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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
予言の子  編

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イツキの教育

 ー◇ハビテ◇ー


 イツキを抱っこ出来なかったリーバ(天聖)様が少し暴れたけど、なんとか無事に会議が始まった。


 しかし、俺はまだ最も重要なことを、皆さんに伝えていなかった。

 昨夜はイツキの取り合いになったので、話すタイミングを失ってしまったのだ。


 やっと落ち着かれたリーバ様が、今日の議題を告げられる。


「では、これからイツキの教育担当者について・・・」

「はい。私がやります」


は~っ……マーサ様、まだリーバ様の話が途中なのに、そんな、自信満々で手を上げなくても……と、俺は心の中でため息をつく。


「マーサ、君の担当は武術だろう?学問は私の方が相応しいと思うが」


今度はジーク様が、直ぐに文句を言いながら、自分もちゃっかり手を上げている。


「やはり、同じリース(聖人)である私が適任でしょう」


それが当たり前だろうという顔をして、リース(聖人)のエルドラ様までが、キラキラと金色の瞳を輝かせながら手を上げる。

 いやいやエルドラ様、それはイツキがかわいそうです。1年間の殆どの日々を旅して回る、まるで流浪の民のような生活をしているエルドラ様になんて、絶対任せたくないですから。


「そう言えばマーサ、君はこれから、ランドル武道大会の準備があっただろう!」


困ったもんだと言う顔で、リーバ様がマーサ様の予定を言う。


「チッ!」


マーサ様はあからさまに不服そうな顔で舌打ちする。マーサ様お願いです。もう少し品位を……リーバ様が可哀想です。


「それにエルドラ、君はそろそろ旅に出る頃だよね?」


リーバ様、よく言ってくださいました。そうです。絶対に止めてください!


「あれ?そうだったかなぁ……」


エルドラ様は他人事のように言うと、視線を泳がす。自分の仕事をしてください。早く出発しましょうよ。


「そうだな、仕方ない、皆忙しそうだから、僕が側に置いて・・・」

「「ジーク様、お願いします」」


凄く嬉しそうな顔で、リーバ様が手を上げるけど、マーサ様とエルドラ様に会話を遮られ、あっさりと却下され、教育担当はジーク様に決定する。

 リーバ様、そんな凄いショックを受けたような顔をしなくても……リーバ様は誰よりもお忙しいのですから。

 俺的にはこれ以上、三聖(天聖、聖人、教聖)の崇高なるイメージを壊すのは止めて欲しいところだ・・・

 小躍りして喜んでいるジーク様は置いといて、今がチャンスだと、俺はイツキの最大の秘密を話すことにする。



「実は、最も重要なイツキのあることを、まだお話してないんですが……」


 はぁー?っと、まるで突き刺すような視線が俺に集中する。怖い……怖いですって!


「ハビテくん?何かなそれは?」


リーバ様が、テーブルに肘をつき手を組んで、ゆっくり、そして低い声で問う。


「実際に、見て頂ければ分かります」

「だから何を?」

「イツキの腕にある印をです」


なんとか怯まずに、俺はリーバ様に話を切り出せた。

 レガート国の《月の印》のことは、当然全員知っていたが、国王になる訳ではないので、どんな《月の印》かは、さほど興味が無かったようで誰もそれを訊ねなかった。


 ちょうどその時、イツキが乳母の所から帰ったと知らせが来たので、直接見て貰うため俺は急いで迎えに行くことにした。





「なあイツキ、お前の運命はどうなるんだろう?」


執務室に向かう廊下を歩きながら、俺は無邪気に笑うイツキを抱いて話し掛ける。

イツキに待ち受ける運命を思うと、どんどん心配になっていく。

しかしリーバ様の執務室の前まで来たところで、俺は覚悟を決め、ゆっくり深呼吸をしてからドアを開けた。


「お帰りイツキ。今日から私が君の教育担当だよー」


そう言うとジーク様は、嬉しそうにイツキを俺の腕から奪っていった。

 そしてどれどれと言いながら、全員満面の笑顔でイツキの顔を覗き込む。

 ジーク様はイツキの右腕をそっと、そっと出していく。

 しかし、そこに何も印が無いのを見て、皆が沈黙して俺に疑いの視線を向ける。


「ハビテくん?イツキはバルファー王子の子供だったよね?」

「どうしてレガート王家の《月の印》が無いんだ?」


マーサ様とジーク様が、怖い顔と低い声で脅すように問い質してくる。


「そう言えば昨夜、バルファー王子のはず・・・とか言ってたよな?」


リーバ様が思い出したように呟き、俺をギロリと睨んできた。ひえーっ!!


「まあ待て。きっと温めたら浮き上がるとか、そういう秘密があるんだろう?なあハビテ」


 いえいえ、そんな秘密はありませんからエルドラ様。


「イツキの《月の印》は左腕に有ります」


「左腕?」と怪訝な顔でぶつぶつ言いながら、今度はイツキの左腕を確認する4人である。


「・・・?」

「えっ!」

「うっ・・・!?」

「なんだこれはー!!」


う~ん……期待を裏切らない4人の驚き方と、予想外の出来事で言葉にならない4人に、俺ははっきりと告げた。


くれない色の紅星こうせいです」




 レガート国に《月の印》があることは、他国でもわりと知られている。

 それとは別に、身体の何処かに、四角や丸、線だったり、模様だったりの印を持って生まれる子供が希にいる。

 そういう子供は、なにがしかの能力や才能を、持って生まれることになる。


 ここ200年くらい、大陸中で印を持つ子が発見されるのは、年間20人にも満たなくなった。  

 発見されると、国や教会に知らせて保護対象者とされ、親に特別給付金が支給される。

 10歳位になった時、人助けの出来る能力者であれば教会へ、国にとって有用な能力や才能であれば、国が学校で教育を受けさせた後、仕官させるのが一般的な流れだった。


 印を持って生まれた子は、教会でモーリス(中位神父)以上になったり、王宮に仕官し重用されることから、どの親も、産まれた我が子の身体に、印がないかを必ず確認するのだ。

 ごく希に、大きくなってから印が出る者もいる。

 シーリス(教聖)のマーサ様とヨンテ様は、10歳前後に印が現れたタイプだそうだ。



 《星》の印を持って生まれる子は、100年に1人くらいしかいない。

 イントラ連合国開国の祖イントラ、ダルーン王国3代目国王、ハキ神国の初代王、リーバ(天聖)など、過去7人が青や黒の《星》の印を持って生まれている。


 そして、ランドル大帝、開祖ブルーノア、レガート国国父(555年即位)の3人は、赤い《星》の印を持って生まれていた。

 この3人の赤は、ランドル大帝がくれない色、他の2人は赤とだけ、歴史書に史実として残っている。


 今では遠い伝説として語り継がれ、上級学校や高学院の歴史の授業で習うくらいである。

《星》の印という奇跡の存在は、現在では忘れ去られようとしている存在なのだ。



「《予言の子》イツキは、このランドル大陸を統べる運命の子である。その命を守ることが、我々の最大の使命であると心に刻め!《紅星》のことはこれより先、三聖とハビテ以外が知ることを許さず、イツキは、いついかなる時も、左腕を出すことを禁じる」


リーバ様は先程までと違い、静かに……それでいてはっきりと、深く心の中に響く声で指示を出された。


「「「了解しました」」」


リース(聖人)シーリス(教聖)の3人が、ピシッと素早く礼をとる。慌てて俺も礼をとった。


 さっきまでとは全く違う、重厚にして澄み渡るリーバ様の声と、他3人の緊張感に俺は驚いた。全員の体からオーラが出ている。


 これが、これこそが本来のリーバ様、そして三聖の姿なのだ!

 

「ジーク、教育は全てそなたに任せる。ただし、6歳までに6カ国語をマスターさせよ」

「承知しました」


「マーサ、6歳までに基本的な護身術をマスターさせよ」

「承知しました」


リーバ様は次々と指令を下される。


「エルドラとハビテ、イツキを支える為に必要な、《六聖人》を急いで探し出せ」

「「承知しました」」


「それから、シーリス(教聖)ヨンテを呼び戻し、命に代えてもイツキを守る乳母を探させよ」

「「「承知しました」」」


最後は全員で答え礼をとった後、急ぐように執務室を出ていった。




◇  ◇  ◇


 明日から新たに《六聖人》を探す旅に出発することになった俺は、出発を前にイツキと2人で、【青の聖堂】に来ていた。

 聖堂の外壁に使われている青い石は、光に当たるとキラキラと反射して、聖堂全体が光に包まれている。

 清みきった空気と、千年以上過ぎても変わらぬ威厳と荘厳さを保つ聖堂内は、そこに神様がいらっしゃるのではないかと思う程、ビリビリと緊張感が伝わってくる。


「イツキ、お前の使命が大き過ぎて、俺は心配になるよ。いろいろなものを背負って生きて行くんだぞ・・・大丈夫かぁ・・・暫く会えないけど、元気で・・・とにかく元気でいろよ」


 まだこんなに小さな赤ん坊のイツキの使命と、明日の別れを考えると、何でかなぁ……涙が止まらない。

 川の中から助けた時の光景が、まるで昨日のことのように思い出されてくる。


「ブルーノア様、この子は、貴方が《予言の書》に記した《予言の子》です。そして《六聖人》の中の《裁きの聖人》でもあるそうです。二つの役割があるから、オーラの色も2つあるのでしょうか?」


イツキを抱いて青い絨毯の上を歩きながら、祈りの祭壇に上がると、ブルーノア像の前にゆっくりと進み出て膝をついて礼をとる。そして神様に問い掛けた。


「いつの日か……イ、イツキがこの大陸を救うまで?……も、もしかして統べるまで?俺には分かりませんが、どうか……どうかイツキを守ってやってください。……お、お願いします」


 俺はイツキを抱いたまま、ひざまずいて祈り続けた。


「みんなお前を可愛がってくれるから大丈夫。すごく珍しいお前の黒髪と黒い瞳。可愛すぎて皆メロメロだから……お、俺が居なくても寂しくないよな?」


にこにこと俺に微笑み掛けてくれるイツキを、震える手で優しく抱き締めた。


『なんだか、寂しいよイツキ・・・』


 するとイツキの体が、金色のオーラに包まれ始めた。

 そのまばゆいイ光は、次第に俺の体も一緒に包んでいく。


『大丈夫心配しないで、大好きハビテ』


光に包まれながら、そんな声を聞いた気がした。


 金色の光が消えた時、頭がスッキリして、心も身体も軽くなっていた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。



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