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記者会見を開きます

 自粛するようにと政府から圧力をかけても、世界初のAランクダンジョンを単独踏破した私は相当に目立つ。

 なのでクラスメイトだけでなく全校生徒から、休憩時間になるたびに次から次へと質問を浴びせられることになった。

 当の本人は華麗な返しなど無理な話であり、あたふたと取り乱すばかりだ。もはや対応するのも疲れてきたので、体調不良なので早退します…と、午前中早々にサボりが決定してしまった。


 そしてお馴染みの軽乗用車に揺られながら家に帰る途中で、ハンドルを持った大西さんが真面目な顔で、疲れて助手席でグッタリ伸びている私に声をかけてきた。


「…小坂井さん、記者会見を開きましょう」

「んー…記者会見?」


 刈り取られた田んぼの風景を車窓からぼんやり眺めていた私は、深く考えずに相槌を打つ。


「最近は民意だけでなく、日本政府や各国機関からの突き上げが酷いのです。

 ちなみに小坂井さんには、何の落ち度もありませんよ」


 大西さんの言う通り私は悪いことをしているわけではない。放置しておくと氾濫を起こす危険なダンジョンを、攻略しているだけだ。

 だがこうなったのは全て、創造主様って奴の仕業なんだ。少なくとも奴は動画投稿を楽しんでいる…と、愚痴りたくなる。


 こういう時は保護者に頼るのが普通なのだが、祖母は既に施設に入っているので、あまり家には帰ってこない。それに痴呆ではないが体が弱いので、あまり無理はさせたくない。

 親戚も都会で暮らしていてこれまで顔を見せなかったが、今は見知らぬ者たちがタカリにやって来る有様だ。


「…大西さんに任せるよ」

「わかりました。会見の場所と日取りはこちらで決めさせてもらいます」


 大西さんが寄ってくる有象無象を追い払ってくれるているので助かっているが、彼女が居なかったら今頃どうなっていたか。

 だがそれでも今の流れを押し止めることは不可能であり、日に日に平穏から遠ざかっていく。


 まるでブレーキの壊れたトロッコに乗っているようで、オレたちが乗っちまった列車はよ! 途中下車はできねえぜ! …という台詞が余裕で脳内再生できるぐらい、八方塞がりに陥っている。


 そして夏休み明けの日本ランキングが五位だった。しかし今は順位表を知るのが怖くて閲覧しなくなったが、家に帰った時に世界ランキング九位になっていることを知らされて、私は思わず居間のちゃぶ台の上に情けなく突っ伏してしまう。

 まだ中学二年生なのに、大出世しすぎて怖い…と、震え声を漏らすのだった。







 ダンジョン攻略RTAでの功績は、もはや切り倒すのが不可能なほど大きく育ち、私の手を離れて勝手に独り歩きしている状態だ。今さらどうやっても元には戻らないし、今後も成長を続けるのは確実である。

 ならば有名人ゆえの悩みをどうやって回避するかだが、これはもう現状を受け入れ、先を見越して行動するしかない。

 今回の記者会見も世間があることないことを面白おかしく脚色する前に、自分から情報を発信して、流れをある程度コントロールするのが狙いだ。


「では今後も、小坂井さんはダンジョン攻略に挑むのですか?」

「当然です。創造主様も推奨していますし、氾濫防止のもっとも効果的な手段ですので」


 ダンジョン攻略の好景気で改築したばかりの清水村役場で記者会見を行っているのだが、突貫工事で何とか間に合わせた、大会議室の初利用者が私になるとは思わなかった。

 なお小坂井彩花は今回の主役ではあるが、最初と最後の挨拶以外は口を開かずに、専属秘書及び保護者の大西さんが対応する。


 なので私は多くのテレビカメラに囲まれ、フラッシュがひっきりなしに焚かれる中で、ひたすらニコニコとして、飾り立てられた背景をバックに椅子にチョコンと座っているだけであった。

 単独でダンジョンを攻略するのと比べれば、何とも楽な仕事でありがたい限りだ。


「ダンジョン産の食物を現地で食すのは何故ですか? 貴重な品ですし、持ち帰って鑑定を行うべきでは?」


 何処かの記者から投げかけられた質問だが、何となく私情が入った要求にも聞こえる。きっと自分のところの局で、ダンジョン産の食物を放送したかったのだろう。


「小坂井さんは収納魔法もアイテムボックスも使えません。

 なので詠唱魔法や魔道具を扱う冒険者と比べると、持てる荷物は極めて少量です」


 大西さんは今の質問を予想していたかのように、堂々とした態度で滞りなく答えていく。


「生存率を高めて荷を軽くするために、食べられる物はその場で処分する。

 それに不測の事態により、いつ消失するかわからないですし、物品の所有者は小坂井彩花さんです」


 大西さんの返答に、記者が渋い顔をして押し黙る。

 実は何も考えておらず、見た目が美味しそうだったので、好奇心の赴くままに料理して食べていただけだった。


 しかし背負う荷物を少しでも減らすためにも、宝箱から手に入れた食料品を腹に入れるというのは良い考えに思えた。

 実際私が一度に地上に持ち帰れる量は、収納魔法やアイテムボックス持ちよりも、遥かに少ないし、傷んだり消失したりする危険性を常に抱えている。

 今度は別の記者が手をあげて、違った視点から質問を受ける。


「ダンジョン産の貴重品の扱いについては、どのように考えているのでしょうか?」


 ダンジョン産の物品には値段が付けられない物もある。

 特にABランクのダンジョンの宝箱から出る物は、それが多く含まれており、自分が今回持ち帰った中にも当然のように混ざっていた。…と言うか、大半がそれだった。

 そういった扱いに困る貴重品は、これまでは倉庫の肥やしになっていた。


「清水村に個人所有の博物館を建てて、展示する計画が現在進行中です。

 貸し出しは情勢が落ち着き次第、前向きに検討するつもりです」


 歴史や美術、魔法や科学、現実や幻想、様々な面で価値が高い神話級の道具は、売り先と値段を決めるのも一苦労だ。

 だがいつまでも倉庫で埃をかぶせて無駄に持て余すよりは、博物館に展示することで人の目に触れさせたほうが、清水村の活性化にも繋がるしダンジョンの攻略に国が前向きになるかも知れない。


「えー…創造主様は何故これほどまで、小坂井彩花さんに注目するのでしょうか?」


 それは当事者である私も知りたいが、正直ありがた迷惑なので止めて欲しいのが本音だ。


「単独でAランクダンジョンを攻略可能。そんな類稀な個性魔法の使い手だからです。

 歴史に名を残すほどの実績をあげれば、貴方も創造主様に注目されるかも知れませんよ?」


 大西さんの返しに、記者会見場のあちこちで和やかな笑いが生まれる。

 私は確かに世界新記録を連発しているが、本当に実績で評価しているのかは怪しいところだ。

 何故ならノンカット放送や生中継をするということは、ダンジョン攻略とは関係ない箇所も、多分に含まれているからである。


 連休中の攻略動画には、神話級の食材を使った調理や食事風景、おトイレや就寝といった、ダンジョン攻略とは関係のない場面も、カメラアングル等の規制は入るが等速で流し続けている。


 水を沸騰させた小鍋の中に、宝箱から出てきた茨の冠を暗黒の刃で削り入れ、厚切りベーコンと一緒にグツグツ煮込んでいる動画の再生数は凄かった。

 なので自分には到底納得はできないが、需要あるのだと理解した。


 さらにネットではパジャマ姿の私の画像まで拡散されており、非公式で私をモデルにした薄い本が量産されるという、変な流れまで起こる始末だ。

 瞬殺したはずのフロアボスに負けていたり、謎の触手に絡め取られたり、実際の人物や団体には一切関係がないからと、やりたい放題である。

 でも幼女体型を盛ってくれたのは、ほんの少しだけ嬉しく感じる乙女心なのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 12/12 ・あたふた幼女 [気になる点] 茨の冠、食えるのかよw どんあ味だろう? [一言] やはり創造主は変態。でもノリがいいですね。
[良い点] いばらの冠を実食とはロックですねー [気になる点] 創造主様は紳士だけどストーカさんだ。 この世界の宗教情勢が気になる。 [一言] 超話題かつ小さ可愛いから新有明の女王になりそう。
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