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Episode 8 私の想い×私の魔法



 私は、落ちかけた日の光を浴びながら走っていた。

アイツがいる場所、今必死になって戦っている場所にと向かって。

私の答えなんかとっくにでている。

それは……最初から何も変わらない。



私は、ノヴァといたい。



 私の部屋で、ノヴァと一緒に過ごしたい……。あいつが一人で苦しんで、戦って、もがいて。それを私が、世界は違えど同じ名前を、同じ姿を、同じ心を持つ……この世界のノヴァである私が見捨てられるはずがない。それに、一緒にいるようになって、私はノヴァと一緒にいたいと、一緒に生きていたいとそう思うようになってしまっていた。

今、私の内にある想い……。

アイツを、ノヴァを想う気持ちは、今まで生まれてきて……此処まで生きて感じたことがない強い想いだ。それが今の私の強さに直結するかはわからない、だが、それでも私はこの自分の強い想いを信じたい……。胸が痛くて張り裂けそうなくらいの強い気持ちで……。


「!」


私は走りながら、見知った後ろ姿を見つける。それは今日さんざん私を詰め、侮辱し罵倒した、ツインテールの阿砂真希だ。彼女は剣道部ということもあり竹刀を袋に入れて持ち帰っているところだった。私は、そんな彼女にと走って追いつくと、竹刀を手に取ると、そのまま、真希を走り抜いていく。


「ちょ!?綾菜!!それ私の竹刀っ!」

「借りるぞ!」

「な、何考えてんによ!?このバカ!!」


 私の背後で真希の声が聞こえる中、私は、竹刀を袋から取りだし、強く握りしめる。これで武器は揃った。私はそのまま走りながら住宅地の奥、河川敷にと一気に走り抜けていく。頭の痛みはますます強くなっていく。


もうすぐ……もうすぐだ。

そこに、アイツがいる。


ノヴァ……待っていてくれ。





リアル・ファンタジー


Episode 8 私の想い×私の魔法





Side ノヴァ・インフィニティ





川から溢れ出るモンスターの数は増えていく。

いくつもの目を輝かせ、その巨大なハサミを振りながら、私にと迫ってくる。私は剣を握りしめた。この数……今までもこういった攻勢はあった。だが、今回は味方もいなければ、無関係の住人を逃がすための時間も存在しない。此処まで一気に攻撃を繰り出してきたのは……それだけ、魔女の、あの憎き魔女が力を取り戻してきているということになる。私は引くわけにはいかない。私は、剣を握り、バケモノ達にと向かって足を踏み出す。


「はああああ!!!!」


目の前に迫るバケモノを、ハサミごと切り落とす。私は、そのまま、さらに足を踏み出して突っ込んでくる魚型のバケモノの頭を切り裂いた。血が噴き出す中、私は、ソイツを回し蹴りで蹴り飛ばし、こちらに上陸しようとしているバケモノたちにとぶつける。ドミノのように倒れる中、別のバケモノが向かってくる。


「邪魔なんだよ!!」


私は、次にやってきた魚のバケモノのハサミを真っ先に剣で払い落しながら、剣の向きを変えて魚のバケモノの顔と胴体箇所を切り落とした。前のめりに倒れるバケモノ。バケモノを1、2匹倒したところで、敵の数は数百体にも上る。私は目の前にと迫ってくる次の敵を見て剣を振い続ける。両手で握った剣を持ち力をいれてバケモノの身体を引き裂いていく。私は、ただがむしゃらにと戦っていく。目の前に迫る化け物を切り捨て、飛びかかってくる奴は、蹴り飛ばし……ただ必死になって。


「はぁ……はぁ……」


 私は大きく息を吐きながら前を見た。

私を狙う川沿いに群がるそのバケモノは数を増やしていく。


「乃羽!!逃げろ!!」


 私から距離を取って河川敷の道路にと逃げた翼が声をあげる。

 私が逃げれば多くの人が犠牲になる。逃げるわけにはいかない……だが、この数ではどうあがいてもじり貧だ。いずれ、物量で抑えつけられる。私は剣を見つめながら、考える。この状況を打破するもの……『魔法』と呼ばれる強大な力。


「今、あれを使うことが私にできるのか……」


 私は手に汗をかきながら、距離を詰めてくるそのバケモノたちを睨みつけた。


 それはまさに百鬼夜行のようだった……。


 迫りくるバケモノの集団に私は攻勢を強める。剣を振い、乃羽にもらった制服を血に染めながら、私は声をあげる。目の前の魚のバケモノを切って切って……できることなら魔法を使いたくはない。


「ウオオオオオオオオ」


 口を大きく開けたバケモノの開かれた口に、剣を突き刺す。そのまま、バケモノの身体を蹴り飛ばして、剣を引き抜き、背後から襲い来るモンスターに対して引き抜いた剣を後ろにと向けてそのまま、口から胴体に向けて剣を貫通させる。崩れ落ちるバケモノ。私は息を吐きながら体力の消耗を感じていた。周りには、まだ多くのバケモノたちが私を取り囲んでいる。それどころか、川からはまだまだバケモノが吐き出され、河川敷から住宅地にと向かって進んでいくものまでいる。私はそれを横目で見ながら、止めることが出来ない自分自身の非力さを感じる。


 1人であれば、私は強いはずなのに。

 誰にも頼らずに、私独りで……。


「くそったれ!」


 それは、河川敷から市街地に向けて進もうとするバケモノに対して、翼がバットで殴り河川敷から突き落とそうとしている姿だった。


「あいつ……」


あいつ逃げろと言っているのに……。私はそう思いながら、襲い掛かるバケモノを切り裂いた。一体何匹いるというのだ。私は、勢いよく突っ込まれるハサミをかわして、それを切り落とす。私を取り囲んでいたバケモノたちも私の疲労を感じ取ったのか、ハサミを私目がけ突き刺すように、全員で纏まって攻撃をしてくる。敵に取り囲まれている私に目掛け突き刺すようにハサミが、私にと向けられる。私は、地面を蹴り上げ、魚のバケモノ達の腕にと乗ると、剣を両手で握りながら、回転する。私の体を中心にして、剣は円を書き、竜巻のような勢いで私は一回転する。私を取り囲んでいたバケモノ達の顔は切り裂かれ、その場に崩れ落ちる。私は地面にと足を下ろし、前を見る。


「はあ……はあ……」


 まだまだ数が減ったように見えない。

 私にと繰り出される敵のハサミの攻撃に、私は剣で払いながらも、背後からの別のハサミでの攻撃を回避できずに、背中を掠めてしまう。制服が破られ、乃羽からもらった下着が見えてしまう。私はその場に倒れそうになるが、剣を地面にと突き刺し、なんとか倒れることは避けるが、次の攻撃……真上から降りおろされた、敵の腕の攻撃は回避できなかった。


「ぐああああ!!」


 地面に潰されるように倒れる。

 そんな倒れた私目掛け、まわりにいた、バケモノたちは、その鋭いハサミを、こちらにと向け振り下ろす。私は、次に来る衝撃に備えて目を閉じた。



死ぬ。

私は……死ぬのか。


大丈夫。

死ぬのは怖くない。

そのために、私は独りでいたから。

なんの躊躇も迷いもなく、自分の命さえ惜しくはない。

思い残すことだって。


『ノヴァ……』


私の脳裏にと浮かぶ一人の……少女。


乃……羽……。




……イヤ


イヤだ……。

死……にたくない。


私は、あいつと……一緒に。


乃羽のこと……私は。



「……何を寝ぼけている?」

「乃羽!?」


 私は顔を上げて、彼女の姿を視界に捉えると、大きな声で叫んだ。その時の私の感情は……なぜきたんだ、なぜお前がいるんだ、そんな感情よりも先に……『嬉しい』という喜びの感情。私の隣に立った乃羽は、バケモノ達を竹刀で叩き飛ばしていた。


「私が助けに来るなんて、いつもとは逆だな?立てるか?」


 私は、乃羽の声を聞きながら、自分自身の足でゆっくりと立ち上がる。

不思議だ。

自分は先ほどまで抵抗もできずに、力も入らず、死ぬ寸前だったというのに……今は、違う。隣に立つこいつの……乃羽から力をもらっているようだ。孤独であることで強さが戻ってくると思っていたのに。まったくの逆。乃羽がいることで、私は……強くなっている。


「……乃羽、私は」

「話は後だ……。まずはここを切り抜ける」


 私は、そんな乃羽の言葉を以前、自分が口にしていたなと思いながら、コクリと頷く。乃羽が剣を握り、駆け出すのを見て私もまた彼女の後を追う。乃羽が、目の前にいるバケモノを切り裂き、その後ろにいる別のバケモノの攻撃を避けた瞬間、その手から剣を離し、彼女の背後から走ってきた私が剣を受け取って、その敵を切り裂く。私は、そのまま周りを取り囲む敵を切り裂きながら、乃羽と剣を交換し、回避し、敵を切り裂いていく。周りで倒れていくバケモノ達……。


「ふ……」


 私は思わず笑ってしまう。


「なにがおかしい?」


私は腰を前かがみに倒すと、乃羽が私の背中にと乗って前にと飛び出し敵を切り捨てる。次の瞬間には、体勢を戻した私が、乃羽から剣を受け取り、今度は逆に乃羽が身をかがめ、私は周りにいるモンスターを、弧を描くように切り裂いた。言葉なんかいらなかった……身体が勝手に動き、乃羽との連携を発揮する。それは、今に始まったことじゃない、初めて出会った時から……私達は、まるでそれが当然のように連携し、お互いのことをわかっていた。


「……いや、楽しくてな」


 私の言葉に、乃羽もまた笑みを零す。

 乃羽は、私から剣を受け取り、目の前の化け物を真っ二つにとする。背中合わせになりながら、私たちは肩で大きく息を吐く。結構な数を倒した私達、敵も慎重に距離を詰めて警戒をしている。私達が揃って、先ほどまでの私の動きと変わったからだろう。だが、敵の数はまだまだいる。背中に感じる相手のぬくもり……暫く忘れていたものだ。つい最近まで一緒のベッドで眠っていたのに。こんなにも安心できるものだってことを、私は思い出すことができた。乃羽は警戒をしながら口をあける。


「まったく、絶体絶命なのに随分と余裕だな?」

「ああ、不思議だ。お前といると……そんな感じがしないな」

「……私もだ。お前といると……何でも出来てしまいそうだ」


 私たちは、片方の手で互いの手をしっかりと握りしめる。

そして剣を握っている手に、乃羽もまた剣を握る。

久しぶりに会えた喜びを……伝え合う。


「それで、どう攻める?さすがに、このままじゃ、埒が明かないぞ」


 乃羽の問いかけに、私は覚悟を決める。

 乃羽と一緒にいる今なら出来そうな気がする。


「……『魔法』を使う」

「……いよいよ、ファンタジーになってきたな」


 乃羽は苦笑いを浮かべて答えた。





 Side 綾菜乃羽






 魔法……。

 今まで戦ってきた敵は確かにゲームなんかにでてくるであろうモンスターにふさわしい物たちばかりだった。それを狩る騎士がノヴァ。確かにゲームでありそうな展開だが、ノヴァがあまりにも私そっくりで、なおかつ今では私の制服まで着ているありさまだ。彼女がファンタジーな世界から来たことなんて忘れてしまっていた。私は、改めてノヴァが、私とは別の世界から来たということを実感させられながら、言葉を聞く。


「……良く聞いてほしい乃羽」


 ノヴァの言葉に耳を傾ける。


「魔法っていうのは強い想いで生みだされる。なんでもいい、憎しみ・怒り・悲しみ・喜び。そういった強い想いが力となって魔法を生み出す。ただ、その力は強力で制御が難しい。とくに、ここには多くの無関係な市民たちがまだ残っている。制御に集中すれば当然、放たれる魔力は減少する。それでは敵に与えるダメージは半減だ。だから、お前の力を私に貸してほしい」

「随分とハードルが高いな……私にできるのか?」

「できるさ、お前は、この世界の私なんだろう?」


 無理難題を吹っ掛けているのはノヴァもわかっているだろう。だが、それを知っていて私に頼んでいる。頼られているのだ、私は。ノヴァに頼られている……それが私にとっては嬉しかった。


「やり方を教えてくれ」

「……これから私とお前の心をリンクさせる。お前が魔力を溜めこみ、私がそれを魔法として放つ」

「随分と簡単だな」

「……言ったからにはやってみせろよ?」


 私とノヴァはしっかりと手を繋ぎ、同じ剣を握り合いながら背中合わせになった状態で目を閉じる。呼吸を整え、緊張した力を抜く。目の前が真っ暗になる中、私は、自分の感情をコントロールしようとする。様々な感情が私の中で揺れ動き、感情を集中させることができない。敵に対する憎悪……憎悪一つとっても、私の心の中に、クラスメイトの影がちらつく。そして、私が孤独で生きていかなければいけなくなってしまったこの世界も。何か……一つ、絶対的な想いがあれば。


「……」


私の手に感じるぬくもり、私の背中に感じる、感触。

あるじゃないか。

誰にも負けない……私の強い想いの対象が。


『ノヴァ……お前に対する想いは、誰にも負けない』


私はノヴァへの想いだけに集中する。

簡単だ。

だって……こんなにもノヴァへの想いが私の中で溢れて止まらないんだから。

胸が痛くて……苦しくて、辛くて。


私は独りが強さだと思っていた。


でも、ノヴァと出逢えて……それが間違いだって気が付いた。

私にとってお前は、私の分身で、大切な存在で。

私になくてはならない存在で……だから、ずっと一緒にいてほしくて、離したくなくて。


きっと……私は、お前のことが。



『……乃羽?』

『!?』



 私は心の中で心臓が止まるかと思った。


『!? ちょ、ちょっと待て!なんでお前が喋ってるんだよ!』


突然の言葉に私はしどろもどろになりながら、真っ赤になる。

いきなりその想いの張本人が現れれば当然、そうなる。


『言っただろう?私とお前の心をリンクさせると?』

『そ、そうはいったけど……びっくりするだろう、いきなりは!!』

『変な奴だな?なんか、私に見られちゃいけないことでもあったのか?』

『なっ!?ない!ないに決まってるだろ!だ……だいたい、人の心を勝手に盗見みするな!』


 そういった私の視界が光にと包まれた。

 ただ心の中でつぶやいていた会話……。

 そして、今、私とノヴァは、目の前に怪物たちを前にして戦っているはずだというのに……。私は、ゆっくりと目を開ける。


「ここは……」


 それは、いつも見慣れている私の寮の部屋だ。

 誰もいない、私だけの部屋……。

 たった独り……いつもずっと。


「私達が望んだ場所のようだな」


 振り返った私の前に、ノヴァが立っていた。

 汚れた制服姿じゃない……、私とノヴァが住んでいた時よく着ていた薄着のTシャツ姿。


「望んだ……場所」


 私は、もう一度自分の部屋を見渡して、目の前にいるノヴァを見つめる。

 望んだ場所……。

 私はノヴァのつぶやいた言葉を何度も反芻する。


 誰も入れたことのない私の部屋で、たった一人一緒に過ごした存在。

 それが今、私の目の前にいる少女。

 ああ、そうか。


 私は、言葉の意味が分かり、そして小さく笑った。


 この場所は、私とノヴァが唯一、一緒にいれる場所。

 誰にも邪魔をされずに、隠れずに……一緒にいることができる場所。

 戦いもなく、辛い気持ちも、悲しい気持ちも……此処では忘れられる。


「……私達だけの場所だ」


 私は、ノヴァを見つめてつぶやく。

 ノヴァもまた私を見つめながら頷いた。

 ノヴァが私の手を握る。


「乃羽」

「なんだ?』

「すまなかった……酷いことを言って」

「お互い様だ、それに、お互い思ってもいないことを言っていただけだろ?」


知っているよ。

お前の気持ちなんか……痛いくらい。


私は、握りしめた手を引いて、ノヴァを抱きしめる。

柔らかい体が私にぶつかり、私はノヴァの肩に顔を置く。

ノヴァの匂いがした……きっと、これもまた私と同じものなのだろう。

同じ体が重なり合い、私とノヴァの高鳴る鼓動を教え合う。


「乃、乃羽……」

「……ずっと、こうしていられればいいのに」


 動揺するノヴァに、私は耳元でささやく。


「ああ……そうだな」


 私の言葉に、頬を寄せたノヴァが同じように囁く。

 私の背中を強く抱きしめるノヴァ。

 痛みと共に、強いノヴァの気持ちが伝わる。


「あったかい……これが、ノヴァの想い」


ノヴァがつぶやく声と共に、私の心の中に流れ込んできた痛いくらいに熱い想い。

これは……ノヴァの心。様々な記憶、感情と共にノヴァの心が流れてくる。私は、それを感じながら、私もまた自分の心にある気持を強く想う。誰にも負けない想い……私は、ノヴァの身体を強く抱きしめ、目を閉じる。


「「……」」


改めて私が目を開くと、私とノヴァの握っている剣がまるで電流が流れるようにスパークが走り、光り輝いていた。あの二人でいた空間から現実の世界にと舞い戻ってきた私達。私はそこで気がつく……私の視界がノヴァと一緒になっていることに。今、私はノヴァと私と二人の目からの光景が見えている。なんだか不思議な感覚だ。心を通して……私とノヴァは今、ひとつになっている


「「はああああああっっ!!!!」」


 私とノヴァは声を上げながら、二人で握りしめたその剣を地面にと突き刺す。すると、私たちが立っている位置に魔法陣が形成される。そして、それは眩しく光放ち、ノヴァの記憶が私にと伝わり、私とノヴァは、同じように叫ぶ。






 爆音と、地響き、閃光が起こる中、魔法陣が私を中心に広がり、そして、天高く突き上がる。私たちの目の前で、魚のバケモノたちの体が皆、光となって消えていく。バケモノたちは悲鳴をあげることもなく……ただ、私たちの視界の中で光だけが、天高く空にと吸い込まれていくような、そんな幻想的な光景が広がっていた。一匹残らずバケモノは消えていく。


「……何が起こってるんだ」


 呆然とそれを見ている翼。


「な、なによこれ……」


 それは、私から竹刀を取り返しに来たのであろう真希の声も聞こえた。





 全てが光となって消えて行った。





日が落ち、辺りは星明りにと照らされていた。

 私とノヴァは河川敷の草むらにと倒れていた。魔法の力は凄まじかったが、体力と精神力が根こそぎ持って行かれた感じだ。しばらくは動けそうにもない。私の隣で倒れているノヴァも同じようだった。私達は触れた腕を、無意識のうちに握り合っていた。不安だった……。何か、ノヴァと触れていないと……。


「さすが……やればできるじゃないか?」

「私を……誰だと思ってる?この世界のお前だぞ」


 私とノヴァは草むらに倒れながら、顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 私は、今日の出来事を思い返していた。


ノヴァがいない日常……。

ノヴァがいない朝……。

ノヴァがいない生活……。


耐えられなかった。


「……普通の生活に戻るなんて、できなない」


 私は小さく搾り出すように声を出す。

 ノヴァが私を見る。


「乃羽……」

「私は、お前にいて欲しい……、私の居場所は、お前がいてくれる場所なんだ」

「……多くの人が犠牲になる。またあの駅のように、お前のクラスメイトが犠牲になる」

「わかってる。だから、私は強くなる。強くなって、お前の隣に立って、みんなを守る。……ノヴァ、お前を守れるように」


 私の言葉に、ノヴァは小さく息をつくと、私の身体を抱きしめる。草むらの上で、私が下で、ノヴァが上で……。突然のことに、私は何が何だかわからないまま、でも、ノヴァのぬくもりを感じてしまうと、もうそれ以外のことが考えられなくなってしまう。ノヴァの顔を鼻と鼻がぶつかり合うほどの至近距離で見つめる。


「……お願いがある乃羽」

「なんだ?」

「……もう、私を独りにしないでくれ」


 ノヴァは私を強く抱きしめながら絞り出すようにつぶやく。


「もう、誰か大切な人を失いたくない。もう……絶対に」


 ああ……ノヴァも、そうなんだ。

 本当に、私とお前は……どこまでも一緒なんだな。


「……条件がある」

「なんだ?」


 顔を上げたノヴァを見て私も口をあける。


「私も、独りにしないでくれ……きっと、また失ってしまったら、私は生きていけない」

「乃羽……」

「お願い。ノヴァ……」


 私はノヴァを見つめて涙声で告げる。

 きっと、ノヴァは先ほどの私と同じように思っているはずだ。


「約束する」


 ノヴァの言葉に、私は彼女を見つめ小さく笑みを浮かべると、彼女の髪の毛に手を置いて、引き寄せる。気が付けば、私の頭にも手が置かれていて、同じように引き寄せられていた。同じ顔が重なり合う。


目を閉じて……息を混ぜて

柔らかい唇同士を重ねて、胸同士を押し付け合い、指同士を絡ませて……。



「「……」」



 閉じていた目を開けて、お互いの顔を見つめ合う私達。私達は、そこにいるもう一人の私を見つめた。頬を赤く染め、目を輝かせる……こんな顔をしたノヴァを知らない。そして、きっと今の私もノヴァと同じ顔をしていることだろう。今にも涙が溢れそうで、身体が熱くなって止まらない。


「本当にお前って奴は……」


 私は、ノヴァに、そして自分に言うように告げる。


「呆れてもらっても構わないが、お前だってあっちの世界の綾菜乃羽なんだからな?」

「……もうお前が離れろっていっても、絶対に離れないからな?」

「私だって……離さない。絶対に……」


 私たちは、星空の下、もう一度お互いを抱きしめ合う。

 幸せだ……私は素直にそう思えた。

 誰かと一緒にいて、そう感じたことはきっと生まれて初めてだろう。


 こんな時間が……永遠に続けばいい。

 私はノヴァと手をつないだまま、そう思った。







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