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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
イツキ修業 編

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19/56

イツキ、修業を始める

 翌日の朝、カイ正教会全員の見送りを受けながら、俺とイツキは、目的地ミノス正教会へと向かうことになった。

 もともとトーマ様に、挨拶しようと立ち寄ったカイ正教会だったが、思わず事件に巻き込まれ、出発が1日遅れてしまった。

 しかしそのお陰で、イツキの能力が確認できたことは、大きな収穫だったと言えるだろう。



「イツキ、ミノスの街は綺麗だぞ。水路や噴水や街路樹など、これまで過ごしたどの街より整備されているから、きっとお前も気に入ると思う」


俺はミノスの風景を思い出しながら、これから向かう街について、馬車の中であれこれと教えていく。


「ねえねえ、ミノスに着いたらミノス正教会で暮らすの?」

「いや、ミノス正教会には、既にモーリス(高位神父)のエダリオ様がいらっしゃるから、俺達は正教会の近くに家を借りて住むんだ。マキさんと言うお世話してくれる人が一緒だ」


 俺はミノス正教会に、どんな人たちがいるのか、簡単に説明することにした。

 まず、ファリス(高位神父)のエダリオ様は45歳。カルート国出身で、ご家族はカルートにいらっしゃる。手のひらに羽根の印があって、動物を使う能力者だ。ハヤマ(通信鳥)を育てて、大陸中に通信網を確立された凄い人だ。

 次がモーリス(中位神父)のダヤンさん35歳。奥さんと中級学校に行ってる息子がいて、正教会に住んでいる。主に警備や揉め事担当だな。


 他には、一般神父4人、警備2人、学生が2人、管理人夫婦、他に使用人が数人働いている。確か番犬とハヤマもいるはずだから、カイ正教会よりも賑やかだ。

 それから、一般神父の1人はイツキに勉強を教えてくれる予定だから、頑張ってリーバ様の課題をこなしていこうな。

 イツキは、楽しそうに俺の話を聞きながら、質問もしてくる。


「犬がいるの?楽しみだなぁ。中級学校に行ってるお兄さんは、遊んでくれるかな?」

「犬の名前はバウだ。小さいけど頭の良い奴だから、嫌いな人間の命令は聞こえない振りをするし、触られるのが嫌いな変わり者だが、番犬としては優秀だとダヤンさんが言ってたな。それから、ダヤンさんの息子と一緒に、剣術と体術を習う予定だ」


 途中の町で昼食を取り、午後は馬車の中で退屈しないように、先日ミリダ国で買ったおもちゃで遊びながら盛り上がった。

 



 ミノス正教会に到着したのは、ちょうど夕食の時間だった。

 カイ正教会から飛ばしたハヤマ(通信鳥)が、俺たちの到着をミノス正教会に先に伝えてあったので、きちんと夕食も用意してあり、暖かく出迎えて貰えた。


「はじめましてイツキです。これからお世話になります。どうぞよろしくお願いします」


いつもの笑顔で挨拶すると、当然のことながら、皆が笑顔になった。

 何度見てもイツキの癒しパワーは凄い。いつもはその可愛い笑顔だけで充分だが、今日は金色のオーラまでちょっぴり出している。

 今夜は、食堂で俺たちの歓迎会をして貰えると言うことで、それぞれ自己紹介などしながら、楽しい会話が弾んだ。


 夕食後借家に着いたら、マキさんが風呂の用意をしていてくれたので、イツキとゆっくり湯に浸かり、旅の疲れを取った。そして湯船で寝てしまいそうだったイツキを、ベッドに寝かせた。

 俺は、自分の部屋に置いてあった、座り心地の良さそうな椅子に腰を下ろし、フーッとひと息く。

 明日から、イツキにとって厳しい修業の日々が始まる。それは俺にとっても試練の始まりだと言っていいだろう。


 こんなに可愛いイツキを、5年後にはレガート軍に入隊させなければならないのだ。


 いくら《予言の書》に書いてあったとしても、俺にとっては『何故軍隊なんだ?』と、納得出来ない思いが強い。

《予言の子》は、軍隊に入ってもケガをしないのか?それもたった9歳でだ・・・


 イツキに与えられた課題は、大きく分けて3つあった。

(1)9歳までに6カ国語の基本をマスターさせること。

(2)軍隊に入るまでに、剣と体術を使えるようにすること。

(3)9歳までに中級学校の勉強を終えること。


 6カ国語はまだ分かる。既に本教会で3か国語は基本ができている。

 剣と体術は、いくらなんでも体格ができてない。まだ剣を持つことさえ無理だ。

 本教会でシーリス(教聖)のマーサ様から、護身術の基本は習っていたが、まだ幼児なんだ・・・

 中級学校は、普通10歳から行くもんだろう?いくらイツキが天才的だと言われていても、遊ぶ時間は何処にある?


 確か「普通の子供と遊ばせて、世間一般的な経験をさせることが大切だ!」とか言ってたはずのリーバ(天聖)様が、《予言の書》を解読してから、「イツキならきっと大丈夫。私だって血の涙を流しながら、お前に任せるんだぞ」に、変わってしまった。



 イツキの将来のために、ミノス正教会に赴任させられたのは、ファリスのエダリオ様、モーリスのダヤンさん、神父のパルの3人で、エダリオ様以外はその事を知らない。


 エダリオ様がミノス正教会に呼ばれたのは、大陸一の伝達手段の持ち主であり、何かあれば直ぐに本教会と連絡が取れるし、動物の持つ察知能力を使って、教会の安全とイツキの安全を守れるからだ。

 ダヤンさんは、ブルーノア教が主催する教会関係者の武道大会で、優勝経験もある猛者で、最強と言われているシーリスのマーサ様が、是非にと言って推薦した人物なのだ。


 神父のパルは、イントラ連合の高学院で、医学と薬学を学び、昨年の暮れに優秀な成績で卒業したばかりである。パルは17歳の時、リース(聖人)のエルドラ様からその才能を見出だされ、教会で働くことを条件に、高学院入学を果たし、学びたい欲求を叶えられた人物である。


 は~っ……正直気が重い。本来ならダヤンさんは、ダヤン様と呼びたいところだが、俺がファリス(高位神父)なばかりに(さん)呼びしなければならない。せめて、会話は普通にして貰えたらいいのだが……

 パル神父だって、まさか4歳のイツキを教育するとは思っていないだろう……

 しかもエダリオ様でさえ、レガート軍入りの為の修業期間だとは、ご存じではない。




「おはようございます。マキさん」


イツキが元気良く挨拶して、朝食が始まる。今朝はイツキの大好きなオムレツだ。

 昨夜マキさんから、イツキの好きな食べ物や、嫌いなもの、気を付けるべき健康について、生活習慣など細かいことまで質問された。

 さすが、首都ラミルのサイリス(教導神父)様が、推薦されただけの女性だ。掃除も料理も完璧で、言葉遣いや行動は、少し前まで子爵婦人だったらしいので、スマートで美しい。

 ここに来た詳しい事情は、おいおい聞けば良いだろう。



「さあイツキ、今日から修業が始まる。何をどう学ぶかは、それぞれの先生と話し合って決めるから、お前は教会に着いたら、まず先に犬のバウと仲良くなるように。できるか?」


「やったー!バウに会えるんだ。僕、絶対に仲良くなるよ!」


 ミノス正教会までは、徒歩10分くらいで到着できる。町外れにある教会までの道すがら、ポツポツある家と畑を眺めながら、川沿いの道を毎日イツキと歩いて通えることは、俺にとって至福の時間である。

 明日以降も、こうしてイツキが笑顔でいてくれるのか心配でならないが、そうなれるよう手配し、気を配るのが俺の役目なのだ。俺が弱音を吐くわけにはいかない。

 

 『イツキが、悲しい時も涙の時も、苦しい時も辛い時も、俺が絶対に笑顔にしてやろう。時には厳しく、時には優しく、何があってもお前を守ってみせる』俺は歩きながら、改めて自分に誓った。





「おはようございます。ではこれからリーバ(天聖)様からの指令を伝えます」


教会に到着した俺は、早速目の前の2人、エダリオ様とダヤンさんに、それぞれがイツキに教育すべきことを伝える。


「それでは私は、カルート語と動物についての知識を、教えれば良いのだな?」

「はい。エダリオ様はファリスの仕事があるので、合間で良いとのことでした」


エダリオ様は直ぐに了承され、自分の執務室に置いてある動物についての資料を、嬉しそうに引っ張り出している。


「俺はダルーン語と、剣と体術を教えれば良いのだな。それで、どのくらいのレベルまで教えたら良いんだ?」


「はい。出来れば息子さんのペーター君と同レベルくらいには・・・」


「はぁ?ペーターと同じって、あいつは11歳で、かなり上の訓練をしているが、イツキはまだ4歳だろう?剣はまだ無理だぞ」


 ダヤンさんに、何言ってんだ?と呆れた顔をされたが、まあ予想通りの反応だ。


「それでも9歳までに、剣も使えるようにしてください」


「何のためだ?イツキが教会にとって大事な子だとは聞いているが、そこまで厳しくする理由は何だ?何故9歳なんだ」


ダヤンさんは俺の言う訓練内容の無茶ぶりに、机をバンッと叩きながら迫まってくる。 


「そ、それは、9歳になったら、イツキをレガート軍に入隊させるためです」

「はあ?レガート軍?」


 ここまで来たら真実を話して、協力して貰うしか方法はないのかも知れない。


「いやいや、ちょと待て……イツキは《予言の子》ではないのか?私はリーバ(天聖)様からそう聞いたが・・・」


「えーっ!?イツキは《予言の子》なのですか?」


エダリオ様は、しまった!という顔をされたが、どの道ダヤンさんにも話さなければ、納得して貰えそうにはなかったから、ここは良しとしとこう。


「確かにイツキは《予言の子》です。それと、リーバ様の許可は頂いてませんが、俺の独断で、お話ししておきたいことがあります。聞きますか?止めときますか?」


 エダリオ様とダヤンさんは、ゴクリと唾を飲み、う~んと考え始める。


「俺は聞くことにする!」


ダヤンさんは覚悟を決めたようで、迷いは無さそうだ。さすが武闘派だな。


「うーん……リーバ様の許可なしなあ……」

「じゃあ、俺だけ聞いときますからファリス様」


ダヤンさんは、煮え切らないエダリオ様に、急かすかのように言う。


「分かった。仕方ない、私も同罪だな……」


エダリオ様も結局聞きたかったようで、ようやくダヤンさんに同意する。でも別に罪を犯す程でも無いんだけどな……


「罪なら私にだけあるので・・・でもこれは、最高機密事項です。イツキは《予言の子》であると同時に、《六聖人》のひとり、《裁きの聖人》でもあります」


 暫く2人は沈黙し、ダヤンさんが先に重い口を開いた。


「と言うことは、リ、リース(聖人)様なのか?」

「そうです。イツキはリーバ(天聖)様に次ぐ地位です」

「「…………」」


 エダリオ様は、まだ固まったままなので、管理人のモーリー夫人にお茶でも頼もう。


 大人たちがファリスの執務室で話をしていた頃、イツキは番犬バウと対峙していた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

なかなかイツキが大きくなりません・・・

でもそろそろ成長してくれるはずです。

誤字、脱字等見つけたら、教えてください。

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