二章
―翌日
「あー…NANOに載ってたね。話聞いた後、読み返したら確かにあった。結構地味なとこだなって思ったけど?」
「やっぱりそうかぁ…端っこの方だったし、印象は薄いよね…読み返すまでわからなかったか…」
「押しが弱いのは、マイナス点じゃない?どうしても周りに負けちゃうよ。」
そんなものかなあ…?
昨日一人で通った道を、今日は三人で歩いている。
家に帰った後、LINEで何人かに聞いてみて、都合のついた二人に来てもらった。
一人は篠原百華。笑い上戸で読書と百人一首が大好きな人。「雑貨と言えば、和柄!」とよく言っている。
もう一人は、高山莉愛。四人兄弟の三番目で、わりと真面目。だけど、実はそうでもないのでは、と思う時が最近よくある。特にリーフ柄が好き。
「でさ、『土星のわっか』ってどんなお店なわけ?」
と、目を輝かせながら聞いてくる莉愛。
「うん…とね、ナチュラル系が多めだよ。キャラクター商品はほとんど…っていうか、全然ないよ。商店街の雑貨屋さん、『マーチ』の逆だと思ってくれればいいよ。」
「あーなるほど…あんな感じかな?」
どうやらイメージがついたらしい。
お店につくまではいろいろな話をした。
この間のテレビ番組がどうのとか、漫画の新刊がいつ出るのとか、あのゲームの攻略の仕方がわからないとか、たわいない話をした。そんなこんなしているうちに、「土星のわっか」に着いてしまった。
「木がいっぱいあるねぇ。こんなに暑いけど、涼しくっていいねぇ。」
「ふーん…こんなに普通の家っぽいと思わなかったな…」
「そうでしょ。中はそうでもないんだけどね。」
そう言いながらドアを押す。
「こんにち――」
「いらっしゃいませっ!」
昨日と同じように、突然の大声が響く。
「あらー、来てくれたのね?利穂ちゃんのお友達よね!わあーうれしい!…あれ、どうかしたの?」
子どものように喜んでいた妙さんが、急にフェードアウトして、私の後ろをのぞき込んでいる。
あーたぶん……
嫌な予感がするけど、仕方ない。振り向いてみる。
そこには、目を開けて、固まったままの百華がいた。
莉愛は変わらず、普通に立ったままだ。私の驚きの表情が見えたのか、
「大きな音は、家で聞きなれているからね。」
と、ちょっと肩をすくめながら言った。
まあ、いい。問題なのは、固まった百華の方だ。ためしに、肩をつかんでゆすってみる。
「百華、大丈夫?起きてる?」
すると、少し目をしぱしぱとさせ、はっとした表情になってから、超小声で私に、
「あの人、誰?」
短いながら、答えにくい質問だと思う。
まあ、いきなり大声を出す人がいたら、驚くよね。
私は、一つ深いため息をつくと、妙さんを二人に紹介することにした。
「この人が、『土星のわっか』店主の坂内妙さん。(そそっかしくて大声だけど)いい人だし、面白い人なんだよ。」
ちょっと引きつっていたかもしれないが、ともかく笑顔で紹介する。もちろん、( )内は超小声だ。
( )内の聞こえていない妙さんはにこにこしている。コホンと小さな咳ばらいをすると、
「改めまして、『土星のわっか』店主の坂内妙です。今日は、雑貨屋『土星のわっか』に来てくれてありがとう!心から歓迎します。
さっきは大きな声を出しちゃってごめんなさい。
利穂ちゃんがお友達をつれて来てくれるって言うからつい…ね。
ともかく、来てくれて本当によかった!ゆっくりしていってくださいね!」
と、目をキラキラさせながら言ってくれた。
「おしゃべり…なのかなあ?」
首をかしげる百華の肩に、ポンと手をのせ、軽く笑う。百華のため息がついてきた気がしたが、気にしないでおこう。