第二話 一人にしてください、ホント、マジで
こういうの需要あるのかな、っていう試験的な投稿です。
スークルカーストと呼ばれるものを知っているだろうか。まぁ、知っている者は多いだろう。いわゆるカースト制度に例えたクラス内、あるいは学校内での身分制度のことであり、誰かが明確に示したものでは無いが、知らずに構築される身分制度である。ちなみにこの最上位に位置する存在の特徴は、クラスのいわゆる人気者。一人ぼっちで過ごす俺でさえ名前を知っているような連中である。
ここでは、とりあえずスークルカーストを三つに分けよう。
最上位、中間、最下位である。ちなみに最上位はさっきも言った通り。このクラスでもそれは存在する。
紹介しよう。あれが我らが二年二組のスクールカースト最上位の存在だ。
いつものように机に突っ伏して眠っていた俺は、そこまで考えたところでクラス内を見回した。ザッと目を向け、そこに目当ての連中を発見する。校則に引っかからない程度に茶色に染めた髪に、整った顔立ち、高い身長と爽やかな笑顔を見せるあの男。俺的イケメンランキングでクラス一位に輝く男、立花智也である。又聞きしたところによると、運動のみならず勉学にも秀で、実家も金持ちとか。なるほど、周りを囲んでいる女子グループも可愛い子が多いところを見れば、リア充と呼ばれる者の筆頭なのだろう。
あ、リア充とはリアルが充実している者たちのことである。決して彼女持ちじゃないとだけ言っておこう。ちなみに俺は違うが、ぼっちでもリア充はいるらしい。友達はいなくても彼女はいる。趣味に全精力を費やす。彼らはソロ充とも呼ばれているとか。俺とは少し系統が違う。
ともかく、今はあのスクールカースト最上位に位置する男、立花である。あれが我がクラスのリーダー的存在だ。
前から思っているんだが、リーダー的存在ってなんだ。こいつが声を発しただけで皆が唯々諾々と従っている感じ、あれ、嫌い。世の学生諸君の中には、その事実に不満を抱きながらも周りに合わせて従っている者たちもいるのでは無いだろうか。浮かないようにと必死になって。俺、そういう奴らも嫌い。
とまぁ、俺の意見はいいとして、次に紹介するのはその立花と笑い合っている美少女、清水理紗だ。これまた整った顔立ちに女子の中では高めの身長。スタイルの良さだけで無く、その温厚な性格でカーストに関係なく気さくに接する女子である。普通、可愛くて相手を選ばず話しかける女子など嫌われる筆頭だが、何故かこいつは嫌われない。理由は知らん。あと、怒ったら怖い。一回だけ見たことがあるが、怖い。
これが我がクラスの男女ツートップである。こいつらをリーダー的存在とするクラスと言っておこう。
やっぱり、クラスのリーダー的存在って意味不明だよな。リーダーって認めてないようなもんだろ。いや、これについては言及することはやめておこう。
次に中間層。冴えないわけでは無いが、リア充グループに入りきれない者たちだ。言ってしまえば、女子との交流が少ないが、見た目が悪いわけでは無く、そこそこに声の大きい者たちである。こいつらの名前の詳細は省こう。何故って? 俺も知らないから。立花と清水を知っていただけでも俺は偉い。普段、話さないような奴らを覚えているわけがない。
とにかく、中間層の一人を紹介しよう。ああ、女子は分からないから。男子だけ。
坊主だ、以上。
え、まだいる? 中間層とかどうでもいいだろ。つーか、最下層に至るともうホントどうでもいいだろ。言っちゃ悪いが、アニメや漫画の話で盛り上がったり、カードゲームをしたりしている連中だ。こいつらは女子からも引かれている。ただ、たまにこの中でも女子と気さくに話す奴がいる。顔が良かったり、性格が良かったりする奴である。むしろこういった奴は、中間層や最上位の連中とも上手く付き合っているから、最下位にいれることは間違いなのかもしれないが。
ちなみにカーストの中には、地中に埋もれている存在がいる。最下位のさらに下だ。
誰かって?
俺だよ。いや、自分で言うのもなんだが、クラス内の発言力で言えばそこが妥当だろう。ちなみに俺ともう一人、このクラスにはぼっちがいる。そいつと俺のツートップだ。笑えないけど。
それが我がクラスのスクールカーストである。立花が遊びに行こうと言えば、この指止まれ方式で大半が群がる。中間層の奴が遊びに行こうと言えば、たまに立花たちが興味を示す。最下位の奴らが声を出しても誰も聞いていない。俺みたいな地中の存在は声を出さない。分かりやすい。社会の縮図みたいなもんだ。
さて、ここまでスクールカーストなどと説明してきたわけだが、これを意識している奴はいるのだろうか。確かに立花や清水はリーダー的存在だ。だが、リーダーじゃない。このクラスの代表でも無いし、声が大きいだけの一個人だ。
俺がここで言いたいことは一つだけ。スクールカーストとか馬鹿らしい、ってことだ。たまに最下位の奴らが声を上げた時、「お前が言うのかよ」みたいな空気を出す奴ら。マジで何なんだ。見ててイラつくんだけど。
とまたも俺は聞かせる相手もいない不満を心の中で漏らす。話す相手がいないから持論を打ち明けるのはいつも自分自身だ。ネットにでも書き込もうか、とも思ったが、それは何だか悲しい姿な気がしてやめた。それにそこまで言葉にしたい考えでも無い。
スクールカースト、誰が考え出したのやら。気づいていても黙っていれば明確化されることも無かったのに。言葉にしてしまったからこそ、それははっきりとした形になって出来上がってしまった。透明性のあるままにした方が良いものもあるのだ。
教室内に向けていた視線を机に戻し、俺は再び眠りに入る。仮に眠れなくても別に構わない。ぼーっと外を眺めているよりは、瞼を閉じて微睡みの中をたゆたっている方がまだマシだ。
そんなことを俺が考え、意識が重くなってきた時のことだった。不意に肩を揺さぶられる。いきなりのことに驚きながら、何だ何だ、と目を開いて顔を上げれば、目の前の席に一人の女子が座っていた。そこはそいつの席では無いはずだが、何故か当たり前のように座り、ニコニコと俺の方を見てくる。
「織田ー、焼きそばパン買って来てよ」
その女子――咲間響は、あろうことかそんな言葉を口にした。
「知るか。自分で買って来い」
ふざけたことを抜かす咲間を無視して、俺は再びの眠りにつく。あーあ、もう少しで眠れそうだったのになぁ。
「ちょちょ、じょーだん! 冗談だから、織田くん!」
あー、うっせぇ。つーか触んな。肩を揺するな。眠れないじゃねぇーか。
もう一度だけ顔を上げ、俺は咲間に目を向ける。整った顔立ちを持つこいつは、見た目は良い。と言うか、リア充グループに属している一人だ。普通であれば俺に声をかけるような人種では無い。にもかかわらず、声をかけてくる。
惚れられてる? んなわけない。
ぼっちって言っときながら可愛い子に声かけられるとかうらやま? 違う違う。勘違いするな。こいつとの間に甘酸っぱいあれやこれやは何も無い。だってこいつが声をかけるのは、別に俺に限定されるわけでも無いのだから。
咲間響。こいつは八方美人だ。基本、リア充グループにはいるものの、誰にでも声をかける。清水ですら近寄らないオタク集団にも興味が湧けば近づいていく。いわゆる、ぶりっ子とは少し違うが、清水とは別種の女子に嫌われるようなタイプだ。こいつも女子に嫌われているような様子は無いが、それは清水の親友だからだと思う。こいつが清水以外の女子と一緒に行動している姿は見たことが無いからな。
だから、俺はこいつが苦手だ。見た目可愛いから勘違いしそうになる。俺も男だからな。
「なんだよ、咲間。焼きそばパン買って来いよ」
「うちの購買って焼きそばパン売ってないよ?」
「コンビニに売ってんだろ。ほら、行け。しっし」
「……ちょっと響ちゃんは織田くんにドン引きだなぁ」
自分のこと響ちゃんとか言うお前に俺はドン引きだよ。
何度も言うが俺はこいつが苦手だ。別に嫌いじゃないが、とにかく苦手だ。一人でいたい俺に絡んでくるのも苦手だし、なまじ可愛いから勘違いしそうになるのも嫌だ。ほら、一人でいるとたまに寂しくなるだろ。そんな時に可愛い子に声をかけられて見ろ。惚れたらどうする? そんなんでこいつに惚れるとかごめんだ。
「織田くんさぁ、そんなんだから友達出来ないんだよ? もっとこう、普通に話そうよ」
あー、また咲間の説教が始まった。俺がこいつを苦手な理由の一つがこれだ。
こいつは、何故か俺をクラスに馴染ませようとしている。俺の方からクラスの連中と付き合うことに退屈を覚えているにもかかわらず、それを強要してくるのである。本当にやめて欲しい。
「だからさ、私が練習相手になったげる。そうだね、織田くんは昨日どんなことしたの?」
お節介焼き。それが咲間の特徴だ。もちろん、俺にだけ発揮されるわけじゃない。クラス内の奴らには基本的に誰にでも発揮される。俺ともう一人、ぼっちの奴がいると言ったが、そいつにもこいつは声をかけている。
見方を変えれば、過ぎた善人なのだろう。俺からすればいい迷惑だ。
「飯食って学校行って帰って寝た」
「あー、私と同じっ! 気が合うね、私たちっ!」
こいつ、無理矢理にでも仲の良い感じに持って行くつもりか。何が同じだ。ふざけんな。
「そうだ、織田くんってドラマとか見る? 昨日のドラマ、あの青春物のやつ。あれ面白いよね」
見てないし、興味ないし。
「主人公とヒロインがさ、もうくっつきそうなのに全然くっつかないんだよね。あと一押しじゃん、頑張って、って思うんだけど。でも、その一緒になりきれないのがせつないんだよね~」
知らんがな。
早く咲間の話し終わらないかなぁ……。
時計を見る。まだ休憩時間の終わりまで五分はある。その間、俺はこいつの話を聞き続けなければならないのだろうか。こいつの話してるようなクソ面白くも無い話が嫌で俺は誰とも付き合わないと言うのに。
そんな俺の気持ちなど露知らず、咲間が楽しげに勝手に話している。表情を変えない俺に何か気づかないのだろうか。
「って、織田くん、興味無さそうだね」
ようやく気付いたか。そうだ、興味が無いんだよ。そのドラマ見てないし。
「ごめんごめん、別の話にしよっか。うーん、織田くんって部活とかしてる?」
「してない」
「そうなの? 中学の時とか何かしてた?」
「してない」
「……そう、なんだ」
咲間の笑顔が固まる。俺の方が会話に応じる気が無いことに気づき始めたようだ。いい加減、俺に絡んでも無意味だと理解して欲しい。まぁ、ここで咲間が馬鹿なことの一つでもやれば話は変わるが、今の俺はこいつにそこまでの興味は無い。友達になりたいとも思わないし、話をして退屈が紛れるとも思えな――
「もっと人生楽しもういぇいッ!」
突然の咲間の奇声に俺は固まった。目の前で咲間が握り拳を作り、見たことも無いポーズで動きを止めている。こいつは何がしたいんだ。
しばらくして、反応の無い俺に気づいた咲間が誤魔化すように咳払いした。その頬が若干以上に赤くなっている。
「これ、今流行りのお笑い芸人のギャグなんだけど」
どうせそんなことだろうと思ったよ。見たことのある人間なら通用するんだろうが、生憎そのお笑い芸人を知らない俺からすれば、わけの分からない奇怪な行動を見せられたようにしか映らない。つまり、つまらなかったわけである。
「うぅ~、頑張ってやってみたのにぃ~。恥ずかしい……」
咲間が顔を手で覆ってぶんぶんと横に振っている。恥ずかしいのなら最初からやらなければいいのに。いや、それを出来る、という点は嫌いじゃない。少しだけ咲間に興味が湧いた。馬鹿をやれる女の子というのも珍しい気がする。
「そのお笑い芸人、なんて言うんだ?」
「え?」
「だから、そのお笑い芸人だよ。今度見てみるから名前教えろ」
「あ、うん。超特急ファイブっていうピン芸人なんだけど」
ファイブなのにピンなのか。ますます意味の分からない芸人だな。
一先ずその情報だけを聞き、俺は片手を振って咲間にどこかへ行くように促した。咲間も渋ることは無く、何か手応えを感じたのか、またね、とだけ言って去っていく。また来るつもりなのか、と思ったが、俺は気にしないことにした。
友人たちの下に戻っていく咲間を一瞥し、再度眠りにつく。
えっと、超特急ファイブだっけ。たぶん、起きたら覚えてないんだろうな。
咲間と話して思ったことが一つ。
一人にしてください、ホント、マジで。