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予言の紅星2 予言の子  作者: 杵築しゅん
予言の子  編

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イツキ、癒しのパワー

加筆と訂正で、長い文章になっています。

ー◇ハビテ◇ー


 俺は、倒れていた少年を連れて、来た道を戻ることになった。

 少し戻った方が町も大きいので、病院や薬屋も確実にある。

 それに、この少年が居たと思われる町に、連れて行くのは危険かもしれない。


「ハビテ、私はこの先の町で様子を探ってくる。この子の身元が分かれば、事情も分かるだろう」


「了解しましたエルドラ様、私もこの子から、出来るだけ話を聞いておきます」


リース(聖人)エルドラ様と俺は、二手に別れて目的地に向かって歩き出した。




 少年が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。随分目覚めなかったので心配したが、どうやら命に危険は無いようで安堵する。

 医者からは、栄養失調と疲れが原因だろうと言われた。

 目覚めてからはパンをスープに浸した軽い食事を与え、しばらく様子を見ることにする。

 落ち着いたらいろいろ話を聞こうと付き添っていたが、固く口を閉ざして話し始める様子はない。視線さえ合わせようとしない。


「俺はハビテという神に仕える者だ。心配しなくても良いから、何があったのか話してごらん」


出来るだけ優しく話したつもりだが、神に仕える者だと言ってから、より脅えるようになってしまった。下を向いて、絶望的な表情で、声を出さずに泣いている。

 

「とても辛いことがあったんだろう?」

「・・・」

「何か力になれることがあったら、言ってごらん。僕は君の味方だよ」

「ご、ごめんなさい・・・僕は死ななきゃ・・・みんなが不幸に・・・僕は・・・」


それだけ話したら、布団に突っ伏して、今度は少しだけ声を出して泣き出した。


「急がなくて良いから、もう少し元気になってから、話せば良いよ」


俺がそう話し掛けると、クビを振って「ダメなんだ。僕は悪魔の……」と言って、気を失うように眠ってしまった。

 いったい何が、少年を追い詰めるのだろう……?死を口にするなんて……


 次の日、少年は食事を食べようとしなかった。


「食べて元気にならないと、お母さんが心配するよ。授かった命を粗末にしてはいけないんだ」


なんとか食事させようと、いろいろ声を掛けていたが、お母さんという言葉に反応して、しぶしぶ食事を取ってくれた。




 その日の夜、リース(聖人)エルドラ様が隣町から帰って来て、少年の名前と、悪魔の子として教会からも追い出されたこと、本妻の仕打ち、町の住民たちが何をしたのか等を聞いた。

 俺は怒りと理不尽さと、かわいそう過ぎて、涙が出てしまった。


「ハビテ、泣いている場合ではない。この子を追い詰めたのは教会だ。私たちは償う立場なのだ」


エルドラ様はそう言いながら、辛そうに肩を落とされた。



 エルドラ様と遅めの夕飯を食べながら、俺は少年レイに関する、ある仮説を話していた。


「レイは能力者ではないでしょうか?それも予知能力では……」


 エルドラ様は、自分もそう思うが、そうではないかも知れない、だから確かめる必要があるのだと、俺の方を見てニヤリと笑う。


「お前がオーラを確認出来れば間違いない。そのためには、辛い質問をすることになり、レイをまた苦しめることになるだろう」


能力者は、常時オーラを出している者と、力を使う時だけ出す者の、2つのタイプに分かれている。

 今のレイからはオーラを感じられない。ならば、方法は1つしかない。


 翌朝、エルドラ様はレイに尋ねられた。


「レイ、お願いがあるんだ。私はこれからハキ神国の、本教会に帰るのだが、道中危険なことがないか教えて欲しいんだ」


 レイは恐怖で凍りついたような表情でエルドラ様の顔を見て、「ウワー!」と叫びながら、窓から飛び降りようとした。

 そこまで追い詰めるつもりはなかったが、レイにとっては、堪えられないショック、いや、恐怖だったのだろう。

 俺は嫌がって暴れるレイを、落ち着くまで無理矢理に抱き締めていた。  

  

「レイ、お前は何も悪くない。悪くないんだ。お前は能力者で、人の役に立つことが出来る人間なんだ」


一段と強く抱き締めて、背中を優しく撫でながら言ってやる。そしてエルドラ様を見て頷き、オーラが確認出来たことを伝えた。



 しかし、レイは心を開かなかった。


『悪魔の子である自分が、人に必要とされることなんて、有りはしないんだ……』


 それ以来一言も言葉を発せず、食事は取るものの、どこか遠くを見詰めて、決して視線を合わせようとしなくなったのだ。

 

 俺達3人は、至急馬車で本教会に向かうことにした。その目的は2つ。

(1)、このままではレイの心が崩壊してしまうので、なんとか助けるため。

(2)、レイの能力が、本当に予知能力であれば、その特異性から《六聖人》の可能性がある。オーラの色が判らないので、リーバ(天聖)の判断を仰ぐため。


 ハキ神国の首都シバに到着して、俺は先に本教会に向かい、リーバ様に報告することになった。

 エルドラ様は、本教会に行くことに恐怖を募らせるレイのため、シバの街を観光し、少し気持ちを解してから向かうよう決められた。




ーリーバ様の執務室にてー


「私が直ぐに面会するより、暫く様子を見よう。自分を悪魔の子だと思い込んでいる様なので、時間を掛けて心を開かせよう。母親の元を離れて寂しいだろうから、ここはチーフコックで世話役の、ミユナに任せた方がいいだろう。他の世話係の女性にも伝えてくれ」


「はい、承知しました」


俺はリーバ様の指示に従い、ミユナさんに事情を話して、レイを預けることにした。

 ミユナさんは、俺の話を聞いて暫く黙った。そして涙を拭いてからこう聴いた。


「それで、レイ君を追い出した神父はどうなったんだい?」と。


「それはもう、エルドラ様が怒り心頭で、カルート国ヘサ正教会のサイリス(教導神父)様に、その神父の資格を永久剥奪をするよう命じられたよ」


「それなら良いが、それから?」


「それから、レイの居た町には、ヘサ正教会指導不足の責任もあるからと、正教会のファリス(高位神父)が、正しい教えをするため向かわされたらしい」


「それは仕方ないね!そんな神父がまだ居たなんて……」と言いながら、ミユナさんは俺のご飯を作り始めた。





◇◇ レイとイツキ ◇◇


 半日後、レイは本教会の中庭のベンチで、色とりどりに咲く花々を見ながら、ポツリと座って風に吹かれていた。


「ねえねえ、おにいたんだーれ?」


イツキはレイの側に行き、いつもの『ねえねえ』攻撃・・・いや質問を投げ掛けていた。

 レイは一瞬びくりとしたが、声を掛けたのが小さなイツキだと判ると、安心したように息を吐いた。

 しかしイツキの問いには答えず、視線を反らした。


「僕はいちゅき、ここに居るの。どこか痛いの?さみしーの?」


イツキは、レイの顔を覗いて心配そうに首を傾げる。

 レイは、イツキのキラキラした瞳が眩しくて、辛く申し訳なくなって泣を零した。


『僕は悪魔の子なんだ。こんなかわいい子と話をしてはいけない』


「あっちへ行って・・・」


絞り出すような声でイツキに言った。


「どちて?・・・おにいたんの涙はきれーだね。キラキラしてるよ」


そう言いながら、イツキはレイの右手を、両手でそっと包むようにして握った。

 レイは涙に濡れた顔で、イツキを見る。そして、自分の右手が小さな手に握られているのを見て、声を上げて泣き出した。

 少し前まで、顔を見ただけで石を投げられ、近付いたら死ねと言われていた。そんな僕に、天使のような可愛い子が手を握って、話し掛けてくれている。


『僕の、僕の涙を綺麗だと言ってくれた・・・』


 風が優しい花の香りを運んで来て、通り過ぎて行く。


「おにいたん、いい子いい子」


イツキはベンチに登り上に立って、今度はレイの頭を撫でていた。

 レイはおそるおそる、そしてそっとイツキを抱き締めてみた。


 すると不思議なことに、どんどん体が軽くなっていく。カチカチだった体が解されていく。

 そして心の中に暖かい何かが入って来る。


「君は天使なの?」


そっとイツキを抱き締めたまま、少し上にあるイツキの顔を見て聞いてみた。


「僕は、いちゅき。友達だよ」


イツキの笑顔が眩しい。そして友達だと・・・友達だと生まれて初めて言ってくれた。


 レイは、ずっと考えないようにしていた神様に『ありがとうございます』と感謝した。

 自分は悪魔の子だから、神様のことを考えてはいけないんだと、我慢していたのに。


「あのね、おにいたんの回りにねぇ、虹の色が見えるよ。それはねぇ、僕のお友だちの印なんだよー」


そう言うと、イツキはレイの隣にポスンと座った。


 その時、誰かの足音が近付いて来てこう言った。


「この子、イツキはね、大きくなったら、ランドル大陸を災いから救うという、使命を持って生まれて来たんだ。その大変な運命を背負っているイツキを、助けてやって欲しいんだレイ君」


 誰だろう?とレイは少し警戒しながらも、その人物を見詰めることが出来た。


「リーバ様こんにちは」イツキは元気よく挨拶する。


『リーバ様?・・・えーっと、リーバ様って・・・あっ!!』


 レイは慌ててベンチから立ち上がり、側に平伏した。


「レイ君、大変辛い思いをさせてしまったようだね。君は何も悪くないんだ。君はね、開祖ブルーノア様が選ばれた尊い能力の持ち主だったんだよ。さあ、立ってもう一度ベンチに座りなさい」


リーバ様は、レイの両腕を軽く掴んで、立ち上がらせる。


「・・・」


レイは何も言えず、まだ現実に付いて行けてない様子だ。


「イツキ、レイの回りに虹色が見えるのかい?」


「はい!きれーな七色の光が見えまちゅ。それからね、お首の横に鐘の(しるし)があるんだよ」


リーバ様の問いに、イツキは嬉しそうに、はっきりと答えた。


「首に鐘?」と言いながら、リーバ様がレイの首を見てみると、そこには《青い鐘の印》があった。

 

「レイ君、いつから鐘の印があったの?」

「えっ?僕に印?そんな印なんて、ありませんでした」


リーバ様の問いに、レイは自分では見えない、印があると言われた場所を触りながら答えた。


『僕は印の持ち主だったの?』

 

 それからリーバ様は、自分の執務室にイツキとレイを連れて行った。



ー◇リーバ様◇ー


「改めて、紹介しよう。リース(聖人)エルドラと、ファリス(高位神父)ハビテだ」


 レイは2人が凄く偉い人だったと知って、その場に平伏そうとしたが、もう何が何だか分からなくなり、へたり込んでしまった。


「驚かしたかな?すまんすまん」エルドラが謝りながら、レイを椅子に座らせる。


「レイ君、さっきも話したが、我々には君が、そして君の力が必要なんだ」

「僕が必要?」

「そう、必要だ!」


 僕からの思わぬ言葉に、まだレイは困惑している様子だ。


「ハビテ、イツキがレイのオーラは虹色、つまり七色だと言っている。そして、この《青い鐘の印》を見てくれ」


 エルドラとハビテが、私の笑顔を見て、レイが《六聖人》の1人だったと理解して、手を取り合って喜んでいる。

 そしてレイの首の横にある《青い鐘の印》を見て、「えーっ!」っと、驚きの声を上げた。昨日までは無かった印があったのだ。


「どうやら、イツキの能力が発動したようだ」


私はニコニコしてイツキの方を見ながら言う。

 エルドラとハビテは、イツキと仲良く手を繋いで嬉しそうにしているレイを見て、イツキがレイの心を開いてくれたのだと分かったようだ。手を組んで天を仰いでいる。神とイツキに感謝しているのだろう。


「イツキ偉いぞ。今日もいい子だったな!」


ハビテがそう言うと、イツキは大好きなハビテの腕に飛び込んで行き、抱っこされた。


「さあレイ、いや、将来のリース(聖人)レイに、改めて使命を与える」


 その場に居た全員が、ピシリと姿勢を正し礼をとる。


「我々と共にイツキを助け、ランドル大陸を守るように」


「あ、あり、ありがとうございます。力いっぱい努力し、必ず使命を果たします」


 レイは涙を流しながら、笑顔で礼をとった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次も新しい出会いがイツキに訪れます。


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