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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
予言の子  編
3/56

赤子の名前 

 その時俺は、大切なあることを思い出した。レガート国民なら誰でも知っている話だ。


『レガート王家の正当な継承者の腕には《月の印》がある』ということを。


 本当に王の血筋であれば、満月、半月、三日月の内どれかの印(月の形をしたアザのようなもの)を、持って産まれてくるのだ。

 その印の色は青。しかしごく希(奇跡的)に赤が出ることがある。特に赤は吉相と言われている。

 歴代の王の内、赤で満月だった王は、名君と称えられている。


 俺は恐る恐る肌着にくるまれた、キアフの右腕を確認する。


 なんだ、何もないじゃないか!がっかりしたような、安心したような・・・

 一応反対の腕も確認だけはしておくか。確か印があるのは右腕だったと思うけど……と、キアフの小さな身体を斜めにしながら確認する。


「・・・?」

「ええぇーっ!」


信じられないものを見た気がして手を離し、数秒固まった後、もう一度ゆっくり左腕を見てみる。


 赤い、いや、くれないの星だ。《紅星こうせいの印》だ!!

 

 それは、鮮やかな紅色の、3センチ位の美しい《星》の形をした印だった。


 俺の頭はずっと混乱したままだが、母親をこの場に置いておく訳にはいかない。

 人気がないのを確認し、道まで抱き抱えて運び、目印となりそうな、大きなキニの木の下に埋葬し祈りを捧げた。通りには面していない、裏側を選んで。

 

 この大きなキニの木の木陰は、きっと旅人達の休息の場になるだろう。ある時は陽を避け、ある時は雨を、滅多と降らない雪でさえ、この大きな枝振りなら大丈夫に違いない。


「これで、お前の母さんは寂しく無いだろう?」

 よく眠っているキアフに、語り掛ける。


「キアフ、お前の母さんとはここでお別れだ。最後までお前を守り、名を残してくれた。本当に立派な人だった」


 最後のお別れをさせようと、マント上部の留めを外し、そっとキアフの顔を外に出す。そしてしゃがんで姿勢を低くした。


 その時、キアフが目を覚まし泣き出した。

 別れが分かるのだろうか?

 その泣き声が大きくなったと同時に、なんとキアフの体が光り始めた。


 この眩い光りは何なんだ?

 まるで、リース(聖人)様と同じような、いや、リース様のキラキラした眩しさとは種類が違う。


「黄金のオーラだ!!」


俺は思わず、また叫んでしまった。





 俺達はカイの街にある、正教会を目指し歩き出した。

 一番近いキノ村で、キアフの服やおしめ、その他諸々を買い、貰い乳をして、俺も遅い昼食をとった。

 今日起こったことを思い返していると、食堂の女房から赤ん坊の名を聞かれた。


「お父さん、その子は何て名だい?」と。

 名前かぁ……本当の名前を告げるのは、この子の命に関わるかもしれない。

 気持ち良さそうに、すやすやと眠るキアフの顔を見ながら、「イツキと言います」と、俺は咄嗟に亡くなった弟の名前を告げていた。弟のイツキは3歳の時、俺や兄が目を離した隙に池に落ちて亡くなってしまった。

 

 考えてみれば、弟は池に落ち命を失い、キアフは川から救い上げた命だ。

 これも運命と言うやつなのだろうか……


 それにしても、お父さんかぁ・・・そうだよな、他人が乳飲み子を連れて、旅をしていたらおかしいよな。

 これからも、旅の途中でいろいろ質問されるだろう。その時慌てないように、いろいろ考えておかなくては。

 

 お腹もいっぱいになったので、そろそろ出発しようと、倍の量になった荷物を持って立ち上がる。

 すると親切な女房が、お腹が空いたら飲ましておやりと言って、ヤックの乳を分けてくれた。ヤックの乳は牛の乳より栄養もあり、赤ん坊が飲んでも大丈夫だからと。


 慣れない赤ん坊の世話をすることになった俺は、その親切が嬉しくて、店を出た所でつい涙ぐんでしまった。

『きっと近い内に改めてお礼に来ます』そう心に誓って村を後にした。 



 


 なんとか2日間で、カイの街にたどり着き胸を撫で下ろす。

 本当なら、馬車を使いたいところだが、情報収集を兼ねて徒歩にしたのだ。


 思惑通り、途中で怪しい奴らに出くわした。

 キノ村を出発して、1時間くらい経った頃、ただの旅人とは思えない、目付きの鋭い傭兵か軍人の様な、2人組の男達に遭遇する。


「赤ん坊を連れた若い女を見なかったか?」と尋ねられたのだ。


「そんな女は見てないぜ」


俺はそう答えたが、抱っこ帯の中で眠るイツキの顔を、確認するようにじろりと覗き込んできた。


「この子はお前の子か?」


探るように手を伸ばして、何かを確認しようとする。


「あっ!止めてくれよ。今やっと寝たとこなんだから」


触らせまいと、俺は身体を捻りながら文句を言う。


「お前は、何処から来て何処に行くのだ」


人にものを尋ねる態度が、余りにも横柄なのに少し頭にきたが、俺は、考えていた作り話をすることにした。


「そんなこと、お前らには関係ないだろう!俺は喧嘩して実家に帰った女房を、追いかけてカイの街に行くんだ」


すこぶる不機嫌だと思わせるように、ふんっとそっぽを向く。


「女房の奴、こんな乳飲み子を置いて出て行くなんて、ちょっと女と酒飲んだぐらいで、普通出ていくか?」


物凄く怒った感じで、愚痴混じりに話す。


「その上、家の金まで持って出やがった。あんた達こそ、俺の女房を見てないのかよ?」


わざと悪ぶって俺は捲し立てる。


「いや、もういい。行け」


どうやら、自分達の探している赤ん坊とは違うと判断したようだ。

 残念ながら、それ以上の情報は得られなかったが、まあ良しとしよう。


『やはり追っ手が掛かっていたんだ』

イツキの顔を見て、この子は早急にハキ神国の本教会に連れて行き、保護すべきだと確信した。




 


 カイ正教会に到着したのは、ちょうど午後の祈りが終わり、人々が帰るところだった。

 レンガと木造の組み合わせで建てられた、珍しい建築方法の教会は、焦げ茶色の造りで落ち着いた印象を与えている。他の特徴として、窓の殆どが美しい色付きガラスでできている。


 この街の住人の多くは、ランドル山脈から産出される、木材、鉱石に関連した労働者や買い取り業者だ。

 体力自慢の屈強な男がうろうろしている為、刺客や怪しい人間を、判別し難いので注意が必要だろう。

 幸いにも今のところ、カイの街に入ってからは、怪しい人間には出会ってない。

 しかし用心のため、ただの信者を装って大聖堂に入ることにする。


 イツキを抱いて祭壇の前に行くと、午後の祈りを終えた、ファリス(高位神父)のトーマ様が片付けをしていた。

 俺は信者の振りをして、一番前の長椅子に腰を下ろした。


「ファリス様、どうしても聞いて欲しい相談があります」


そう声を掛けると、トーマ様は俺だと気付いたが、赤ん坊を抱いていたので、わざと知らない振りをして言われた。


「分かりました。ちょうど祈りの時間が終わったところなので、談話室でお話を聞きましょう」


 まだ大聖堂の中に、幾人か人がいるのを見たトーマ様は、いつもと違うと俺の様子を察し、談話室へと案内してくれたのだ。

 さすがトーマ様だなと思いながら、イツキが泣き出して、目立たないよう気を付けながら進む。そして、談話室の扉をガチャリと開け中に入る。


「御元気でしたかトーマ様?ご無沙汰してます」


俺は安堵の気持ちと、嬉しさから、満面の笑顔で挨拶する。


「なんだお前、いつの間に子供作ったんだ?」


と、からかいながら俺の肩を、やはり笑顔でポンッと叩く。


「どうした?お前仕事早いなあ。もう《予言の子》を見付けたのか?」


そんな筈は無いだろうと思っている口振りだ。


「まだミノス正教会には寄ってないのか?」

「はい。まだミノスの街には行ってません」


暖かいお茶を淹れ、俺の前に置いてくれる。そしてイツキの顔を覗きながら問う。


「何処で拾って来た?」と。子供が大好きなトーマ様の顔が緩む。


「こいつを助けたのは、キノ村近くの川の中で、母親も一緒でした」


イツキの顔を見て思い出した俺は、フーッと長く息を吐いた。


「きっとトーマ様は、こいつの母親を御存じのはずです」


 トーマ様はガタンと椅子から立ち上がり、そんな筈はないという顔をする。


「まさか……まさかカシアの子なのか?」

「はい。確かカシアと名乗ったと思います」


 暫くの沈黙の後、全てを見通したようにトーマ様は暗い顔をして訊いた。


「カシアは亡くなったのだな?・・・この子を残して」


トーマ様は、ドカリと力無く椅子に座り、テーブルに両肘を突き、組んだ手の上に額を付け、深い溜め息をついた。



 それからトーマ様は、カシアについて知っていることを話してくれた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

主人公はイツキですが、4歳くらいまでハビテ目線で、進行していく予定です。

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