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臨時パーティーを組みました

 大西さんのおかげで、清水村役場での記者会見は無事に終わった。

 おかげで中学校での質問攻めも弱まり、家の周囲も多少は静かになり、まったりとはいかないが平穏な日常を取り戻した。


 ついでに創造主様の動画投稿と生放送で私のストレスがマッハという理由で、ダンジョン探索をしばらくお休みした。

 そもそも平日も休日もずっと働き詰めでは、まるでワーカーホリックの社会人だ。中学二年生のすることではない。




 人の噂も七十五日と言うし今年が終わるぐらいには、私のことなど一発当てただけの芸人みたいに、世間で殆ど話も聞かなくなることを期待したい。


「…それで、何で私の日常風景が動画になってるの?」

「需要が、…あるからでしょうか」


 創造主様の小窓には、休日に私が家でゴロゴロしているだけの動画が張られ、ダンジョン攻略には負けるが、こちらも結構な再生数を叩き出していた。

 だがこれを見た瞬間、大西さんに最新のゲーム機を買ってもらい、ウキウキ気分でユーザー登録した直後に、何故フレンド申請が殺到したのか合点がいった。

 ユーザー名やパスワードには黒線を入れてくれているので、一応気遣いはできるのだが、そこまでするなら生放送そのものを止めて欲しいと、心の底からそう思ったのだった。







 創造主様のストーカー行為に心底うんざりした私は、念のために休日ではなく平日の夜に、大西さんと二人で居間のちゃぶ台を挟んで、対策会議を行う。


「完全にロックオンされてるし、怖いんだけど」

「Aランクダンジョンを単独踏破したことで、変なスイッチが入ったんでしょうか?」


 確かに夏休み明けの休日は、日常風景までは生中継されてはいなかった。

 それでも二十四時間見守られているのは確定だろうが、外部にまでは漏れていなかったのだ。

 流れが変わったのは私がAランクダンジョンに突入して、記者会見を行ってからだ。その後は休日になるたびに、私の生中継が創造主様の小窓に流れるようになった。

 もはやプライバシーも何もあったものではなく、トイレやお風呂、重要な個人情報にはカメラアングル等の規制が入るが、正直やりにくいったらない。


「私が生中継されるのは、どう考えても他の上位ランカーが不甲斐ないのが悪い」

「何ですか急に?」

「何となくだけど、言わないといけない気がしたの」


 何処かの漫画のタイトルから大きく外れた発言を口に出したが、これはまあ当たらずといえども遠からずだ。

 創造主様が私に注目するのは、自分がダンジョン攻略のタイトルを総なめしているからである。

 他にもっと優秀なランカーか自分に近い実力者、もしくは何処かのAランクダンジョンを踏破したパーティーが現れれば、監視対象が分散することでプライバシーを侵害されることはなくなる。


「…一理ありますね」

「大西さんもそう思うよね」

「そういった存在が現れる可能性は低いですが、伝手を当たって見ましょう」


 可能性が低いからと現実を受け入れることなどできない。たとえ一パーセントでも勝ち目があるなら、やるだけやってみるだけだ。

 ダンジョン攻略中に撮られるのは慣れと緊張であまり気にならないが、休日にだらけきっている姿を見られるのは、凄く恥ずかしい。

 そんな複雑な乙女心に、私は大いに頭を悩ませるのだった。







 創造神様の単独生放送を何とかするために、私はある計画を実行に移した。

 決行は十月の土日であり、当然のようにダンジョン攻略を行うのだが、本日は清水村ではなく、遠くの某県までやって来ていた。


 そもそもAランクダンジョンは六十年で数が増えたとはいえ、日本には清水村のものを含めて、四つしかなかった。

 地元は既に最深部のフロアボスを倒して初攻略を成し遂げているので、別の未踏破ダンジョンに挑むことになる。

 さらに今回は臨時の助っ人を招集し、これこそが計画の要であった。


「日本ランキング八位、蒼雷の騎士のリーダー、山瀬武彦やませたけひこだ。

 パーティー一同、今日はよろしく頼む」

「は…はい、世界ランキング九位、中学二年生の、小坂井彩花です! よろしくお願いします!」


 蒼雷の騎士というのはパーティー名であり、メインメンバーが四人、サブとして十人以上も抱えている大所帯らしい。

 そして冒険者ランキングというのは、普通はパーティーを組んで登録するものであり、個人で活動している人も存在するが、上位を占めるのは集団で登録したほうだ。

 確かに普通に考えれば、一個人がどう足掻いても組織に勝てるわけがないのに、今さらながら自分がどれだけ規格外なのかを理解させられた気分だ。


 そして今の私は世界ランキング九位と答えたが日本では一位なので、蒼雷の騎士の皆さんよりも、立場は上になる。




 繁華街の一画に建てられた分厚いコンクリートの施設の外で、自衛隊員や地元住民、各局の報道陣が見守る中で顔合わせを行い、見た目幼女な私は緊張しながら頭を下げる。


 他人はどうあれ私の目的は、自分が引率役になることで最深部まで一気に攻略させて、手っ取り早くランキングを上げて、創造主様の動画対象を分散させることだ。

 それに強い魔物と戦い、勝利することで、身体能力や魔力が上昇することはダンジョン攻略QアンドAと、六十年の歴史が証明している。


 もし敵が手強く途中で引き返しても、積み重ねた経験値はきっと無駄にはならない。個人的に尻尾を巻いて逃げるのは嫌だけど、命には代えられないのだ。


「ええと! パーティーを組むのは初めてだから、至らないところが多々あると思うけど…!」

「大丈夫だ。その辺りはちゃんとフォローする! ベテランだからな!」

「ああ、小坂井さんに格好いいところを見せてやるよ!」

「うふふっ、お姉さんに任せてちょうだい!」


 リーダー以外のメインメンバーの三人は、ちゃんとフォローしてくれるらしい。ありがたい限りだが、私は別の意味の緊張でガチガチである。

 ただただほんわか可愛い系の幼女とは違い、皆さん身なり正しい大人の美男美女なので、とても絵になる。


 そしてやはりと言うか創造主様に生中継されているので、位置情報がバレバレの自分を例によって例のごとく各局の報道陣が取り囲み、フラッシュが焚きながらテレビカメラで撮影している。

 何やら熱心にマイクを突き出して質問を繰り返しているが、そちらは大西さんに任せているので、答えるつもりは一切ない。


 西洋騎士姿の自衛隊の人が開閉ボタンを押して、危険なAランクダンジョンを閉じ込める箱型コンクリートの防護シャッターを開ける。

 そして私達は一寸先は闇の巨大な横穴に続く階段を、一歩、また一歩と慎重に下りていく。


 なお、応援に駆けつけた蒼雷の騎士の十人を越えるサブメンバーの人は、地域住民や報道陣と一緒に、建物の外で待機となる。

 ここまでのお見送りお疲れさまでした。…と、心の中で労うのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 13/14 ・ゲームを撮影されるのきっついわ。幼女さんはそうでもなさそうですが。
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