五章
「星一朗はね、私のおじいさんの名前よ。こんなものあるって一言も言ってなかったのに。何だろうね?」
今は、下のお店に戻っている。
きっちりのりで封がされていたので、はさみで切って開ける。
逆さにして振ってみると、ころりと何か出てきた。これは!
「ねじまき」
四人の声がぴったり重なった。
「妙さん、よかったですね!見つかったじゃないですか!」
「はあ~よかった、よかった!」
「ねじを巻いたら、人形はどんな動きをするんでしょうね?」
ほほえんだ妙さんが人形のねじを巻いていく。
「これでいいはずよ!さあ、動いて!」
でも、人形はピクリとも動かない。どうしたんだろう?
「あっ!」
後ろからいきなり百華の大声が聞こえた。
びっくりして振り返ると、封筒から白い紙を出していた。
「封筒の中に、手紙も入っていたみたいです。」
と言って、手紙を妙さんに渡す。
「何が書いてあるんですか?」
「私にも見せてくださいー。」
のぞき込んでみると、うわっ、達筆。ちょっと読めないかも。
でも、妙さんは読み進めているし、百華もうなずいて読んでいる。
「百華、何て書いてあるのか教えて。」
そでを引っ張って訊いてみる。百華はちらっと妙さんの方を見て、うなずいたのを見ると、読み上げ始めた。
「妙へ 前略
この手紙を読んでいるということは、おそらく、あの人形をすでに見つけていることだろう。
まず、妙に謝らなければならないことがある。それは、あの人形は動かないということだ。
取扱説明書には、「からくり人形」と書いてしまったが、わしの間違いで、部品を入れ忘れたところがある。
解体するのは面倒だし、一から作り直すのも手間がかかる。
そういうわけで、この人形は動かない。
実のところ、わしは心配でたまらない。妙みたいな、人見知りで内気で、ちゃんと学校で友人ができるのかと。
もし、一人も友人ができずに、妙がいじめられたらと思うと、夜も眠れない。
そのため、この人形を作った。友人代わりにしてもらえればと思ったのだ。
動くことはないが、悩み事や、心配事があったら、遠慮せずに話しかけてほしい。
だから、安心して学校へ通い、しっかり勉学に励んできてくれ。
草々 我が孫妙へ 坂内星一朗」
「おじいちゃん…」
しんみりと妙さんが言った。
うーん…妙さんが人見知りで内気ってなんだか疑わしい。
それにしても、心配性なおじいさんだよね。孫のためだけに動く人形を作っちゃうなんてねえ…。
同じことを考えたらしく、百華と莉愛の顔にも苦笑いのような微妙な表情が浮かんでいる。
「おじいちゃんは、私が小学校上がってすぐになくなっちゃったから…実際に学校でどうなったかは、知らないものね。まったく…おじいちゃんは。」
穏やかな表情の妙さん。
「妙さん…」
私は、思わず声が出てしまった。こちらを妙さんが向く。
「人形が、動かなかったこと、どう思っていますか?」
少し考えた後、明るい笑顔になった妙さんは、
「どうに動くのかは、とっても興味があったわ。
でも、小さいころにこの人形を見つけて、人間の本当の友達を作ることから逃げていたら…って考えると、動かなくてよかったんじゃない?
利穂ちゃんたちにも会えたわけだし。…やっぱり、逃げちゃダメなのよ。」
最後はまるで自分に言い聞かせるような言い方だった。
そして、ふと窓の外を見て、
「あら、もうこんな時間!?夕焼けになっているじゃない!遅い時間まで付き合わせてごめんなさい。速く帰らないとだわね。」
軽く、私たちの背中を押す。
「あ、あの、今日はありがとうございましたっ!また来ます!」
慌てて頭を下げる。
「利穂、慌てすぎ。」
莉愛につっこまれる。
来た時のようにきゃあきゃあ言いながら、「土星のわっか」を後にした。
「あっ!そういえば何も買わなかったね…ちょっとでも売り上げに貢献しようって考えていたのに…」
「まあ、仕方ないんじゃない?あんなにアクシデントがあったんだもの。」
「そうだよねえ。あの状態じゃあ、余裕なんてなかったよねえ。また行けばいいでしょ。」
「確かに、そうだね。」
今日一日あったことを思い出す。
ねじまきを探そうと言い出した莉愛とダンボールの山を崩した百華。そして昔は内気だったらしい妙さん。
こんなに面白いと思わなかった。新しい発見もたくさんあった。〝本当の友達〟に一歩近づけたのかな?
みんなして同じ目標へまとまって向かうこと。やっぱりこの連帯感は、文字だけの付き合いじゃ生まれない。
「百華、莉愛!」
前を歩く二人が振り向く。
「今日、すっごい楽しかった!また一緒に行ってくれる?」
一瞬、二人で顔を見合わせてから、満面の笑みで、
「もちろん!」
やわらかいオレンジ色に染まる空に、列を作った鳥が帰っていった。
Fin
こんにちは。伊野尾ちもずです。
珍しく、原稿用紙が足らなくなりました。そして、結構削りました。枚数制限はありませんが、ね。後悔はしていません。
では、今回の主人公西東利穂&坂内妙の紹介です。
西東利穂は、小学六年生です。面倒くさいことは好きじゃないし、適当にやってればいいんじゃない?という性格です。
(ついでに言えば、いい間違いも結構あります。今回は少なくて驚いています。)
坂内妙さんは、利穂の観察通り、二十歳くらいです。
現在、潰れる一歩手前のお店を経営しています。地方情報誌に載るくらいだとは言っても、「端っこに、ちょこんと」でしたもんね~
大丈夫なんでしょうかね?
実はあったかも?ネタとしては、利穂は麦茶以外のお茶は飲めないとか、百華がいきなり百人一首の句を叫んでしまうとか、妙さんはおじいさんの作業小屋でよく遊んでいた、とか…(はい、本編とはほぼ無関係ですので、読まなくて結構です。ただ、しまっておくのもなんでしたので、ここに書かせていただいております。)がありました。
またどこかで使いたいネタですね。
今回も制作にあたって、関係者の皆さんに多大なるご迷惑をおかけしました。マリアナ海溝より深く反省をいたします。
許してください。
では!
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