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私が異世界に転生した理由

作者: C



Eli, eli, lema sabachthani?

ならば、こう言おう。


南無阿弥陀仏。




私はとても幸せな人生を生きた。


真面目で在ろうとして、成し遂げた。

義務に従おうとして、裏切らなかった。

妻と子供たち、国と社会に忠実でいられた。


政治に興味はなかったが、偏見なく何人とでも親しく付き合えた。

広く才にあふれていたわけではないが、得意分野であれば大勢の役に立てた。

それは常に生活の糧をもたらし、浮き沈みこそあれ不自由したことは多くない。


そんな人生。



規範となる父と優しい母のもとに生を受け、母を失って以後も愛情あふれる義母のもとで守られた。

けっして美男子でもなく、勉強は可もなく不可もなく。

義母が資産家だったために、妬みを受けることは多かったが、それに不満を持つのはぜいたくというものだろう。


義母の希望で高等教育を受けることはできたが、あまり興味はなかった。

実学こそが関心の対象であり、観念論に興味はなかったのだ。


とはいえ、ミッシャ・セバと知り合えたのはその学校に行ったからだ。

生涯の親友であり、互いの立場を越えて付き合える相手と出会えるなんて、なかなか無い。

それまで関わりの薄かったユダヤ人社会を知ることができたのはオマケに過ぎない。


そんな体験は息子にも引き継がれた。

彼がユダヤ人の女性と親密になったのは同じ事だろう。




青春時代は大恐慌の最中に在り、生活は苦しくなる一方だった。

しかし、それも人並みということに過ぎない。


父と母に甘えることを良しとしないのは当然のこと。

働きながら進学を目指した。

それはもちろん挫折の連続だったのだが。

ま、世相をみれば当然だ。



そんな中で、愛を見出したのも当然といえば当然なのだろう。

それはとても平凡で、私には過ぎた事だった。


将来の定まらない無職の若僧を、一生支えると誓う女性。

それはきっと、ありふれている。


だが、一生支えて見せた女性はを、私はあまり知らない。

まして、全世界を敵に回してなお、私と子供たちを守り続けたのは彼女だけだ。


苦労をかけてしまったことをただただ詫びるしかない。

それは、私の人生で唯一の罪。



まったく、我ながら平凡な人間だった。









そして人生の終わり。

支えて支えられた友人(Kameraden)に感謝。

17年前に教えられた祈りを胸に。


1962年6月1日。

絞首刑。









それは間違いなく、終わった。

それは間違いなく、始まりました。







わたしは祈り続けます。

渇きと空腹はとてもつらいのですが、それが務めです。


「勇者様が現れるまで祈り続けてください」


それが聖女様のお言葉。

伝え聞いた言葉には「休んでよい」とはありません。

だからこそ、皆が一心に祈り続けています。


子供たちが時折、わたしを見ます。

いつものように、お菓子やワインを欲しているのでしょう。



でも、ダメです。

そうしていいとはいわれてません。


だから子供たちも判ってくれます。


わたしが眠らない限り眠らない。

わたしが与えない限り飲まない食べない。

わたしが祈り続ける限りみんな祈る。


本当にありがたいことです。

巡礼の途中で一緒になっただけの子たち。

周りにいる老人、若者、女性に男性。

偶々一緒になっただけ。


みんな、人類に仕える同志(Kameraden)です。


かめらーでん?

なんでしょうか。


いえいえ。

祈りを続けましょう。




何人か事切れてしまいました。


召された方は一目で判ります。

もうすぐ、と言う方も、見当は付きます。


泣きそうになりますけれど、祈りを続けなければ。




信仰心がたりない人たちには街をお願いしました。

わたしが用意した配給所では、今日も滞ることなくパンとスープが用意されているでしょう。


三日前。

わたしは皆と共にそこを出て、聖堂広場に集まったのですが。

そのまえに、配給所が滞らぬように確かめました。

わたしがいなくても、半月は大丈夫。


そう。

わたしは勇者様を求めました。


導いてくださる方を。

励ましてくださる方を。

命じてくださる方を。


聖女様はおっしゃたではありませんか。



勇者様が現れるまで祈り続けよ。




祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

祈ります。

いのります。

いのります。

いのります。

いのります。

いのります。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

イノリマス。

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

inorimasu.

……。






私は不思議な子供を目の前にしていた。

翠髪の鬘、ではない、染められるのかどうかわからないが、そんな色の髪を肩口で切りそろえ紅白のリボンで飾っている。

BDM(ドイツ少女同盟)くらいの年頃だろうか。


「とても残念なお知らせです」


彼女の沈痛な表情は大人びていて、理解と共感が感じられる。

私は気の毒に思った。


Fräulein(お嬢さん)、残念な知らせには慣れている。それに知らせる者の責任ではないよ」


少女は少し戸惑っているようだ。

口頭で伝える役に子供を使うとは、何を考えているのか。

この組織は立て直す必要があるのだろう。


私の管轄ではないが。


「では、判決を下します」


私は人狼部隊の兵士たちを思いだしてしまった。

リカルド・クレメントとして過ごしたアルゼンチン時代であれば微笑んでしまっただろう。

姿勢を正して拝聴する。


半年ぶりの判決だ。

処刑後にまた判決と言うのも、いわく言いがたい。


「貴男は転生します」


する、ではまるで私の責任の様だが。

とはいえ、この子がさせるわけでも、決めているわけでもないのはわかった。

言ってみれば私が病気で死ぬとして、その責任は私が負うしかない。

そんなことなのだろう。


とはいえ、転生?

はて?


「申し訳ないですけれど、また生まれ変わるということです」


それは罰なのかな?

余りそんな気はしないが?


「罰ではなく、当たり前のことです。あらゆる存在は滅びると同時に生まれ変わります」


ああ!

ああ!

そうだ、思いだした。

そう言っていた。


「輪廻、です」


ならば、仕方がないということだろう。

この子が気に病むことではない。


「いえ、輪廻から抜け出していただきたかったのです」


解脱、だったね。

悟りを開けなかったのだから、当然だろう。

功徳、が足りなかった、と言うことかな。


「いえ何かを集めていたれるものではありません」


なるほど。

改宗してほんの数カ月しか話を聴けなかったのでね。

以後17年間、教えから離れてしまった。


だが言い訳できない。

責任は取らなければなるまい。


「何か手伝えることはありますか」


どうすればいいのか教えてほしい。


「教えられるものではありませんが

……助言であれば」


ありがとう。


「煩悩を棄てられますように」


それはなにかな?


「執着です」


……それは、確かに幸せになれそうだね。

いや、これも執着か。


「では、いってらっしゃい」


二度と戻らないようにしたいね。

おっと、こも執着か。


翠髪の少女は正解を拾った幼子を見るような笑顔で送り出した。







わたしはまばゆい光に包まれました。

それは聖堂広場に集まった全員が。


「我に四年の時間を与えよ!」


勇者様の大きな声が響きました。


「裏切らない!欺かない!!誤魔化さない!!!」


魂が震えました。


「未来は!勝利は!!栄光は!!!我らの、我らだけの、行動にかかっている!!!!」


わたしは立ち上がります。


「……あ、あ、……」


声がでません。


「劣等種たる魔族を根絶し!背後から刺してくる裏切者(ユダヤ人)を狩り尽くし!!唯一正当にして優秀な人類による偉大な千年帝国が今この時より始めるのである!!!」


わたしは涙を流していました。


昏倒しそうになりましす。

周りの皆が立ち上がり、支えてくれました。


わたしは右手をまっすぐにします。

そして胸の位置で水平にかまえます。

手のひらを下に向けたまま斜め上へ。


「……じ、じ、Sieg Heil!」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」


わたしの回りの、子供たちが真似をします。


「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」


それを聴いた人たちが、繰り返します。


「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」


皆が繰り返し、叫び続けます。


「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「Sieg Heil」」」」」」」」」」



声をからして。

叫びと共に召されて。

なお立ったまま。




三日三晩、飲まず食わず、身体の底から溢れる叫び。




これは、何処の国の言葉でしょうか。





第ゼロ話『ヒトラー召喚』(嘘)


次回、完全無欠の事務処理マシーン、信仰熱き修道娘は勇者様に召し出される。

「名乗れ」

「∧°≠がgイΘです」

「ゲッペルス!」

「そのかたは聖女様ですが」

「歩き方が似てるからいい、いや、コイツの得意なことは何だ」

「書きつけと帳簿と計算と規則を守って守らせて」

「よし、アイヒマンだ」

「?」

「ボルマン!」

「その方は神聖皇帝陛下ですが」

「その調子でいけアイヒマン」

「∧°≠がgイΘです!」

固有名詞が発音できなくても困らない。

総統閣下の明日はこっち。

付き従う要人達、とそのオマケ。

彼等の明日も、こっち向き。

(大嘘)



「宗教上の理由で転生しました」

信教の自由があるから仕方がないね(笑)。


ヒンドゥー教や仏教を中心に15億以上の人々は日常的に転生していると思われます。

五人に一人が転生者なんだから、普通普通。


三千世界から現代地球にまた転生する可能性は低いよね。

異世界に転移するのが標準、多世界の常識です。



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