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歴史短編 「鎖」 ~三国志・私説呂布伝~

作者: 覇王季札

昔、書いてたものを加筆修正したものです。

よければご一読ください。

建安3年(198年)、下邳城に立てこもり曹操軍に抗戦していた呂布軍であったが、水攻めによる士気の低下、部下の離反。そしてついには呂布自身が城楼に追い詰められ降伏。曹操の本陣の前に引っ立てられた。

軍師の荀攸は、主の前にこの勇猛で知られた敵将を連れて行くことを危惧して、呂布を捕縛するのに過剰なまでの鉄鎖で彼の肢体を覆うが如く縛り上げた。




「さすがにちょっと縛りすぎじゃないのか?孟徳どの。せめて首のあたりを緩めてくれ」

「虎を縛るのに紐で縛る馬鹿はおらんよ。鉄鎖で縛られた事を誇りに思うんだな、奉先」

「あはは。私の武は評価して下さるか。ならば、殿が歩兵、私が騎兵、そして共に天下を狙いましょうぞ!」



呂布は飛将軍との異名を持つ。

その名の如く中華を飛び回り、鬼神の様な強さを誇った。

史書によると、彼の人生は狡猾な裏切りを繰り返す、目先の利益しか眼中にしかない愚かな、血塗られた軌跡であると伝える。





しかし、彼は、ただ、誰かに認められたくて、ただそれだけのために戦った。



戦う事を繰り返せばいつか認められると信じて。。。




だが、天下を動かす大略、英雄の才略なかりせば、この乱世を飛翔することあたわず。

義父、暴君、美女、軍師、領土・・・。総てを抱えて飛び続ける才能を彼は持っていなかった。





丁原。并州刺史である彼は、呂布の才覚を見込んで養子にしたはずであった。しかし、与えた役職は主簿。武勲とは無縁の文官職である。呂布にとってははただの万一の護衛かのように扱われる人事に大いに不満であった。君主である丁原の傍で政治の中枢を垣間見れるという利点にも気づかずに……


董卓。丁原を切り捨ててまで仕えた新しい主君。先陣を任され彼は水を得た魚のように戦った。才覚を認めてくれたのはうれしかった。

しかし、新しく義父と仰ぐ男は何もかも信じられないのであろうか、家臣に対して猜疑の目を向けるようになる。さらに、洛陽を焼き民を捨てて長安に遷都した行動が呂布には理解できなかった。



貂蝉。儚げな雰囲気を持ちながら、先の先まで見通しているかのような瞳を持つ才女。武骨な男である呂布はこの女に才覚を認められ頼られる事が何よりも快感であった。二度目の主君殺しの汚名をかぶって、今の地位を放棄してしまってまでも、彼女を欲した。 それが彼女の計略であろう事も薄々気がついてはいたのだが…。


陳宮。この偏屈な策士の考えはよくわからない。稀代の才気あふれる男、曹操を見限って呂布の元に来た変人。陳宮は呂布に自己の理想を見たのか、自分の理想の君主に呂布を育てようとしたのか。


濮陽と徐州。共に元は曹操と劉備の領土。それをかすめ取ったのは他ならぬ呂布である。主君になり、地の上に立ち民を統べる事に最初は理想を描いていた。だが、民は呂布を歓迎しなかった。認めてもらうことに飢えている呂布には、逆に否定されることがつらかった。多少文章を書くくらいはできるが、内政能力だけではなく将来の展望もはっきりしないのではなおさらである。

民や家臣の主君に対する不満・猜疑心が、ついには彼の得手である、自由な思い、破天荒な行動を委縮させた。




大空を飛び舞っていた武神は、飛べば飛ぶほど身動きが取れなくなる。

一つを断ち切っても、また一つ新たな鎖で縛られる。

ついには、東の方に堕ち、一歩も動けなくなった……。





「相変わらず愚かな男だな。自らが動けなくなるようなしがらみなど捨て去ればよいのに、なあ雲長」

「兄者にはわかりませぬよ、あやつの気持ちは。兄者ほど何者にも縛られない男を私は知りませぬうえに」

「ちぇ、いうじゃないか。まあ、あいつも大分中原を飛び回ったみたいだが、そろそろ限界だろうな。いっちょ引導を渡してやるか」

「兄者、何をされるおつもりで?」

「ちょっと孟徳の野郎に、釘をさしておくだけだよ」





「っ孟徳殿!!丁原と董卓のお仲間に入るおつもりか?!!」




「…ちぃっっ!!相変わらず軽い男めっ!!!お前の様な地に足の着かないやつが一番怪しいじゃねぇかっっ!!俺なんかよりも、よっぽど裏切りなれてやがる癖にっぅぅっぅ!!」



そう叫んだ後、呂布は巻かれた鉄鎖を首に掛けられ縊り殺された・・・・。





「地に足か・・・・。おれっちは奴とは違い、この大地におれっちの心を縛りつけてくれるような、何かを得ないと駄目かもしれないな」


処刑される呂布を見つめながら、劉備はそう呟いた・・・。


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