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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
予言の子  編
7/56

予言の真実 

加筆・訂正したため、非常に長い文章になっています。

登場人物が増えてきましたので、誰からの視点で、話しているかが分かるよう、名前を追記しました。

 やっと目的地、本教会に着いたのは、もう日が暮れてからだった。


 ブルーノア教の聖地であり、開祖ブルーノアが始めに造った建物、それが現在本教会の中にある、【青の聖堂】である。

 青が、ブルーノア教のシンボルカラーとなっているのは、この【青の聖堂】からきていると伝承されている。


 

 ランドル大陸暦元年、開国の祖ランドル大帝は、争いの絶えなかったこの大陸を、武力ではなく話し合いで統一した。

 そして、荒んだ人々の心に明かりを灯し、秩序と救いを与えたのが、開祖ブルーノアである。


 2人は親友だったと、伝えられている。

 

 この時、大陸は3つの国に分かれていた。

 その後、555年に6つの国に分かれて、現在に至っているのだ。



 俺が本教会に着く少し前、リーバ(天聖)様は《予言の書》の、一部分解読に成功していた。

 そして、三聖(天聖1、聖人1、教聖2)4人で会議を開いていた・・・らしい。

 


ー◇リーバ(天聖)◇ー


 楕円形の大きなテーブルが置いてある、リーバ(天聖)である僕の執務室で、会議は始まった。


 会議が始まって直ぐに、僕は「はぁ~っ」と長く深い息を吐いた。そして暫く黙ったままでいた。  

 重い空気に我慢できず、最初に口を開いたのは、リース(聖人)エルドラ38歳だった。


「リーバ様、その訳の分からない、溜め息は止めてください。どんな困難なことが書いてあったんですか?《予言の書》の無茶ぶりなんて、いつものことじゃないですか!」


 今日も何だか、金髪、金色の瞳がキラキラ眩しいね。たった一人しかいないリースで、苦労させてるんだろうなぁ……早く他のリース(聖人)を探して、楽にさせてあげたいんだけどね。それにしても、相変わらず年齢不詳の外見は、そこら辺の女性より無駄に美しい……と、僕は心の中で呟いた。

 

「今度は何なんです?誰かがランドル山脈に住んでるとかですか?」


シーリス(教聖)マーサ40歳は気が短いので、イライラしながら尋ねる。


「うーん……まだこの世にいないかも・・・」


天井を見上げながら、誰とも視線を合わせず、僕は力無く答えた。


「はあー?何がこの世にいないんです?」


もう一人のシーリス(教聖)ジークは、いつものはっきりしない僕の態度に、やや投げやりに尋ねてきた。


「何だか皆冷たいなぁ。もう少しリーバの僕に敬意を払ってよ」


解読とその内容に疲れ果てた僕は、冷たい態度の3人に少し拗ねて言ってみる。


「だったら、さっさと話してください!」


机をバンッと右手で叩いて文句を言っているのは、真っ赤なショートカットの髪に、赤い瞳、凄い美人のマーサである。性格も行動も、そこら辺の男より男らしいと言われている残念な……いやいや、頼もしいシーリス(教聖)である。


「分かったよ。では話そう。僕は今日《予言の子》についての、解読に成功した。これがその文面だ!」


そう言いながら、僕は解読専用の厚い紙を机の上に出し、皆の前に広げた。



 そこには、こう記されていた。


◆◆大陸を救う光の子は、国王の長子として生まれる。しかし皇太子とはならず、試練を越えて後《裁きの聖人》となる◆◆



 暫くの沈黙の後、「その光の子が生まれるのは、1084年。今年だ」と僕は言った。


「国はレガートで間違いないんですよね?現国王の子なら既に2人いますが、また生まれると言う話は聞いてないですし、長子ならいますよ。しかも今は内戦中だ」


リース(聖人)エルドラは、なんだか疑るような視線で僕をみて、確認するように訊く。


「いや、現王クエナは病で危ないと聞く。ならば2人の王子にも、蜂起した元王子にも、国王になる可能性がある」


やや冷静に話すのは、焦げ茶色の髪にアンバーの瞳、背は低いが、男らしいイケメン48歳シーリス(教聖)のジークである。


「そこじゃないだろう!国王の子を、しかも最初に産まれた長男を、何と言って連れて来るのだ!」


机の上をバンバンと叩きながらマーサが怒る。顔が怖いよ……マーサ……


「今が1月だから、確かに今年(1084年)中には生まれるかなぁ……」


僕は遠い目をして呟き、は~っと再び息を吐いた。

 

 そんな絶望的な会議をしている時、ハビテが帰って来たと知らせが入った。

 ついこの前旅立ったばかりのハビテが、何故もう帰って来たのだろうと、皆は疑問に思ったが、この世にまだ生まれていない《予言の子》は、さすがに探せないか……と皆で息を吐いた。





 リーバ(天聖)の執務室のドアが、コンコンとノックされ扉が開いた。


「失礼します。只今戻りました」


ハビテが凄くいい笑顔で入って来て、三聖の4人に礼をとる。澱んだ空気が少し浄化されたような気がする。

 弱冠20歳にしてファリス(高位神父)になった《予言の旅人》ハビテは、茶髪のベリーショートに焦げ茶色の瞳、長身でがっしりした体型で、物怖じしない素直な青年だ。


 何だか苦労させちゃってるなぁ……


「おかえりハビテ。随分と早く戻って来たね」


僕は右手を上げ礼を解く。長旅から帰ったのに、どこか余裕の態度が見てとれる。


「はい、話せば長くなります。お許しを頂けるなら、先に夕食を済ませて来てもよろしいでしょうか?」


「ああ良いよ。では30分後の対面でいいかな?」


「いえ、イツキを風呂に入れるので、1時間後でお願いします」


ハビテはそう言うと、さっさと下がって行った。なんだか忙しい奴だなぁ・・・


『ところでイツキって誰?』っと、部屋に残された4人は首を傾げた。


 ああ……また空気が重たくなった。仕方ないなぁ……ハビテが戻る前に、4人で結論を出しておかねば、新しい指示が出せない。僕は「よっこらせ」と言いながら姿勢を正した。

 


ー◇ハビテ◇ー

 

 いやー、びびったなぁ。ちょうど三聖会議をしていたなんて。

 今回はシーリス(教聖)イバス様と、ヨンテ様はご不在なんだな。まあ、シーリス様が4人揃っていることなんて、殆ど無いことだしな。


「すみません。さっき頼んだ夕食と赤ん坊のお風呂は、準備できましたか?」


俺はモーリス(中位神父)以上が利用できる食堂で、チーフコックで世話係の、ミユナさんに確認する。

 ミユナさんは、茶髪の長い髪を後ろで括り、珍しい黒目の持ち主で、とても働き者だ。

 

 食堂は30人位が一度に入れる広さがあり、食事時間は決まっていない。だいたい夜10時までなら、誰かが世話をしてくれる。

 食事以外でも、いろいろな雑用を頼むことが出来るよう、常に数人の人が配置してある。


「夕食は残り物だよ。イツキちゃんのお風呂は、今から準備するから、先に食べてしまいなよ」


ミユナさんは若干言葉遣いが男性的だが、俺が上級学校を卒業して初めて本教会に来た時から、ずっと世話をしてくれている母親のような存在だった。

 

 18歳でモーリスになった俺は、随分年上の人ばかりの環境の中で、かなり浮いた存在だった。少し孤独を感じていた頃、自分の息子と同じ歳だと言って、何かと声を掛けてくれ助けてくれた。

 今夜の夕食だって、残り物と言いながら、俺の好物ばかりだ。


 夕食後イツキを風呂に入れて、リーバ(天聖)様の執務室に再び向かった。




ー◇リーバ(天聖)◇ー


 結局きちんと結論が出ないまま、重い気持ちでハビテとの対面となった。


「お待たせしました。イツキを連れて来ました」 


元気よくドアを開けて、ハビテが入って来た。

 そしてうつむきがちにハビテの方を見た全員が、その姿を見て思わず立ち上がってしまった。


 なんと!その腕に赤ん坊を抱いているではないか!


 その瞬間、あれ程重くドロドロした空気が、パアッと軽く爽やかになった。

 この時点で、僕は開祖ブルーノア様に『ありがとうございます』と感謝した。(さっきまで文句を言っていたが)


「さあ、長い話を聞こうじゃないか。あれどうした?皆立ち上がって?」


何事も無かったかのように、僕は皆の方を見て問う。


『いや、あなたも立ち上がってたでしょう?!』と、心の声が聞こえた気はするが、それは置いといて、僕はハビテを、いや、ハビテと赤ん坊を椅子に座らせた。


「それで、その赤ん坊はどの王子の子供かな?」


僕はその赤ん坊を《予言の子》であると信じて、祈るような気持ちで尋ねた。


「えっ?どうして判るんですか?」


ハビテは驚いて、僕と赤ん坊の顔を交互に見る。


『やったー!王子の子なんだ』僕は机の下で、グッと両手を握った。


「それは《予言の書》を、解読したからだよ」


僕は余裕の態度で答えて見せるが、まだ、大事な確認事項は残っている。

 



「先王アナクの息子、バルファー王子の子供のはずです」


ハビテはなんだか自信なさげに答えた。

 バルファー王子か、確かに次期国王の可能性が高いな。しかし《はず》って何だ?まあいいか、先に進もう。


「名前は、イツキなのだな?」

「いいえ、本当の名前は、キアフ、キアフ・ル・レガートです」


「オオー」と、周りから声が上がる。

 

「それで、誕生日は何時かな?調べは出来ているか?」


1番大事な確認事項を、涼しい顔をして(本当は勇気を出して)訊く。


「1084年1月11日と聞いています」


なんで生年月日なんか訊くのかな?という顔をしながらハビテは答えた。


「「「「でかしたぞハビテ!」」」」


皆は手を叩きながら、小躍りして万歳をしながら叫んだ。


 間違いない!僕は心の中で喜びの涙を流した。


 それから、これまでの経緯を一通り聞いて、最後の質問をした。


「この子のオーラは、何色だった?」

「・・・」


ハビテはうつむいて、直ぐに答えない……どうしたのだろうか?


「では、この子の能力はどうだ?」

「判りません・・・」


なんだか歯切れが悪いなぁ。オーラの色も能力もまだ分かっていないのか?


「オーラは見えたのだろう?色はまだ見えないのか?」


堪らなくなったシーリス(教聖)マーサが、赤ん坊の側に寄って、顔を覗き込む。


「出会った日に視えたのは、黄金色のオーラでした」


やっとハビテは顔を上げて、オーラの色を答えた。


「光の子だから黄金色なのか!何か凄い色だな」


そう言いながら、いつの間にかシーリス(教聖)ジークの奴、僕より先にイツキを抱いている。許せーん!


 そこからは、我先に《予言の子》イツキを抱っこしようと、競争になってしまった。

 結局僕の番は最後になったが、僕が抱いた時が一番良く笑っていた。もう他の奴には抱っこさせてやらない!


「あのー。イツキにはもうひとつオーラの色があります」


 さっきから、何だか歯切れが悪くなっていたが、それのせいだったのか?


「もうひとつって、2つも能力を持っているということか?それで色は?」


エルドラがハビテの話に食い付いて、興味津々という表情でハビテを見る。

 こういう変わった話には、俄然興味を示すんだよなリース(聖人)エルドラは。


「もうひとつの色は、銀色です」

「「「えーっ!?金色に銀色?」」」


全員が叫んで絶句した。

 なんてことだ!どちらも能力が想像出来ないではないか・・・


 銀色のオーラが視えた時の、詳しい状況を話をハビテから聞いて、全員沈黙した。

 黒い煙に包まれて……とか、初めて聞く能力だったのだ。


 いつの間にか夜も更けてきたので、今夜はお開きにして、明日また会議をすることにする。





 翌朝、《予言の子》イツキは、教会の人気者になっていた。

 僕が抱っこするチャンスがない……リーバ(天聖)たる者、赤ん坊を抱っこして、ヘラヘラは出来ないのだ……う~ん。


 昨夜は遅くまで会議をして、さぞや疲れた顔のメンバーが集まっているだろうと思いきや、何故か皆爽やかな顔をしている。


「おはよう。朝から笑顔で出迎えられるとは、意外だったな。《予言の子》が見付かって、皆も嬉しいのだな」


「それは当たり前ですが、イツキを抱っこすると、何かこう、やる気が出ると言うか、パワーを貰うと言うか、とにかく癒されますよ」


うっとりと話すのはジークである。すっかり孫バカのじいじいである。


「皆さん、なかなかイツキを返してくれないんですよ。抱き癖がついちゃうなぁ」


全然困って無さそうな顔で、すっかり母親役のハビテが文句を言っている。


「何を言ってるの!イツキは教会の養い子。私の子供でもあるのよ!ああーっ、あのかわいい顔。本当に心が洗われるわね」


いつもは殆ど男の様になっているマーサが、今朝は美人の女性に見える。恐るべし赤ん坊の笑顔……完全に母性本能をくすぐったようだ。


「皆さんには悪いけど、イツキは僕の指をギュッて握ってましたよ。やっぱり同じリース(聖人)だって、分かってるんでしょうねえ」


エルドラまでが自慢気に言う。お前までイツキを抱っこしたのか?何故だ!


「今すぐイツキを連れて来い!僕は今朝、まだ抱っこしてないぞ!」


なんで私だけ我慢しなければならないのだ。もうリーバの威厳とかどうでもいい!


「あっ、すみません。今、貰い乳しに行ってますリーバ(天聖)様」


ハビテが済まなさそうに、いや、嬉しそうに言った。



 イツキの能力のひとつが、どうやら人々に【癒しとパワーを与える力】らしいと気付くのは、もう少し先のことである。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

平成29年12月22日、加筆・訂正しました。

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