表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第一話 一人ぼっちの理由

 こういうのって需要あるのかな、って思いながらの試験的な投稿です。

 凝り固まったぼっちのイメージを一新出来たらな、と。

 世の中には、ぼっち、と呼ばれる存在がいる。

 いわゆる一人ぼっちをそのまま略した呼称だが、友達も作らず、一人で過ごす者を指している。各学校にも探せば一人ぐらいいるだろうこの存在は、基本的には周囲と馴染まず、淡々と一人で過ごすことが多い。他のクラスメイトと同じように普通に授業を受け、休憩時間になれば本を読むか、音楽を聴くか、昼寝をする。誰とも決して関わらない、と言うわけでも無い。声をかけられれば応じる者もいるし、あるいはコミュニケーション能力の低さからまともに応じられない者まで多種多様だ。

 ぼっちと言えば、どんなイメージがあるだろうか。

 一人でいることは当然だろう。

 他には、どうだろう。コミュニケーション障害――いわゆるコミュ障。だから一人なんだ、と言う者もいるかもしれない。

 本当にそうだろうか? 例えばである。そのぼっちの者からすれば、真っ当にコミュニケーションを取っているのかもしれない。それが上手くいかないからと言ってぼっちの者をコミュ障と断じるには少し早い。そのぼっちの者とコミュニケーションを取れない者もまた、ある意味ではコミュ障なのである。

 ならば、ぼっちは独創的な世界で生きているのか。それはあるかもしれない。他者と迎合しない生き方を選ぶからこそ、ぼっちと呼ばれるのだ。事流れ主義が囁かれる現代において、周りに流されず、確固たる己で生きる者。むろん、そればかりでは無い。先ほども言ったコミュ障なだけの者もいる。

 ここで言いたいことは一つだけだ。

 ぼっちにも色々いる。その全員が必ずしも一定の枠組みにはまるわけでは無い。友達はおらずとも、恋人はいるかもしれない。自分たちとはコミュニケーションが取れずとも、別のコミュニティがあれば十全なコミュニケーションが取れるかもしれない。

 独りぼっちは悪では無い。それを悪と断じる世の風潮こそが悪だ。

 大体だ。

「この前うちの母ちゃんが腐った豆腐、嘘ついて親父に出してさ。親父、腹壊してんの」

「えー、なにそれ、ウケる。お父さんぶち切れ?」

「ううん、全然気づいてない。アホだよなぁ」

 なんだ、このくっそつまらねぇ会話。友達補正でウケるとか言ってんじゃねぇーよ。

 俺はこれが嫌いだ。この当たり前みたいにウケるとか言って笑ってる連中が嫌いだ。そのくせ、同じ話を別の冴えない奴らが話せば、「それがなに?」となる。人を選んで付き合ってんじゃねぇよ。つまらないならつまらないって口に出せ。適当な付き合いして、僕の友達です、とか笑わせんな。

 おっと、少しだけ口が悪くなってしまった。しかし、これが俺の隠すことの無い本音だ。

 俺はいわゆる「ぼっち」と呼ばれる存在だ。この愁耀学園高等部の二年二組に在籍し、ほとんどの日々を誰と付き合うことも無く過ごしている。クラス替えの当初は声をかけてくる連中もいたが、適当に相手しているうちに一人になった。それを悲しいとは思わない。俺の方からそいつらとつるむつもりが無かったからだ。

 一人を好む奴だっている。世間はそれを分かっていない。ゆえにぼっちは悪だ、と口にする。俺から言わせれば、こんなつまらない連中とつるむ気になれないだけだ。

 協調性が無い? 言い方は悪いが、水と油をくっ付ける馬鹿はいない。俺とこの高校の連中は空気感から何から合わなかった。だから俺も相手にしなかった。

 入学した時のことを覚えている。俺もあの頃は、今日からこの学校で過ごすのだと胸を弾ませた者だ。入学式、緊張を覚えながらも適当に過ごし、そこそこの会話をして家に帰った。初めなんてそんなものだ。まだ見限るには早い。

 次の日、遅刻した。完全に寝坊した。

 まぁ、それはいいだろう。そういうこともある。気にすることじゃあない。そう思って学校にたどり着き、教室に入ると、少しだけクラスメイトの視線が引いていた。

 うーん、失敗したか。そう思ったが、まぁそんなこともあるだろう。まだ引くほどじゃない。

 自分の席に座り、これからの予定を話す先生の話を聞き、休み時間になった。皆が誰かと話し始めている。俺も周りの連中と話した。だが、この時点で俺は何かが違うと思った。

 俺の話した奴らは、いわゆるオタク連中だった。話す内容は、アニメやらアプリゲームやらの話ばかりだ。こいつらとは合わない。そう結論付けるのに否やは無かった。

 俺は次のグループに声をかけた。彼らは気さくに俺を迎え入れた。だが、話していることがつまらない。笑い話をしているみたいなのだが、初対面の遠慮ゆえか、愛想笑いしている連中が見ていて気にくわなかった。

 これは違うな。俺がそう判断するのに時間はかからなかった。

 次に、後にスクールカーストで最上位になる奴らと話してみた。イケメンやら運動神経抜群やらそこそこ面白い話をする奴らだった。こいつらとならまだマシか、と思った。だが、話しているうちに退屈を感じるようになった。ドラマの話、ファッションの話、恋愛の話――うんうん、楽しそうだね。

 で、それが何?

 合わない、と俺は思った。

 俺は馬鹿が好きだ。もっと言えば、心に一本芯のある奴が大好きだ。結局、俺はグループに交じって談笑する奴らよりも、一人で自分勝手に生きる奴と友達になりたかったのだろう。だが、そんな奴はこの学校に一人もいなかった。

 何故かって? それが俺だったから。

 だから俺はぼっちになった。まぁ、格好良く言ってみたが、纏めると、周りと合わずに面白くないから一人になったのである。

 しかし、一人になって分かったこともある。これが意外に新鮮味があって面白い。まず、会話が無いために休憩時間にしろ学校の時間にしろ退屈であることは間違いない。だが、一方で心がさざなみ立つことが無いのだ。普通に人付き合いしていれば、どこかで苛立ったり、悲しんだりすることもあるだろう。ぼっちは平穏である。心が静かだ。

 あともう一つ、ずっと寝ていられる。これが予想外に俺に合っていた。机に突っ伏し、耳にイヤホンを付けて惰眠を貪る。授業を忘れて寝ていたこともある。最初は教師に起こされていたが、次第に相手にされなくなった。

 問題児? 違う違う。したいようにやってるだけだ。そういうぼっちもいる。

 ちなみにぼっちの弊害もある。頭の中で考えていることが誰かに話しかけているような内容になるのだ。たまに自分自身と会話することがある。人との会話が少ないと言うことも問題だ。まぁ、これ自体は大したものでは無い。俺は自分議論と読んでそこそこ楽しんでいる。

 そうだ。ぼっちの利点が一つある。ぼっちはよく考える。だって話さないから。

 思考能力が発達するのだ。物事に対する物の見方が変わるし、多方向から物事を見られるようなる。

 例えば、俺は今、自分がぼっちだからと言って何が悪い、と言った。もちろん、これが俺の本音だ。

 だが、俺にはこの意見に対する反対意見を述べる俺もいる。ぼっちであることを肯定せず、周りと協調することも大切だ、と唱えるもう一人の俺だ。思考を続けるうちにこうした考え方が出来るようになった。自分の正しさだけを訴えるのではなく、それを否定的な意見で見る俺だ。周りが誰も表だって俺を否定しないのだから、まともな感性を育てるために生み出す必要があったのだろう。

 これがぼっちである。どうだ、少し興味が湧いてきただろう?

 そこまで考えたところで、俺は顔を上げた。一体、誰に語りかけているのやら。自分でも不毛な自己弁護を続けているものである。別に嘘を言ったつもりは無いが、頭の中でこんな言い訳じみたことを続けても意味が無いだろう、と自分でも思う。

 しかも、朝から。

 ホームルームも始まらない朝の時間。特にすることも早く目覚めた俺は、適当にランニングしてから学校に来た。その時点で時刻は七時四十分。始業までまだ三十分以上ある。その時点でも多くの生徒がクラスに集まっていたが、当然、俺に話すような相手はおらず、話しかけてくるような相手もおらず、再びの就寝となった。

 両手を枕に、額を付けて眠りにつく。耳にはイヤホンを装備し、睡眠用ののどかな音楽で眠りにはいる。外の音が聞こえないようにノイズキャンセリングは必須だ。ちなみに一年の秋頃から枕を持って来ていたのだが、先生に没収されてから使わなくなった。あの安眠枕、二千円もしたのに。

 だが、十分経っても眠れなかった。次第に頭の中で自分のぼっち論を提唱し始めてから、今に至る。

 黒板の上にある時計を見る。あと数分もすれば始業時刻だ。教室には人が集まり始め、イヤホンを外してみれば、騒がしさも増していた。軽く耳を済ませば、やはり俺では楽しめないような会話を繰り広げている。あれを楽しんでいることが驚きだ。お前ら、それと似たような会話を小学生からずっと続けてきたと言う自覚があるのだろうか。

 何々がどこどこで何をした。例えば、彼氏とデートに行ったとしよう。デート場所を遊園地にし、彼氏をAくんとする。AをBにして遊園地を動物園に変えたとしても、聞かされる話に大差ないだろう。どうせ惚気話だ。そこで彼氏が裸になって暴れまわった、とかならまだ興味もそそられるが。

「でさ、うちの彼氏がイルカショー見て自分も泳ぐとか言い出して裸になって。もう、マジで引いた。すぐに別れた」

「えぇ、なにそれキモい。別れて正解だって。絶対頭おかしいよ」

 ……ちょっと面白いじゃねぇーか。

 つーか、そこの女の子たち。その男、俺に紹介してくんない? そういう馬鹿が俺は好きなんだよ。我が道を生きてる奴ってのは、大体が面白い奴だ。普通のことをしない連中が俺は好きなんだ。

 どうしたものかと思い、俺は立ち上がった。聞こえてきた話は、二席ほど前に座る女子たちが話している。その彼氏の詳細が気にかかった。

 ここで当然、誰もがこう思うだろう。いやいや、声かけんなよ、と。

 空気を読めないのもぼっちの特徴である。コミュ障ぼっちとはまた別種のぼっちだが。

 俺は女子たちに近づき、声をかけた。

「なぁ」

「「え?」」

 女子二人が驚きの声を上げて俺を見た。その目がパチクリと瞬きし、楽しげな空気が一気に霧散する。それだけでは無い。俺が声をかけたことにクラスの幾人かの視線がこちらに向いた。

 お前ら、なに驚いてんだ。俺だって興味が湧けば声をかけることもある。

 すぐにクラス中が騒がしさを取り戻す。珍しい事態にクラスメイトたちは驚いたようだが、すぐに興味を失ったようだ。ぼっちの扱いなんてそんなものである。

「なに、織田くん?」

 女子の一人。彼氏と別れた発言をしていた女の方が聞き返してくる。若干、表情は固い。友達でも無いので当たり前だが、失礼な反応だ。

 ああ、前から疑問だったことが一つある。よく、コミュ障コミュ障と言う奴がいる。なら聞きたい。お前らは、どうして俺に話しかけられるとそんなにも固くなる。普通に友達に接しているような気安さを発揮できないのなら、お前らもコミュ障じゃないだろうか。コミュ障じゃないなんて言えるのは、外国人とジェスチャーだけで会話できる猛者だけだろう。

「ん、あー……ちょっとさっきの話聞こえたんだけどな」

 俺がそう言った瞬間、応じてくれた女子がドン引きした。如何にも「盗み聞きかよ、キモい」と言いたげである。そうか、こいつらは言葉に出さずとも表情で会話が出来るからコミュニケーション能力が高いのか。

 んな馬鹿な。

 引かれることは覚悟していた。俺だってこんな風に話しかけるときは多少は緊張する。いくらぼっちでも、人に引かれたいわけじゃ無いからな。

「さっき言ってた彼氏って、だれ?」

「え? なんで織田くんがそんなこと気にするの。キモ――あ」

 あ、じゃねぇーよ。息吸うようにキモイって言いやがったな。

「気味悪いよ。なんで? 関係ないじゃん」

 言い直しても遅い。つか、言い直せてない。とは言え、こればかりは俺が悪いのは間違いない。確かに友達でも無い相手にいきなり聞くことじゃなかった。

 多少気にはなったが、俺は仕方なく諦めることにした。これ以上聞いても不気味な感を印象付けるだけだろうし、したいようにやるとはいえ、ぼっち以上に「変態」とかのレッテルを貼られるのはごめんだ。

「いや、ちょっと気になっただけ。忘れてくれ」

 手を振り、俺はその場を後にした。その時、後ろでこんな会話が聞こえてきた。

「織田さ、あんたに気があるんじゃない? 普通聞かないよね、あんなこと」

「えー、キモいってやめてよ。ほんっと、マジ最悪。あんなんと付き合うぐらいなら前の彼氏とより戻すし」

 酷い言われ様である。ぼっちどころか俺ってクラスから嫌われてたんだな。知らなかったよ。

 トボトボと席に戻り、椅子に腰を下ろす。しかし、その面白い彼氏の話とやらを聞けなかったのは残念だ。この学校にいるのだろうか。もしかしたら、俺が見つけていないだけでこの学校には俺と気が合う奴もいるのかもしれない。

 まぁ、それはいいさ。そんな無駄なことをして見つからなかったら徒労に終わるし、別に今の境遇にそこまで不満もないし。

 ぼっち最高――とまでは言わないが、俺は好きで一人でいるわけだ。

 何故って?

 だってお前ら、つまんねぇーじゃん。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ