【最終話】これが僕の物語
これにて終わりです。
「忘れ物はないね」
「はい」
別荘を出て、来た時に乗ったリムジンに乗り込んだ。
ふと窓から見える、自分たちが遊んだビーチ。
「楽しかったなー」
指をさして愛弘さんがはにかんで言った。
「こういう所、滅多に来れないし!蘭ちゃん、本当に今回はありがとう!」
「いいえ、久弥達が来てくれたおかげで私、とっても楽しかったのよ!礼を言うのはこちらの方ですわ」
手を繋いで窓の外を覗き込む彼女らの傍ら、僕は彼と指絡ませる。
それに気づいた彼は、微笑をひとつ吐いて同じく重ねた。
「ゲイ校」
そう一言だけ口にして、彼の瞳を見つめる。
「ん?」
「戻ったら、またメイクしてくれる?学校始まったらだけど...」
「...ふふ、うん。」
そう言ってはにかんで、彼の頭が肩に乗っかった。ふさふさの茶髪が頬に軽く触れる。
『茲のおかげよ』
『茲の方がずっと素敵で、綺麗なんだよ』
恥ずかしい言葉がループする。
でもどこかそれが嬉しくて、口の端は自然と上がってしまう。
少しだけ、窓を開けた。
もう見えなくなりそうな海を眺めて、潮の香りを感じた。
大好きな彼と、大好きな友達と、来られてよかった。
またね、この海。
***
それから数日、夏休みも開け、再びゲイ校での毎日が始まった。
「おはよう」
「おっはよ、茲!」
彼とは相変わらず、登校中によく出会う。
いつも通り、教室で授業を受け、いつも通りゲイ校へ。
あれから蘭とはあまり連絡をとっていない。
海外留学が決まったらしく、それに向けて準備を進めているらしい。
「野奈くん、推しメンいる?」
「え...どうしよ、みんな可愛い」
そういえば、夏休み明けから、このゲイ校に転校生がやってきた。
「保野倉、推しメンってなに...?」
頬杖をついて窓外を眺めていると、野奈が血相を変えて聞いてきた。
「自分の好きなメンバーの事...かな」
「ああ...そっか〜、どうしようー!選べない!」
むーっと頬をふくらませて悩んでいる姿が何だか可愛い。
「あはは、じゃあ1番は誰なの?」
そう投げかけると彼はしばらく黙って口を開いた。
「かっきー...」
「えっ?!」
思わず立ち上がる。
「可愛いよな...マジで」
「だ、ダメだよ。彼は...」
「なんで?」
全く、意地悪なことを言ってくるやつだ。
「顔に書いてあんぞ」
すると額をつんっと指で押して、野奈は顔の前で何かを描いた。
「はい、わかった?」
「何...っ」
「He is mine.」
彼は...僕の...もの?
「野奈!...っ?!」
飛びかかろうと立ち上がった瞬間、背中から何かに包まれた。
「うれしい、あたしは茲のものなんだね」
「加月くん...」
そっと肩に置かれた手に触れて、そのまま口を近づけた。
「...っ!」
重なり合う唇。
彼の唇は、ほんのり甘かった。
「ごめん、つい」
目の前の女神は、ほんのり頬をピンクに染めて顔を逸らす。
その姿がやっぱり可愛くて、彼女を抱いた。
「茲やる〜」
「イチャつくな、リア充!ったく...」
天気のいい青空の下、窓越しに移る自分は、
こんな幸せなんだと微笑んでいた。
「加月くん」
「...んっ」
これからも君と居られるように、
「大好きだよ」
僕はもうちょっと大人になると決めたよ。
「あたしも」
END
ここまで5年間、亀更新でやってきましたゲイ校でございました。
最後は詰め詰めで無理矢理感のものになってしまいましたが、書けてよかったです。
5年前の私は、同姓愛のことはあまり知らずに書き始めた馬鹿で無知な女だったので、ここまで自分で読んでて恥ずかしくなりました。
登場人物たちに申し訳なく思います。
この作品を読んで、不快に思った方いらっしゃいましたらお詫び致します。申し訳ございません。
今後、また同姓愛関係の作品をあげる時があるとは思いますが、その際はきちんと理解し勉強し、皆様が納得のいくものに仕上げていけるよう努力致します。
ここまで、ありがとうございました。
茲、加月くん、またね。
さゆきち