雷の騎士のメンバーを守りながら進んでいるので、気苦労も重なっている。

 自分で始めたことだが、やるんじゃなかった…と、後悔の念が強くなってきている。


「小坂井さん、大丈夫か?」

「正直、結構しんどいかも」


 気遣いのできるリーダーだと思うが、命を大事にで戦闘を行うと臨機応変な対処が求められて、常に気を張っていなければいけない。

 集団行動に慣れていない私には、力の抜きどころがわからずに、四六時中精神的な負荷を受け続けている状況だ。


「足を引っ張ってしまって、申し訳ない」

「ううん、私が言い出したことだし、気にしないでよ」


 メイドフォームによって肉体は万全の状態に保たれてはいるが、精神面は普通の中学二年生であり、気持ちの浮き沈みもあるようだ。

 しかし皆に心配をかけるわけにはいかず、乾いた笑いで気にしないでと返答する。


「しかしこれからどうする? フロアボスを倒せば安全に休めるが。

 小坂井さんが辛いのなら一泊して、挑むのは明日にするか?」


 リーダーの山瀬さんが気を遣ってくれて、他のメンバーも心配そうな表情で私を見つめている。

 確かに自分はこのパーティーの攻守の要であり、万が一でもまともに戦えない状態になれば、先に進むのは困難になり、下手をすればあっという間に全滅してしまう。

 なお自分だけは何があっても死亡する未来が見えないので、多分一人だけで地上に生還することになるだろう。


「あと一戦ぐらいなら大丈夫だから。フロアボスを倒してから休もうよ」

「そうか。今のパーティーリーダーは小坂井さんなんだ。信じる道を進むといい」

「あははっ、いよいよとなったら私だけで倒すから、その時は下がっていてよ」


 できれば今すぐ休みたいが、ダンジョン内で安全に休憩できるのはフロアボスを撃破した後の大部屋だけなので、それ以外はどうしても見張りが必要になる。

 自分の場合は自動追尾弾をセットして朝まで熟睡できるが、今は蒼雷の騎士の皆さんが居るのだ。変に気を使って見張りをされたり、射線上に入って誤射することはしたくない。

 ならば奥に進んで討伐を終えて、安全地帯で休むのが一番だと、私はそう決断したのだった。







 大扉を開けてボス部屋に入ると、古代のコロシアムのような広い場所に出た。

 全員が中に入ると同時に、重い音が響いて閉じ込められ、大きな魔法陣が中央に現れて、眩いばかりの輝きを放つ。

 蒼雷の騎士のメンバーはAランクダンジョンに挑むのは初めてだが、自分と同じでフロアボスには慣れているのか、静かに落ち着いて手持ちの武器を構えて様子を見ている。


 私は開幕前に黒霧の全身鎧をまとおうか迷ったが、あれは防御力が上昇して頑丈になるが視界が悪い。

 それに過去にどれだけ激しい攻撃を受けても、メイド服が損傷したことは一度もないため、同士討ちを避けるためにも、そのまま戦うことに決めた。

 だが念の為に右手を前方に構えて、超重力砲をいつでも撃てるようにしておく。




 やがて魔法陣の光が徐々に眩しさを失い、現れたのは下半身は蛇で上半身は桃色髪の女性という、魔物でなければ誰もが見惚れるほどの美女だった。

 そして武器や防具を身につけていない全裸だが、大きさが三階建のビル程もあるし、魔法抵抗力もずば抜けているので、脅威であることには違いない。


「まずは私が…って! 何で前に出てるの!?」


 打ち合わせ通りに超重力砲を撃つので下がって…と言おうとしたのだが、何故か皆揃って私の前に出て、射線を塞ぐ。

 これは何かがおかしいと蒼雷の騎士のメンバーを観察すると、四人全員が目の前の巨大な魔物を見つめて、幸せそうに口を半開きにしたまま、まるで吸い寄せられるようにフラフラと近づいている。


「まさか! 魅了されちゃったの!?」


 明らかに不自然な動きを見る限り、そうとしか思えない。しかし全員精神耐性の装備はしているはずだが、抵抗すら許さずに骨抜きになっている。

 さらに男性どころか女性まで堕とすとは、流石はAランクのフロアボスと言ったところか。


「私がパーティーを組むのに、とことん向いてないことをわからせられたよ!」


 ダメージどころか状態異常も無効化しているため、蒼雷の騎士の全員が魅了されて、初めてフロアボスから攻撃されたのだと気づけたのだ。

 もし今のが魅了ではなく即死級の攻撃だったら、その時点で自分以外のパーティーメンバーは全滅していたのは間違いない。


「ああもう! 全く、何て攻撃を…!」


 蒼雷の騎士のメンバーは全員戦力外となってしまったので、私は四人を掴んでリュックサック目がけて放り投げる。

 そのまま一時的に解除したシャボンバリアに強引に押し込めて、動きを封じる。


 仲間内で戦いだしたら大変だが、彼らは巨大なラミアに吸い寄せられているだけなので、精神支配を耐えきった他の冒険者の盾にするのが目的だろう。


「ふぅ…これで一安心。…って! しっ……しまった!?」


 戦力外の四人を緊急避難させるために隙だらけになった相手を、フロアボスが放置しておくはずがなかった。

 三階建のビルほどもある巨大ラミアは、私の背後から両手を伸ばしてギュッと握り締めてくる。

 自分が気づいたときには、既に彼女の手の中だ。


「わっ! 私を食べる気!?」


 幸いラミアの両手には殆ど力が込められておらず、この程度なら簡単に脱出できる。

 私は引き寄せられて口に放り込まれる前に拘束を解くために、慌てて四肢に力を入れる。


「あっ…あれ? なっ…何? 何なの?」


 食べる目的にしてはやけに高さが低く、何故かラミアは私を巨大な胸の谷間にそっと運び、優しく抱き寄せたままで、綺麗な歌声を披露し始める。


(なっ…何がなんだかわからないよ!? でっ、でも、これ…凄く、…落ち着く)


 ラミアの美しい歌声を聞いていると眠くなってくるので、多分これは子守唄だろう。

 自分は魔物の子供になったつもりはないが、今も赤ん坊をあやすように胸元で優しく揺らしているので、私の何かがフロアボスの母性本能を刺激した可能性がある。


(思えばここまで慣れない集団行動で、ずっと緊張しっぱなしだったしなぁ)


 私の両親は早くから他界しており、ずっと祖母に育てられてきた。顔も見たことはないが、本当の母親とはこんな感じなのだろうか。

 いつの間にか逃げ出そうという気もなくなり、凄く癒やされるし良い気分なので、もうこのまま眠っちゃってもいいかなぁ…と、何ともフワフワした危険な思考に囚われていく。


(一度ぐっすり眠って目が覚めたら、お母さんをやっつければいいや。

 それに睡眠中は何もできないし、…もし負けちゃっても仕方ないよね?)


 今も巨大なラミアは私の髪を痛めないように優しく撫でて、さらには自らの乳まで吸わせようと、静かに口を近づけているのだ。

 目の前のフロアボスにこのまま身を任せ続けたらどうなるかは知らないが、今日はもう疲れて何もしたくない。

 このまま身も心も赤ん坊に戻って、目の前のお母さんの胸の中で休めるのなら、それはどれほど幸せなことか。


(…ん? でも、待てよ?)


 今は状態異常とは関係なく、とっても良い気分でフニャフニャに蕩けて甘やかされているが、重要な何かを忘れている気がする。


「って! 生中継されてたよ! こんなことされてる場合じゃない!」


 創造神様が生中継しているかどうかは、こちらからは確認できないが、自分が巨大ラミアに甘やかされて幼児退行している姿が、全世界に拡散されている可能性は非常に高い。

 こんなの、赤っ恥にもほどがあるというものだ。

 

「脱出! そして…」


 一度自覚すれば次の行動は早かった。私は両手足に力を込めて、幼子のようにラミアの胸元に吸い付く前に抱き寄せから脱出する。

 そして地面に降りる前に黒い翼を生み出し、闘技場の空を駆ける。


「ごめんなさい! …暗黒剣!」


 左右の手に暗黒の刃をまとわせて合わせる。翼をはためかせて巨大なラミアに勢い良く向かっていく。

 そのまま私が突然駄々をこねたことを驚いたのか、未だに呆然としている彼女の首を一息の間に両断した。


 離れた首がズレて地面に落ちると同時に、残った胴体も崩れ落ちて大きな音が響く。一瞬で仕留めたので、苦しまずに逝けた…と思う。

 私の目元から一筋の涙が溢れたので、メイド服の袖でそっと拭う。


「さよなら。…お母さん」


 相手は魔物であり母親なはずはないのだが、それでも私のことを実の娘として扱ってくれた。

 これまで感じたことがなかった本物の母性と柔らかな巨体で、身も心も全てを包み込んで癒やしてくれたのだ。

 初めての集団行動で心身共に疲れ切っていた私がコロッと堕ちてしまったのも、ある意味では仕方がないかも知れない。


(ダメージや状態異常を無効化しても、私自身が戦えなくなれば負けなんだよ)


 怪我や苦痛、毒や状態異常、罠や魔法は防げても、心身共に蕩けさせる直接的な快楽はそのまま素通りした。

 もちろんそんな目に遭うのはこれっきりだろうが、あろうことか巨大なラミアをお母さんだと錯覚し、幼子のように甘えてしまったのだ。


 先程の行為は人の営みの中であまり頻繁ではないが行われていることだ。だからこそメイドフォームも無効化せずに、受け入れてしまったのだろう。それとも心の中で私が求めていたから、拒絶せずに通したのか。

 何にせよこういった快楽は要注意だと、はっきりした。


「はぁ…あのまま続けていれば、どうなっていたか」


 母乳をチューチュー吸って心身共にリラックスした後は、赤ん坊のように母に抱かれておネムの時間であり、すっかり安心して熟睡してしまうのは間違いない。

 ならば彼女は眠っている私に対して、今度は一体どのような行動を取るのか。


 メイドフォームならどんな目に遭っても死にはしないだろうが、あまりの心地良さに敗北して、小坂井彩花を続けることを放棄し、巨大なラミアをお母さんとして認めてしまえば、私という存在は死んだも同然だ。




 何にせよ今日はこれ以上、Aランクダンジョンを攻略することはできそうにない。

 シャボンバリアに押し込めた蒼雷の騎士の四人も正気を取り戻しつつあるし、五階層で打ち切って、地上に帰還したほうが良さそうだ。

 それに今は祖母や大西さんに無性に甘えたい。私はそう強く思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 15/16 ・やはり幼女さんはソロに限りますね。 ・ゲームでもたまに経験します。一人だけ強すぎて仲間が足手まといな状況。 [気になる点] この世界なら、ラミアママと仲良くなれそうな気が…
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