Episode 6 私達の別離
私の前にいるそれは、私の身長ほどある巨大な口を開き、びっしりと生えた牙を向けている。これがもともと人間であったことなど誰が想像できようか、モンスターと化したクラスメイトは、その手足も口にと変え、もはやクラスメイトであった原形をとどめていない。床に穴を空けたバケモノは、避けた私の方にと向きを変えて歩き出す。既に、駅構内には人はほとんどいない。皆、逃げ出したようだ。これで、いちおは、私の役目は終えたことになる。残っているのは私だけだ。このまま逃げてしまえば、後は、ノヴァが揃ったところで、一緒に倒すことが……。
「……」
そこで、私は、拳を握る。
ノヴァ……ノヴァ……。
私は、ずっと彼女のことを呼び続けている自分を思い出す。私は、頼ることしなかった。生まれてきてずっと独りだった私は、誰かに頼ってしまえば、自分が弱くなると思っていたからだ。それが、今……私はノヴァに、身も、心も……近づきたいと思ってしまっている。私は、そんな私になりたくなんかなかったのに。
「!!」
再び攻撃を仕掛けるバケモノ。私は、物思いにふける中で、慌てて体を後ろに倒し、床に手を付けてバク転を決めながら、その攻撃を回避する。私は改めて前を見ながら息を吐いた。
「……嬉しいな。私にしか目がないようだ」
私は、自分を奮い立たせるためにそう告げる。考え事はあとだ。今は、この武器がない状況でどうするべきかを考えなくてはいけない。大きく開かれた口の奥、深い暗闇から吐き出される液体。咄嗟に、回避する私。その液体は、私の背後にあった時計塔に降りかかると、白い煙をふきあげながら、蝋のように溶け出し、崩れ落ちる。
「強酸か!?」
モンスターは、私めがけ動き出す。動作自体は早くはないが、問題なのは、その手だろう。口となっているその手は、掴まれただけで鋭い牙で全身を貫かれジ・エンドだ。
「こっちだ、バケモノ!!」
私は、そのまま、駅とつながっているデパートにと逃げ込む。デパート内であれば武器となるものも豊富にあるだろう。隠れ場所も、このたくさんの備品がある場所にはもってこいだ。私は、デパートの扉を開けて走り抜ける。私は、モンスターが追いかけてくるかどうか、後ろを振り返り確認する。すると、伸びた手が、ガラスの扉を突き破って入ってきた。私は、自分以外まったく興味を示さないバケモノに対して、周りに影響がないことに対して嬉しいのか、自分だけ狙われる状況に悲しいのか、わからないまま、走り続ける。
「……ノヴァ」
まただ。
私は、こんなにも……あいつのことを。
「……私は、ノヴァがいなくても」
そう思うだけで頭に浮かぶのは、ノヴァの姿。
ノヴァの笑顔……ノヴァと肩がぶつかり合った感触。
彼女のぬくもり。
「私は……」
頭に浮かぶノヴァを振り切るように、私は首を横にふりながら、エスカレーターを駆け上がる。
「なんで……私は」
私はノヴァを想う気持ちを振り払おうとしても、
私を幻のノヴァが……抱きしめてくる。
私は走りながら、自分の胸元を抑える。
「こんなに胸が痛むんだ」
リアル・ファンタジー
Episode6 私達の別離
Side 綾菜乃羽
「ちっ……マシな武器はないのか!?」
私は、洋服が置かれている店にと足を踏み入れながら、声を荒げていた。武器になりそうなものを漁るが、出てくるのはマネキンばかり。他にもまともそうなものを捜そうとするのだが、何も武器になりそうなものはない。武器を探すだけじゃない……彼女は、音を気にしていた。あのバケモノの近づく音。それは、重そうなものを引きずるような音。乃羽は、その音が近づいてきたことを知り、今、立っている場所から離れた。と同時に壁を突き破り、巨大な牙がびっしりと生えた腕が、先ほどまで私がいた場所にと突き刺さる。私の目の前、長い廊下を蠢く口を開けた巨大な怪物の姿。それが、先ほどまでただの少女であったということを誰が信じよう。私は額の汗を拭いながら、バケモノと距離を取る。バケモノは、素早くはないが、尋常ではないパワーがある。それは私が最初狙っていた隠れる場所と言うものを、破壊しながら進んでくるという予想外の行動を取っていることからも、私の作戦はミスだったことがわかる。私の目の前で、大きく口をあけながら、ビッシリと生えた牙を見せるバケモノ。
「これが私のクラスメイトとは考えたくないな」
私がそうつぶやく中、その巨大な口から緑色の液体を吐きだす。その飛距離は、私にとどくほど。私は、隣の店にと腕を十字に組みガラスを突き破り、回避する。腕に刺さったガラスに痛みが走るが、今はそれどころではない。ガラスの破片を抜きながら、隣の店にあるものにと目をやる。それは服が吊るされている鉄の棒だ。ハンガーをかけるために、置かれたものであるそれを、ハンガーをすべて取り外し手に取る。私は、その少し重みのある鉄の棒を手にしながら、近づく音に集中しながら、息を吐いた。
「……ないよりはマシか」
愚痴る中、壁を突き破ってきた牙の生えた腕。
現れる巨体。
足を踏みだせば、踏みだされた床を牙が突き刺す。
口からは涎のような強酸が流れ出て、周りを溶かす。
「……ったく、絵にかいたようなバケモノだな」
私は、鉄の棒を強く握りしめる。
「はああああ!!!!」
私は、鉄の棒で、バケモノ目がけ走る。バケモノは私目がけ強酸を吐きだす。私は、滑り込みながら、体勢を低くして回避すると、バケモノの足にと鉄の棒を向けると、滑る勢いに身を任せ、足に目がけ突き刺す。口となっていた足……、牙は凶器だが、その牙の先、内側の肉は柔らかく、硬い皮膚ではおおわれてはいなかった。私の滑り込んだ勢いで鉄の棒を、内側の足の口の中目がけ突き刺し、そのまま、壁にと突き刺した。壁にと貫通するほどの勢いで突き刺した鉄の棒は、足を貫き、赤い血を噴きだしている。
「~~~~~~~!!!」
バケモノが声にならない悲鳴を上げる。私は、鉄の棒を突き刺したまま、敵の動きを封じ、バケモノの横に移動をしながら、別の鉄の棒を見つけ出して再度、ハンガーを投げ捨てて、手にと取る。足に突き刺された鉄の棒を引き抜こうと蠢く腕を見ながら、私は、今が好機と見て、鉄の棒を2本手にしながら、バケモノと対峙する。
「さてと、お仕置きの時間だ!」
私は力強く言い放つと、両手に握った鉄の棒をクロスさせながら、バケモノを見る。バケモノは、私目がけ、手の口から、そして大きな巨大な口から一気に酸を吐きだした。
「うわっ!!」
遠距離攻撃に対しては、成す術がない私は、その場から鉄の棒を放り出して逃げ惑うことしかできない。酸はあちこちの壁や床を溶かしていく。
「くそっ!卑怯だぞ!」
私は、その店から飛び出す。狭い店内を駆け廻りながら、敵の体をすべて貫こうと考えた私だったが、あの酸をどうにかしなければ、近づくことさえままならない。最初こそ、偶然で近づけたが、同じ方法で、攻撃などさせてくれないだろう。私は、どうにかして、酸を回避する方法を考える。だが、そんな私の考えを悟ったのか、バケモノは、足に突き刺さった鉄の棒を溶かし切り、壁を破壊しながら、私を追いかけてくる。もう一つの腕が、店と店を仕切る壁を破壊し、コンクリートを吹き飛ばし、壁に穴を開ければ私の姿は、敵の目の前にとさらけ出される。そして、口を開けたモンスターは、再び、酸を吐きだす。私は、慌てて、床を転がりながら、酸の攻撃を避ける。酸が吐き出された場所は、白い煙とともに、コンクリートに穴を開ける。
「……冗談じゃない、お前のゲロなんか被ってたまるかよ!」
私はバケモノにと告げながら、バケモノの酸を回避しつつ、手にとっては、装飾品としておかれている時計などの小物を手にとっては。バケモノに向かって投げつける。バケモノは、小物を払いのけながら、あちこちに酸を吐きだし、天井にまで穴を空けていく。天井からはコンクリートが崩れ落ち、瓦礫を増やしていく。私は、捕まらないよう攻撃を回避し、崩れ落ちたコンクリートに足をとられないようにして避けていく。
「っ!?」
私の前の道が、天井が崩れ落ちコンクリートによってとざされた。私が振り返ると、私に向かって歩いてくる。バケモノ、私は近くにあった掃除用具の長い箒を握りしめた。あの酸を食らったらひとたまりもないだろう。この武器でさえ、どうにかなるとは思えない。
「……」
私は、近づいてくるバケモノを見ながら息を吐く。
こんな時あいつだったらどうするか……。
私は、考えないようにしても、頭に浮かんでしまうノヴァの姿、ノヴァの顔を再び思い出してしまいながら、そんな自分に呆れてしまう。
……考えるな。
バケモノが、私目がけ距離を詰める。
「私は……」
掃除用具を構えながら、私は前を見る。
バケモノが近づく中、バケモノの背後で、銃声が響いた。
「!?」
それは拳銃を持った警察官であった。警察官の人数は2名。その手に銃を持ち、怯えた表情で、バケモノと対峙している。その表情は恐怖にひきつっている。警官は、銃をその手に握りながら、バケモノを前にして、引き金を弾く。
「あ、あああああ!!!なんだこいつは!!」
「撃て!撃てぇええ!!!」
バケモノに命中する弾丸。
だが、そんな小さな鉛玉をうけたところで、こんな巨体のバケモノを止めることなどできない。私は、警官に目を向けると、大きく口を開けた。
「バカ!やめろ!!逃げるんだ!」
「君こそ早く逃げるんだ、ここは私達にまかせ……」
私にと声をかけた警官の首がなくなる。
目を見開いた私の視界、バケモノが、その手の口で、警官の頭半分を食いあさる姿が映る。もう一人の警官も悲鳴をあげながら、逃げようとするが、大きく口を開けたバケモノが、その口から酸を吐きだす。
「ひぎいいいいいいい!!!!」
悲鳴を上げながら、警官の背中は酸で溶け、崩れ落ちる。バケモノは、そのまま倒れている警官にと近づくと、大きく口をあけて、警官の身体を持ち上げると、そのまま巨大な口で飲み込んでしまう。体中を牙で貫かれ、骨が砕け、皮膚が貫かれる音が響き渡る。私は、呆然としながら、その様子を見ていた。関係のない人間が、巻き込まれていく。バケモノの背中を見ながら、私は、拳を強く握りしめた。
「こいつっ!!!!!!」
私は、背中を向けているバケモノ相手に、まっすぐ走る。私にと首を180度向けたバケモノは、再び口をあけながら、酸を吐きだした。私は、掃除用具の棒を床にと突き刺すと、その勢いで、棒高跳びのように宙を舞う。バケモノの真上を飛び越えながら、追いつめられていた壁際から脱出する。床を転がりながら、警官の握っていた銃を手に取ると、私は、床に膝を置いて、体勢を低くし、バケモノの目にと発砲する。弾丸はバケモノの目にと命中し、悲鳴を上げるバケモノ。バケモノは、私目がけ、酸を吐きだすが、私は、距離を取り、それを避ける。
「こいつは、警官の分だ」
私はそういいながら、その場から再び距離を取ろうと廊下を走り出す。
「!?」
廊下を走る私。だが、走っているはずの、私の身体がその場から進んでいないことに気がつく。私は振り返ると、それは、あのモンスターが、勢い良く、まるで掃除機のように、私を吸い込もうとしているのだ。私の短い髪の毛が大きくなびく。私は、文字通りのバケモノにと目を向ける。
「どうしても私を食べたいっていうようだな?私なんか食っても腹壊すだけだぞ!!」
私は、なんとか足を踏み出しながら、徐々に吸い込む力は大きくなってくる。それは奴が近づいてきているからだろう。私を丸のみしようとし、そして吸い込む力は、ますます大きくなり、私はもうたっていられない。
「……」
私は、バランスを崩す。
此処で倒れれば、そのままバケモノに食べられておしまいだ。
終わり。
私は、ここで負けるのか。
ここで、死ぬのか。
……いや、それでもいいか。
どうせ、私が死んだところで悲しんでくれる奴はいない。
私がいなくなっても、何もならない。
そのために、私は孤独でいたのだから。
私はいつ死んでも、悔いが残らないように……孤独でいたんだから。
だから、別にかまわない。
『ノヴァは、私と一緒にいたくないのか?』
『……私も、お前といたい』
『嬉しい』
私は、目を見開く。
やめてくれ。
『……楽しいな』
『ああ……楽しい』
『『お前と一緒にいると……』』
やめてくれ……。
『いろいろあったけど、楽しかったな』
『ああ……』
私は、こんな思いをしたくなかったから。
こんな気持ちになりたくなかったから一人でいたんだ。
こんなに胸が痛くなるような辛い気持ちをしたくないから。
私の家族は、私が小さいときに死んだ。
目の前で、交通事故で死んだ。
大切なものが、目の前でなくなる経験をした。
その時の絶望は……今でも覚えている。
大切なものが砕け散る音を、想いを経験して……私は、もう大切な人は作らないと誓った。孤独であれば、そんな気持ちを知る必要もない。そんな辛い気持ちを知ることもない。だから、孤独であろうとそう思ったんだ。そうしなくちゃいけなかったんだ。
どうして……お前なんだ。
ノヴァ。
お前が……いなければ。
死にたくない。
死にたくない……死にたくない。
お前と……逢いたい。
「!?」
私の手が掴まれた。
私は、その手の先の人物を見る。
そこにいたのは、私と同じ姿をした……もう一人の私。
「ノヴァ……」
涙声の混じった私の声。
彼女は、私の手を掴むと、そのまま、吸い込まれている廊下から、隣にある店内にと身体を引っ張り、モンスターの吸いこみが効かない場所にと脱出する。ノヴァは、私を見ながら、安堵した表情を浮かべる。私は、自分の顔を見られないように、一瞬、うつむきながら、大きく息を吐き、気持ちを整理する。ノヴァは、そんな私を見ながら、立ち上がり、小さく息を吐いた。
「……今度は殴るなよ?いちお……命は助けたんだからな」
「素直に、自分の非力さを認めるよ」
顔を上げて、私はそう告げる。
ノヴァの背後……店内の壁を突き破るモンスターの腕。私の脳裏に浮かぶ惨殺された警官の姿。私は、ノヴァに覆いかぶさるようにして身を伏せる。私はしっかりとノヴァを抱きしめなていた。私とノヴァの身体が密着した状態で、ノヴァと私の視線が重なり合う。同じ体が、同じ柔らかい体が、重なり合い、お互いの心臓の鼓動を教え合う。私は、頬を染めながら、ノヴァから視線をそらす。
「わ、助けかえしてやったぞ?」
「……こういうのは無償で行われるものだろ?」
私たちは立ちあがり、壁に大きく穴を開けた場所から垣間見えるモンスターを見る。
ノヴァ……お前に会えて、私は嬉しい。
でも、駄目なんだ。
お前がいると、私は……もう。
「「こいつを倒したら話がある」」
私たちは、お互いを見て、同じ言葉を告げ合う。
……同じ私だから感じるものも同じなのだろう。それは、ノヴァもまた、私と同じ気持であったから。ノヴァもまたずっと孤独で戦っていたと話をしていた。きっと、そのときのノヴァは私と出逢う前より強かったはずだ。何でも一人でこなさなくてはならないから。自分一人の力しか頼るものがなかったから。でも今は違う。私達は、私達にと頼り始めている。身を寄せて、身体を重ねて。
だから……私達は。
「とにかく、今はコイツを倒すぞ?乃羽」
「言われなくても……な」
私たちは身構えながら、壁を突き破りながら襲い掛るバケモノにと目をやる。両方の口の腕は、私達を喰らおうとするのか、腕の口を開けて、襲い掛る。私にはもう先ほどまでの恐怖はなかった。私とノヴァは並びながら、バケモノと対峙する。あるのは心強い気持ちだけ。ノヴァは、私を見ることなく、握っていた剣を私にと差し出す。
「鬱憤を晴らせ」
私は、ノヴァから受け取った剣を、受け取ると、瞬時に伸びたバケモノの腕を繰り落とす。宙にと舞うバケモノの腕。勢いよく切り裂かれた腕の先端からは血が噴き出す。悲鳴を上げるバケモノ。私は、剣を握ったまま、血がかからないよう、身体を回転させ、敵の懐にと飛び込もうとする。だが、大きく開かれた口からは、再び酸を噴きだそうとする。
「乃羽!!」
私は、宙を舞い、重力に従って落ちていく両腕を、バケモノの大きく開かれた口めがけ蹴り飛ばす。血が噴き出し続ける、それは、モンスターの顔にと降り注ぎ、酸が自分の腕をとかし、そのまま、バケモノの口の中に腕が突っ込まれる。
「自分でも食ってろ!」
私は、怯んだ敵目掛け駆けだしながら、剣をバケモノにと向け、その身体を横一線にと切りつける。口の端を切り裂き、血が噴き出す。バケモノは、その攻撃に、その場から逃走を開始する。体を引きずりながら、駅のデパートの入り口から、駅の改札口の大きな広場にと逃げ惑う。
「……どこにいく」
「終わりにしてやる」
駅の改札口。
私と蓮華が待ち合わせをしていた場所で、バケモノが、私達の方にと顔を向けた。私とノヴァは、同時に足を踏み出してバケモノ目がけて距離を詰める。
「ノヴァ!」
私はノヴァにと剣を投げ、ノヴァはそれを受けとるとバケモノの胴体を切り裂く。体を回転させながら、私とノヴァが剣を投げ、キャッチし、バケモノの身を切り裂き続ける。私達の連撃を前にして、バケモノから血が大きく噴きだす。バケモノの身体から臓器があふれ出し、バケモノの身体の中からは、蝕された人たちの遺体があふれ出す。連撃を終えた私達は、バケモノが動かなくなったのを見て、距離を取り、バケモノの様子を見る。
「……はぁ、はぁ」
「はぁ……はぁ……」
私たちが大きく息を吐く。
バケモノは既に全身から血を垂れ流し、口からもドロドロと血を吐きだしている。バケモノが、私達にと顔を向けた。
『……ヒドイヨ』
「喋った!?」
私は、頭に響くその確かな言葉に、耳を疑う。周りに誰かがいるかと思った。だが、そこには誰もいない。目の前にいる死にかけのバケモノ以外。
『ワタシハ、乃羽トオナジ、クラスメイトナノニ……ニンゲンナノニ』
それは真美の声だ。
同じクラスメイトである彼女の声……。バカな、彼女は化け物となったのだ。
それが、人間の意志を持っているというのか。
「ま……み。意識があるのか」
『ソウダヨ……コノヒトゴロシ、シニタクナイヨ……ママ、パパ』
私は、何も言えない。
そんな中、私の隣に立っていたノヴァが、私が握っていた剣をとり、真美にと近づいてく。血を流し続けるバケモノの姿となった真美に、ノヴァは、剣を抜け、力強くその頭にと突き刺す。
「あっ……」
バケモノは、そのまま、力なく、崩れ落ち倒れる。
ノヴァは、モンスターを突き刺した剣を引き抜き、剣から血を払う。
「……」
「ノヴァ……、彼女は、人の意志をもっていたのか?」
私の問いかけに、ノヴァはゆっくりと振り返った。
「魔物…、それらは人間から生み出される」
「……今まで戦ってきた奴らすべてが、そうなのか」
「そうだ」
最初のカマキリ・買い物で出逢った蛇、鎧と触手の騎士・そして今回の口だけの化け物、すべてが人間であるということ。蓮華が言っていた行方不明のクラスメイト。それも私が殺した中に含まれているということだ。私は、彼らと私は知らず知らずのうちに戦っていた。いや、知らなかったわけではない……、知りたくなかっただけだ。なんとなく、私はわかっていたから。
「……乃羽」
はっきりとした知りたくなかった真実を知り、呆然とする私の前、ノヴァは私を見つめゆっくりと口を開く。
「……私たちは、一緒にいないほうがいい」
ノヴァは、私を見てゆっくりとつぶやいた。
静まり返った駅の改札口で、ノヴァは私にと告げた。
彼女は、私を見ることが出来ないまま、ゆっくりと口を開く。
「……私がいることで、お前の生活が壊れ、私が羨んでいた学校というものがなくなっていくのは、耐えられない。私が消えれば、少しは、この狂った状況も改善されるだろう。何もない、今までと同じ日常が戻ってくる」
それは、建前だろう。
同じ私同士。
心だって……同じなんだから。
「そうか」
私は、ノヴァの言葉に、頷き、ノヴァにと背中を見せた。
「私もそう思っていたところだ。これ以上、お前とかかわるとロクなことにならないとな。だから……ちょうどいいな」
「ああ、そうだ。私も1人で戦う方が気が楽なんだ。お前を助けて、戦うよりも、1人で戦った方がぜんぜん効率もいい。お前は、日頃の生活も雑で、食事もうまくない。一緒にいて……嫌にな……る。本当に……最悪な……ここ数日……の……出来事だ。だから……もう……私に……関わる……な」
震えた声が、私の耳にと入る。
私も彼女にと言葉を投げる。
「……そうか。そうだな、私も…お前の顔を……ずっと……見て……いるのは……イヤで……仕方がなか……ったんだ。いちい……ち、つっか…かってきて……面、倒だし、ウ……ザくて……仕方が、なかっ……た」
「……」
「……」
「そうか……なら、これがお互い……のためだな」
「ああ……そう……だな」
私達は、お互いにと背中を見せたまま、歩き出す。
反対方向にと向かって歩き出す。
お互いの顔を見ることなく歩き出す。
「さよならノヴァ」
「さよなら乃羽」
「「……」」
目撃者に見つからないように、私たちは、それぞれの出口にと向かって歩いていく。駅の外は、いつの間にか雨が降りだしていた。
Side 祇園蓮華
暗い雲の下……駅前は、警官隊、救急車、消防車……野次馬も集まり、駅前は騒然としている。雨が降り注ぐ中、駅前のビルは半壊。警官隊は武装をして、駅の中にと突入していく。私は、そんな様子を眺めながら、携帯にと手を伸ばす。傘を差しながら、建物の中ら外にと出てくる避難する客に交じって、姿を現す乃羽を見つける。乃羽を見つけて私は笑みを零してしまう。携帯を耳にと当てる私。
「もしもし」
私は乃羽を視界にとらえながら、数回のコール音が途切れた後、声を上げる。
『今、テレビで見ているよ。随分と激しくやってたみたいね』
テレビを見ているのであろう電話相手。
私はため息をつき…。
「何が、『私じゃなきゃ大丈夫』なの?こっちは危うくノヴァに殺されかけたんだから」
『よっぽど『私』は嫌われてるみたいだね。フフ……』
「もう、こっちは笑い事じゃないっていうのに。まあ、久し振りにスリリングで面白かったけどさ」
『それで、首尾はどうだったのさ?』
「乃羽とノヴァは、お互いを想い合いながら別れて行きました。これでいいんでしょう?」
『そう、それでいいんだよ』
「これで私が、乃羽と一緒になって……もう一人の私が」
『ノヴァを……』
電話口にいるもう一人の私【レンゲ・シュタイン】を思い浮かべながら、私たちは同じタイミングで同時に笑みを浮かべる。




