佐倉ハルキの推測
こんにちは、佐倉ハルキです。今回は短編の推理ものに挑戦しました。恐らく、トリック(と呼ぶのも恥ずかしいくらい雑なものなのですが)も設定も色々とムチャはあると思います。
本当はもっと書きたいこともあったのですが、短編としておさまりそうになかったので、割愛させていただきました。またどこか別の機会に書ければいいなぁと思っております。
それでは、どうか最後までお楽しみください。
「なぁ~ハールー。ハルってばぁ。」
「なんだよケイ。俺は今明日の仕込みで忙しいの。だから、お前の話を聞いてる暇も無いの!」
「んだよ……喫茶店だし、そこまでたいした仕込みもねぇだろ~。」
ハル…ハルキとケイはそんなやり取りを繰り返してもう小一時間くらいを過ごしていた。
ここは『喫茶 BeLiebe』Liebe はドイツ語で 愛、
Believe は英語で 信じる。この喫茶店は愛を信じるという意味をあらわすらしい。
「なぁハル。頼む!この写真の謎をといてくれ!」
こうハルキに懇願するのは、ハルキの幼なじみで探偵のケイ。ハルキはこの喫茶店のマスターで、本人曰く『凡人』らしいが、その観察力は探偵であるケイすら見つけられない物を見つける。
ハルキは「ケイが無能なだけ。」と言うが、彼の探偵としての素質は十分である。
「写真の謎?どんな写真だよ。」
「これこれ!この写真なんだけど………。」
そう言って彼が取り出したのは、キレイな花の写っている写真だった。
「これのどこが謎なんだ?」
「この写真な?今度の依頼人…大岡さんって言うんだけど、その大岡さんの元カノから送られてきたんだそうだ。」
探偵があっさり依頼人の名前を明かすなよと思いつつもハルキは続きを促す。
「で、同封されていた手紙に『これが私の気持ちです。』って書かれていたそうなんだ。な?気になるだろ?」
「なら、その元カノに会って、意味を尋ねたら良いだろ?」
ハルキはごく当たり前の解決策を提示する。ところが…
「それが……出来ないんだ。」
「出来ない?なんで?」
「大岡さんの元カノは……一月ほど前に………亡くなってるんだ。」
ハルキに少なからず衝撃が走った。ケイはなおも続ける。
「だから、彼女の最後の想いを知りたい。それが今回の依頼内容なんだ……。頼む!俺に知恵を貸してくれ!」
「………ったく、今回だけだからな?」
「ほんとか?!サンキュ!」
「けど、これって謎って言うほどの謎じゃ無いんじゃないのか?」
「そうなのか?」ケイはハルキに尋ねる。
「あぁ。普通に、この花……たぶん秋明菊だな。
この秋明菊の花言葉を調べれば一発だろ。」
「シュウメイギク?菊の仲間か?」
「いや、秋明菊は見た目は菊に似ているけど実際には………。」
そこでハルキの動きが停止する。
「どうした?ハルキ?」
「ケイ!」ハルキが勢いよくケイに向き直る。
「なんだ?」
「1つ……調べてほしいことがある。」
そう言うと、ハルキは調べてほしい内容のメモをケイに渡した。
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「ハルキ!
頼まれてたこと、ちゃんと調べといたぜ。」
数日後、喫茶店に飛び込むように入ってきたケイは右に書類を抱えていた。
「いらっしゃいませ。カウンター席へどうぞ。」
ハルキは営業用の声でケイにカウンター席をすすめ、席に着いたのを確認すると小声で話しかけた。
「お前なぁ。店開いてるときは名前で呼ぶなってあれほど言ったよな?!お前は馬鹿なのか?なぁ?」
「わ、悪かったって。ただ、あまりにもお前の推理通りだったから驚いちまってさ。」
「次やったら、本当に店への出入り禁止にするからな?」
「肝に銘じておきます。」
「で、書類は?」
「あ、これこれ。」
ハルキは書類を受け取るとパラパラとめくる。
少しして、満足そうに頷くとケイにこう言った。
「ケイ、今日店閉めたあと、大岡さんをここに呼んでくれ。」
「え?じゃ……。」
「あぁ……コーヒーと謎解きのセットメニューでおもてなしするんだよ。」
「わかったのか?!あの写真の意味が!」
「まぁな……。ただ……あまり、知りたくは無かったがな…。」
「………?」
「とにかく、大岡さんを呼んでくれ。」
ハルキがそれ以上語ることは無かった。
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「あの………写真の意味が分かったと聞いたんですが……。」
「はい。分かりました。」
今、喫茶 BeLiebeにはハルキ、ケイ、そして依頼主である大岡の3人しかいない。
「それで、あれはどういう意味だったんでしょうか?!」
「まぁそう慌てないで。まずは僕が淹れたコーヒーを飲んでからにしましょう。」
そう言ってハルキは、3人分のコーヒーを淹れ始めた。
その間、大岡もケイも黙ってハルキの手の動きを見ていた。
「どうぞ。当店自慢のコーヒーです。」
「ありがとうございます……。」
大岡は出されたコーヒーを一口すすった。
「………美味しい。」
「ありがとうございます。」
ハルキは笑顔で答える。
「では、謎解きの方にまいりましょうか。まず、あの写真は秋明菊の写真です。花にはそれぞれ『花言葉』があり、秋明菊の花言葉は『薄れる愛情』もしくは『あせていく愛』です。」
大岡が反応する。
「それじゃ、彼女のメッセージは……。」
「とお思いになるかもしれませんが、違うと思います。」
「えっ?」大岡は間抜けな声を出す。
大岡の代わりにケイが聞く。
「ハルキ、じゃどういう意味だって言うんだ?」
ハルキはケイの問いには答えず
「ところで大岡さん。あなたは来月、会社の上司の娘さんと婚約なさるそうですね。」
「え?えぇ……まぁ。」
急な質問に焦りながらも大岡は答えた。
「しかし、逆算すると変じゃありませんか?彼女が亡くなったのが一月ほど前、なのに来月には婚約。
交際期間を考えると、彼女が行きてらしたころからの付き合いなのでは?」
「何をおっしゃりたいんですか?」
ハルキは大岡のこの質問にも答えず話を進める。
「先ほど、『秋明菊』とこの写真の花を紹介しました。では、秋明菊は何の仲間だと思われますか?」
「………そりゃ、菊の仲間じゃないんですか?名前に入ってるくらいだし。」
大岡は不機嫌そうに答えた。それとは対称的にハルキは楽しそうに話を続ける。
「そう!そう思うのが普通なんです。しかし彼女は知ってたんです………秋明菊が『アネモネ』の仲間であることを。アネモネの花言葉には色によって違いがありましてね?紫だと『あなたを信じて待つ』赤色だと『君を愛す』白では『真実・期待』この秋明菊の色は赤と白の混じった色。つまり、彼女があなたに伝えたかったことは『真実』を知っても『あなたを愛』し、自分のところに戻ってきてくれることを『期待』する、ということだったんですよ。」
「そうか………だからハルは俺に、大岡さんの浮気調査を頼んだんだな。」
「あぁ。彼女は知ってたんだよ。大岡さんが浮気していることを。そして、自分が捨てられることに絶望し、みずから命を絶った……。」
ケイが大岡を見てみると、大岡は泣き崩れていた。
「そんな……そんな…………!」
夕方の店内に彼の泣く声が、静かに響いていた。
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「なぁ、ハル………。」
「何?俺、今日の仕込みで忙しいんだけど?
昨日あれから、大岡は泣き腫らした目で帰っていった。彼がどうするかは聞けなかった。
「あれで良かったのかな………?」
すると、ハルキが仕込みの手を止めて……
「良かったかどうかなんてわかんねぇよ。これからどうするか、どうなるかは大岡さんの選択で変わるんだからな。」
ハルキは飄々とした口調で答える。
「やっぱハルはすげぇよ……冷静に物事を見れて。
それに比べて俺なんか…。」
「ケイ。」
ハルキの声が鋭く響いた。
「俺は、ケイのことが羨ましいよ。人のことを考えれて、人のために働いてるケイのことが。」
「でも、ハルだってこの店…。」
「それは、父さんと母さんの出会った場所を潰したくないっていう俺のただのエゴ。大岡さんの件だって、ケイに頼まれてなけりゃやってなかった。」
ケイは黙ってハルキの話を聞いていた。
「人はさ、なんでも無い物ねだりなんだよ。キリがない。だから気にすんな。」
「じゃ……なんで大岡さんに真実を告げようと思ったんだ?」
「えっ?」
「俺の目は誤魔化せないぞ。お前躊躇ってただろ?大岡さんに真実を告げるかどうか。普段のお前ならあり得ないことだ。でも、お前は結局真実を解き明かした。何でだ?」
ハルキは少し考えてから、ゆっくりと、しかしハッキリした口調でこう答えた。
「彼の……愛を信じたかったから。浮気をしていても、彼女を本気で愛していたんだと信じたかったから。だって………この喫茶店は『喫茶 BeLiebe』愛を信じる喫茶店だからさ。」
「すいません………もう営業やってますか?」
ハルキは目線を来店者へ向け、いつもの営業用の笑顔とは違う、素の笑顔で
「いらっしゃいませ。」
ここは「喫茶 BeLiebe」愛を信じる喫茶店。お近くまで来られた際にはぜひご来店を。おいしいコーヒーと笑顔、それから少しの謎であなたをおもてなしいたします。
楽しんでいただけたでしょうか?前作の「桜末期の5日間」を読んでいただいた方には、「あっ!」と思うかたもいらっしゃることでしょう。
ネタバレはしたくありませんので詳しく述べるのは控えさせていただきますが、この作品を読んだあとに「桜末期の5日間」を、もしくはその逆の順で読み直すと面白いかと思います。
また、今作に出てくる人物の名前が「桜末期の5日間」の主人公の名前のヒントにもなっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
ではまたどこかの作品でお会いできることを祈って See you again /~