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Episode 7 私にとっての乃羽×私にとってのノヴァ





『乃羽~~、迎えに来たよ!』





 インターホンの受話器を耳にあてた乃羽から聞こえてくるのは、いつもの蓮華の声。学校にと向かわなくてはいけない。私は、振り返り、自分の部屋を眺める。そこには、昨日までいたはずの、もう一人の私の姿はない。いつも一緒に眠っていたベッドはこれほど大きかっただろうか?と思えるほどだ。本来ならば、そこには、もう一人の私が、私の貸したパジャマを着て、私を見上げて、食事をまっているなんて、ペットのようなことを言って……。私は、壁に自分の額にと押し付ける。


「……乃羽、お前はバカだ」


 私は私自身にそう告げる。



『さよならノヴァ』



離れたくない。


離れたくなんかない……ノヴァ。

私は、ノヴァといたい。こんな気持ちは間違っているとわかっていても。私の想いは、私の心はずっとその名前を呼び続けている。一人で何でもこなすために…、なのに、今の私は、こんなにもアイツに惹かれている。



『さよなら乃羽』



涙声の私を彼女もきっと聞いただろう。

そして同じように思うはずだ。

振り返りたいと……、でも、そんなことしたら、きっともう離れることなんかできない。私たちは、もうお互いに引っ張られているのだ。過去のことすべてを投げ出してもかまわない。一緒にこの部屋で、過ごしていたい。そんな途方もないようなことを考えてしまいつつある。互いに今まで一人で生きてきた。その強さが、一緒にいることで消えていく。だからこそ、今……引き離さないと。それこそ、もう二度と離れられなくなってしまう。


だから!だから……私は、私達は……。

でも……私の心は、もう……。

いや、だけど……。

ううん、それでも……。



「……私は、どうしたらいい。誰か……教えてくれ」



 私は、壁にもたれながら小さな声でつぶやいた。






リアル・ファンタジー


Episode 7 私にとっての乃羽×私にとってのノヴァ




Side 綾菜乃羽





「乃羽ちゃ~~~~ん!」

「五月蠅い、何度も鳴らすな」



 制服にと身をかえた私は、顔をだして蓮華にと告げる。蓮華は昨日のことなどまるでなかったかのようにいつもの笑顔で、私を見ている。私は塞いだ扉の鍵を閉めると、荷物を持ち、廊下を歩く。


「久し振りに、登校だね?」

「ああ、色々とあったからな……」


 私は、ため息交じりに告げる。

 空を見た私は、青い空と明るい日差しを見ながら、私には、とても世界が曇って見えた。結局、昨日は、そのまま身を動かすことが出来なかった。私の心にぽっかりと穴があいているのだ。ノヴァを失い、孤独になった私……それは、今までと同じはずだったのに。ノヴァと出逢う前と同じに戻っただけのはずなのに。一人で何でもやってこれた。どんなことでも人に頼ることなく、頑張ってこれた。それが、彼女が現れたことで、私の心は、明らかに弱くなってしまった。


「……」


久し振りの学校は、懐かしく感じられるものだった。此処にこうして通うことが出来る、それは、紛れもなく私が元の世界にと戻ってきたことへの証となった。しかし、学校のクラスメイトの様子は以前とは異なっていた。それもそのはずだ。この数瞬間の間で、1人の教師が行方不明、二人の生徒が死んだ。駅前では多くの人間が死亡している。それは、クラスに暗い影を落とすのには十分だろう。私が、クラスにと入った際、周りの生徒は、私に冷たいまなざしを送るだけ。大丈夫、今に始まったことではないし、なれている。それに私には、あいつがいる。私の分身であるノヴ……。


「……どうしたの?乃羽?」

「いや……」


 蓮華の言葉に、私は自分の机にと荷物を置き、席につく。


「ねぇ、乃羽?今日学校帰りにどこか遊びに行こうよ?」


 蓮華が、珍しく取り巻きに話をすることなく私に積極的に声をかけてくる。普段なら、こんなことはしない。私に近づけばそれだけ、私が、蓮華の取り巻きの標的にされるからだ。私としてみれば、放ってもらえるからこそ、それでよかったのだが。私は、絡んでくる蓮華を見る。


「取り巻きはどうした?私に絡んでもいいことはないぞ」

「だって…昨日のこともあるし、元気になってほしかったからさ」


 こいつなりに気を使ってくれているということか。私は嬉しく思いながらも、その彼女を見ている取り巻き数人の冷たい視線を眺めた。蓮華が、私のような一匹狼と一緒にいることはいいようには思われない。


「嬉しいが、遠慮させてもらうよ」

「え~~、もうせっかく人が心配してあげたのに!」

「此処で、私がお前に頼るようになったら、それこそ、重病だとおもわないか?」

「ん……た、確かに」


 私の言葉に妙に納得したのか、蓮華は潔く席にと戻っていく。

 これで一人になった。

少しは落ち着けるか……そんな私の前にと姿を現すのは、護国翼。

私は、翼を見る。今日はいろいろな奴に絡まれる日だ。


「なにかようか?」

「それだけ、悪態をつけるのなら心配しなくても大丈夫だな?」

「駅での出来事か?私は巻き込まれただけだ、被害があったわけじゃない」


 私は、何もしらない翼に淡々と告げる。

 そんな私の言葉を聞きながら翼は、ため息をついて


「違うよ、テレビでお前が映っていたんだけど……哀しそうな顔してたからさ、あんな顔みたことなかったから」


 それが、私の顔だったのか、ノヴァの顔だったのか……私にはわからなかった。だけど、きっと同じ顔をしていたはずだ。別れた際に互いに声をかけたその声は、涙でぬれていた。私もあいつも我慢をしながら、振り返らずに別れていった。私達は……耐えなくてはいけなかった。そうしなければ、もう……後戻りできなくなってしまうから。私は胸の痛みを覚え、目を細める。


「……乃羽?」

「ん?」


 翼が心配そうな表情で私を見ている。


「何かあったんじゃないのか?」

「……何か私にあったとしても、お前には関係がない」


 私ははっきりと翼に告げる。

 かかわれば、真美のようになってしまう恐れがある。それにだ、もう誰にもあの事件での被害者は作りたくない。そのために、私は……ノヴァから離れたのだ。本当なら離れたくなんか……。


「そうか、でも、お前がなにかあって悲しむ奴がいるっていうことは忘れないでくれよな」

「……覚えておくよ」


 翼はそれだけ告げて私の席から離れていく。

 やがて、授業の鐘の音がなり響き、退屈な一日が始まる。だが、その退屈は、久しく忘れていたものでもあった。私は、窓の外を眺めながら、今あいつは、どこで何をしているのだろうなと……と思い浮かべる。食事はしっかりととっているだろうか、住まいは確保出来ているだろうか。そこで、私は息を呑む。


「……もうやめてくれ、どうして頭の中であいつのことばかり浮かんでくるんだ!」


 私は、小さな声で唱えながら、頭を抱える。

 あいつのことなんか考えたくない、そう思えば思うほど、私は……。


 ノヴァ……。


 もう一人の、私……。





 授業は続いていく……。


 ついこの間までは、ひとりの時間で、誰かに話しかけられることなく、快適な時間を過ごせていたはずのその時間は、ノヴァとの思い出に苛まれる苦痛の時間となっていた。私は、机の上に顔をうつぶせながら、自分の姿を見ないようにしていた。見ればそこにはノヴァが映る。ノヴァが私を見る……そんな彼女の目を私は見たくなかったから。私を映すものは世の中に、こんなにもたくさんあるものなのか。ガラス、鏡なんか、この世界には溢れている。だから、目を閉じる。でも、そうしたところで、私の心にしっかりと刻まれたノヴァの声が、匂いが、姿が……私の胸を締め付ける。



「……綾菜?聞いてんの?」



 顔をあげた私の前、そこには蓮華の取り巻きの数人の女子生徒が立っていた。いつの間にか、授業は終わっていたようだ。その間、私はずっと、ノヴァのことだけを考えていたことになる。時間も忘れてずっと……あいつのことだけを。私は、胸を抑えながら、顔を上げて、前にいるものたちを見る。それは蓮華の取り巻きであるツインテールの阿砂真希、そしてそのほかの目の前の茶髪の女子生徒数人。彼女たちは口を開く。


「あんたさ、テレビに写ってたでしょ?昨日の駅からでてくるの?」

「教師がいなくなった場所にも、真美がいなくなった場所にもいて、あんたがやったんじゃないのかって噂になってるんだよね」

「蓮華から好かれているみたいだけど、本当にあんたは疫病神だよ」


 疫病神か……。

 たしかに、私はそうなのかもしれない。私は、彼女たちに別に口答えするつもりはない。それに、これが、私が守りたかった日常なのだから。私の周りにいるのは、私に接してくれる蓮華であり、私を好む翼であり、そして私を嫌う、この取り巻きたち。それが私の世界であり、私の守りたかったもの。


これが、私の現実であり日常。

私の守りたかったもの。

ノヴァと……ノヴァと引き換えにして。


「……ふ、ふふふ……」


 私は、小さく笑いながら、前と何も変わらない日常が戻ってきたことを知った。これが、ノヴァと引き換えに手に入れた私の日常。周りの取り巻きたちが気味悪がるなか、私は暫く笑っていた。



 もうわからない。

 私は、どうしたらいいの。


 でも


 これだけは、はっきりとわかる。

 私は、私は……。


ノヴァ……私は、お前と一緒にいたい。

お前と二人で……ずっと一緒に。





Side ノヴァ・インフィニティ



 辺りが眩しい日差しでオレンジ色に照らされる中、高架橋の下で、私は目を開けた。寝袋に身を包みながら、私は、小さなテントの中にいた。乃羽の家にいたとき、何かあった時のために持っていろと言われたお金で手に入れたものだ。だが、これを購入したことで食事代はほとんどなくなってしまった。だから、川近くで自給自足の生活を送らなくてはいけなくなったわけだ。


「ふう……」


 私は川べりで、木の枝などで作り上げた、簡易的な釣り竿で、魚を取ろうとしていた。水面にと映る私の姿。出て行くときの恰好だったから、この制服姿の格好は乃羽そのものだ。私は湖面に映る私を……綾菜乃羽を見つめる。


「……」


 かつて、私の親は、バケモノにと変貌させられた。

 私は、そんなバケモノとなった親を倒すこととなった。

 わずか、12歳の時の話だ。


 大切なものを持っていることで、それがつけいられる隙となり、私は深い絶望を知った。

 大切なものを失う喪失感を味わい、もう二度とそんな想いをはするものかと誓った。

 だから、私は孤独を選んだ。

 友人をつくらず、深入りせず、仲間もつくることをせずに。


 結果、私は強くなった。

 私の世界では、私を超えるものなどそうはいないだろうほどに。

 だから、これからも、私は一人で、孤独でいなくてはいけない。

 いけないんだ。


 今ほど、早くモンスターが出てきてほしいともったことはない。

 こうやって頭がもやもやしているときこそ……それは、私の目の前で、多くの人々が殺されていくときと似ている。だが、そう言ったときにある感情、それは怒りであり、敵を倒すことでそれが発散される。だけど、今あるものは違う…怒りだけじゃない、色々な気持ちが溢れて、胸が痛くて……辛くて……。


 乃羽……。

 私は、どうしたらいい。

 私達は、どうしたらいいんだ?


 わからない、教えてくれ……。

 私は、お前と……。


 私は、膝を抱えながら頭を落とす。


「私はどうしてしまったのだろう」


私は、たった一人の人間との出会いで、今まで作り上げていたことが、気持ちが崩れ落ちていくのを感じ取っていた。


「乃羽……」


 水面に映る自分の姿を眺めながら、私は小さくつぶやく。私は強い自分に立ち返りたかった。あのとき、乃羽と出会い、衣食住を共にするようになって、私の心は変化していった。乃羽と一緒にいることが楽しかった。彼女と言い争って、それでも、一緒にご飯を食べて、他愛の無い会話をすることが……楽しかったのだ。


「……」


 こうして一人で生活することが辛く感じてしまっている。

一人でいることが苦しい……、

違う、一人でいることが、苦しいんじゃない。


お前と……乃羽と一緒にいれないことが、苦しい。


水面に映る私の姿=乃羽の姿は、とても辛い表情であった。



「こんなところで、なにしてんだ?」



 振り返った私の前にいたのは、確か…乃羽と同じクラスである護国翼という男子だ。私が一度、乃羽と入れ替わって教室に行ったとき、私によく話しかけてくれた奴だ。私の顔を見て首をかしげている。私は、自分の制服姿を見ながら、思い出す。どうやら、彼は、私のことを乃羽とおもっているということだ。こんなところで、乃羽のことを知っている奴に見つかったのは、面倒だ。どうにか誤魔化さなければ……。翼は、私がそんなことを思っていることなどお構いなく問いかける。


「どこかで見た顔だなって思ったら、こんなところで釣りなんて……そんな趣味があったとは意外だ」

「……悪いか、今日の夕食を探しているんだ」


 私の真面目な答えに、翼は苦笑いを浮かべる。


「お前が言うと、本当なのか冗談なのかわかんねぇ」


 翼の答えに、私は至って真面目だと言い返してやろうと思ったが、面倒なのでやめておいた。どっちにしろ、この世界の人間と私とでは隔たりがあるのだから。確か、この男は、乃羽のことが好きだったか。私が夕食の際、翼のことを話してやったら……。


『あいつに関わるな!どういうわけか、私についてまわる』

『ほぉ、お前のことが好きな奴も世の中にいるんだな?』

『私と同じ奴がそういうことを私に言うのか?お前の言葉、すべて自分に跳ね返ってきているの、わかっているんだろうな?』

『……』

『……』

『……お前はどうなんだ?好きじゃないのか』

『今は……そんなこと、考えている余裕はない』


 乃羽自身、嫌いではないようだ。

まあ、だからといって、そこまで好きなわけでもないようだが。


「……お前は、私のどこが好きなんだ?」

「ええ!?」


 乃羽の振りをした私の突然の問いかけに、翼は驚く。少し直球過ぎたか。だが、客観的に見て、乃羽がどう思われているのか、私は興味がある。それが、無意識に乃羽のことを思ってしまっているということを、この時の私はよくわかっていなかった。翼は、少し照れながら口を開く。


「そうだな……ギャップというか。普段はすごい冷静沈着、クールで、男勝り…、周りからどんな言葉を投げかけられても、気にしない素振りを見せるくせして、裏では凄い気にしているところとかかな。本当は気弱で、言いたいこともあんまり言えなくて、本心を胸に隠している……そんなところか」


 こいつは、乃羽のこと……よくわかっているようだ。私は、乃羽の本音を聞けているのだろうか。同じ私同士ではあるけれど。こうしてお互いのために離れた私たち。孤独であることが、一人であることの強さを保つために……。互いの世界を守るために……。


「アハハハハ、本人の目の前でこんなこと言うのは恥ずかしいな」

「……フ、愛されているんだな、乃羽は?」

「?」


 私の言葉に首をかしげる翼。

 私はあわてて咳払いを一つしながら


「……わ、私は愛されているんだな。だが、そんないいことを言ったからと言って、私が靡くと思ったらそうでもないからな?」


 私は、翼に指をさしてそう告げる。


「変な奴」


 翼はそう言って、私から離れようとした。このまま話をしていても、乃羽の振りをするのも限界がある。このまま離れてどこかに行ってくれた方が、私としてはありがたい。だが、そこで、私は頭の痛みを感じる。これは……まさか。


「そういえば、いつもならこの時間帯、結構、おじさん達が釣りやってるんだけど、誰もいないな」


 翼が独り言をいう中……私は、片手を頭にと当てて痛みを堪える。


「まさか……こんなところで」


 私は顔をあげた。

 河川敷は、まだ多くの学校の生徒たちが、下校途中であり多くの人たちがいる。私は、その手に剣を握った。川の表面が泡立つと、浮き上がる物体……。私の視界に映り込むもの。


「……」


強力な妖気を察知した。川から姿を見せるのは、巨大なヒレを水面にと出して、こちらにと向かってくる。私は、翼の手を握ると、川にと背中を見せて、慌てて川から離れる。突然の私の行動に翼は驚きの顔を見せ、口を開けた。


「お、おい!!いきなりどうしたんだ!」

「ここから離れろ!!くっ……」


 私が答える間に、川から姿を見せた物体が、先ほどよりも徐々に速度を上げて、まるで魚雷のように速度を上げて突っ込んでくる。そして、陸にとぶつかろうした直後、その巨大な顔が姿を現す。魚の身体をしながら、その大きさは等身大の人間のようで、目玉が普通の魚と違い、左右に二つずつ、4個の目がギョロギョロと蠢き、大きく口を開けている。しかも、魚であるはずの化け物の足は蟹のように六本の鋭い爪である。その爪で、陸上にと登ってきたのだ。魚とカニが合体したようなバケモノは、そのまま、巨大なハサミを、私達にと向け突きつける。私は、翼の身体を突き飛ばしながら体を離して、攻撃を避けた。バケモノの攻撃はコンクリートを破壊する衝撃……。私は剣を持ち、その魚と蟹のバケモノと対峙する。


「ふぅ……ふぅ……」


 息を整え、腰を抜かしている翼を横目に見ながら、私は、剣を振るい、その巨大なモンスターにと挑む。巨大なハサミを突きつけられるが、私は攻撃を剣で受け止め、振り払い、距離を詰めようとする。だが、もう片方のハサミがそれを阻む。バケモノの両腕のハサミが鋭利な剣のような動きをしている。


「くっ…」


 ハサミを交互に振りながら、バケモノは私の攻撃を受け止めながら、己の攻撃を進めようとする。だが、私はその巨体から繰り出されるハサミの攻撃をなんとか払いのけるが、攻勢に出ることができない……私は、バケモノの的になった状態で必死に抵抗をする。バケモノは勢いをつけて、腕を引くと、勢いをつけて弾丸のように、ハサミを前にと突きだす。ハサミが私を狙う中、私は、その場から、飛び上がりバケモノの攻撃をかわした。だが、着地した私の身体を、もう片方のハサミで、私の身体を捕まえる。


「くああ!!」


 私の身体をそのまま紙のように、真っ二つにしょうとするバケモノ。私は握っていた剣を、ハサミの間にといれて、身体を切り裂かれないようにする。ハサミが私の身体を切り裂こうと力を入れる。私もまた抵抗するように、力を入れる。目玉がうごめき私を見る。バケモノは私を見ると、口を開けた。


『ヨワイナ……コレガ、ユウシャノ力ダトイウノカ?』


 バケモノのが喋る。


 弱い……私が?


 冗談じゃない……私は乃羽から離れたんだ、自分が再度強くなるために、乃羽の世界を守るために。それなのに……弱くなったのでは話にならない。私は強くならなくてはいけないのだ。そうじゃなければ……だれが、乃羽と離れることなんて……。


「私は……負けない!!」


 私は握っていた剣で、ハサミの内側に剣を突き刺した。ハサミの内側から外にと飛び出す剣の切っ先。関節の部分を勢いよく突き刺し貫通させた。バケモノは悲鳴を上げ、ハサミを離した。私は、間髪いれず、そのハサミを片方切り落とし、さらに、距離を詰め、もう片方も切り落とす。


「はああああ!!!」


 私は、腕をなくした魚のモンスターは、もう敵ではない。私はバケモノに対して剣を横にと向け、胴体を切り裂く。血が吹き出す中、私は、その魚のバケモノの悲鳴をあげる隙も与えない。バケモノの身体が、上下にと切り裂かれる中、バケモノは、口から血を吐きながら声を上げる。


「コイツ……イキナリ速度ヲアゲタ?」


 そのまま崩れ落ちるバケモノに対して、私は剣を振り、血を地面にと落としながら、大きく息を吐いた。


「私は強さを取り戻したんだ。甘く見るからだ」



 私は吐き捨てるようにそう告げながら、腰を抜かしている翼にと目をやる。私を見て呆然としている翼。私は、そういえばこうして戦った姿を見せたのはこの世界では、乃羽以外では、こいつが初めてだなと思いながら、手を伸ばす。現実感がない様子のようだ。


「たてるか?」

「あ、ああ……」


 目の前で起こったことが信じられないといった表情の翼を面白くおもいながら、私は腕の力で彼を起き上がらせる。だが私は、思った以上に力を消費していたようで、体のバランスを崩し、翼にと受け止められる。翼は、足を踏ん張り、私の両肩をつかんだ。私は、顔を上げて翼を見た。


「……大丈夫か?」


 その質問が、この場で翼が言うべき内容なのか、ふと疑問を覚えながらも、私は翼から離れて頷く。


束の間の沈黙。


翼は、剣を持ち、バケモノと戦った私を見ながらいろいろと考えているようだが、やがて、その考えがまとまったのか、腰に手を当ててため息をつく。


「……こいうときは、何も聞かないのがきっと正解なんだろうな」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 翼の言葉に私は答えた。


「……はあ、まさか乃羽が、こんなことをやっていたなんてな。道理で強いわけだ」

「普段の私にもこういうことを話すのはやめるんだぞ?」

「あ、ああ、わかってるよ」

「そうしないと、いろいろと面倒だからな」


 普段学校に通う乃羽が今日の私のことなど聞いたら、きっと驚くのと同時に、何を言い出すとも限らない。きっと家で大目玉をくらうだろう。そこで私は思い出す。そうか、私はもう、乃羽と一緒に暮らしてはいないんだったな……。乃羽の家でお風呂に入ることも、あのベッドで一緒になって眠ることもないのか。そうか……。


辛いな。

こんなにも、辛いものか。


私は、心の中でそうつぶやく。


「!」


 翼の表情が、こわばる。私はそんな翼の表情を見て、自分の頭に痛みが走る。それはバケモノが現れた時に起こる現象。だが、最近ではこんな痛みは起こらなかった。私は、額を抑えながら、後ろを振り返った。


「……そんな」


 そこには先程のモンスターが、川から何匹も姿を見せ、こちらにと向かってくる姿だ。川から溢れ出るように現れるバケモノ、その数は、数十匹以上。まだ増えている。私は剣を握りしめ、かまえた。


「翼、急いでここから離れろ」

「待て!!お前はどうするんだ!?」

「こいつらを倒すのは……私の役目だ……」


 私は負けられない。


 私は独りになった。

 それは孤独であることが強さであることを証明するため。

 私は、またあの時の強い私に立ち返るために、独りになったんだ。



 乃羽と離れて……私は。


 乃羽……。





逢いたい。


ずっと……一緒に、いたい。





Side 綾菜乃羽




 オレンジ色に照らされた私は、足を止める。

先ほどから感じていた頭の痛みはひどくなっていく。

 この頭痛……確か、駅でモンスターが現れた時と同じだ。まさか、この近くで現れたというのか。私は足を止め、妖気を感じる方角にと目をやった。私は、視線をそらす。行ったところで、何にもならないことを私は知っている。そして、それは無意味であることも。


「私はもうあいつとは関わりは絶った……私が出向いたところで」


 私は自分にそう告げながら、無視しようとする。ノヴァがどうせ戦う、そして勝つ。だから私は必要ない。私が行ったところで、ノヴァの邪魔にしかならない、あいつは、私の世界を大事にしろといった。私がアイツに関われば私の周りの友人を不幸にするだけだ。私の世界は……今日一日過ごした日常だ。蓮華と翼がいて、私を嫌うクラスメイトがいる世界が私の世界。でも、それでも……奴らがバケモノになるのを防ぐためには、私はこのまま黙っていなくてはいけない。私は……犠牲になるだけだ。ノヴァと一緒だ。あいつも、こんな異世界に一人放り出されて、誰にも見られていないのに、独りで戦って……。傷ついて、きっと、死ぬときだって独りなんだろう。本当にどこまでも、私と一緒なんだな。私は、うつむきながら、足を家にと進める。


孤独が強さ。


……。


失う怖さ。


……。


 私は足を止めた。


「……イヤだ」


 私は知ってしまった。

 誰かといることの気持ちを。


 もう、忘れられない。


 弱くなってもいい。

 怖くなってもいい。


 それでもかまわない。


「ノヴァ……私は、お前といたい……」


 私は顔を上げた。











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