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たいくつループ

作者: 枢 いくる
掲載日:2014/04/11

 「あーあ、退屈です「私、こんなにもつまらないだなんて思っていなかったわ「今までも、きっとそうだったのね「そうよ、だから。


 私は王を倒したの。


 数年前、世界は滅ぼうとしていた。王はとにかく悪であり、それはもう民衆には恐怖の表情しか浮かばない程で。勇者は何人も旅立ち、王と闘い、破れていったわ。私も勇者として旅立ったうちの一人……村にいても悪の果てには死しか見出だせない。それならばと、半ば諦めたように王へ反逆しに行ったの。

 王は疲れきっていた。度重なる民衆の反乱と、立て続けにやってくる勇者たちに対応するのは大変な苦労だったらしい。目の下には濃い隈をつくり、今にも崩れてしまいそうな悪があった。

 しかし瞳は強く輝き、口許には楽しげな笑みさえ浮かべ、闇と光を同時に放出しているようだった。


 「大丈夫、じゃないですよね、王さま。どうしてそんな、矛盾を吐き出しているのですか」

 「君は私を倒しに来たのでしょう。構わず、倒せばいいものを」

 王はひどく驚いたように、その上で嬉しそうに、優しい声で答えた。

 「倒すつもりでしたが、ただ、それだけですよ。別にこだわりはありません」

 王らしからぬ口調で語り、不思議そうに私を見つめる王に、悪とは違うものを感じ、興味がわいた。

 「単調で、様式化された政治、反乱、勇者達。ただ同じことの繰り返しで、つまらないのです。けれどその対応に追われ、忙しくて寝る暇もありませんの!……けれど、君は他の勇者達とは違うようですね。少し、お話ししてもいいかしら」

 くるくると表情を移し、跳ねるように話す瞳は、まるで蝶と遊び回る健気な少年のようで、壊れてしまいそうで……


 「王は沢山の話をしたの。全てつまらなかったわ。愚痴のようなものですもの、他人の人生なんて語られても。話すうち、王は疲れ果て、「聞いてくれてありがとう。楽しかったよ」と言い残して事切れた。満足そうに、微笑んで。


 「嘘。そんなことはなかったわ。私は家から適当に持ってきた包丁で、ひと突きしたの。彼が、楽しそうに話している途中で」

 王の話は面白かったわ。外国で見てきた珍しいものなんかの、民衆には想像もできないような、おかしな話を。私は今だ、と思ったわ。話すことに夢中になっている今の王なら、こだわりのない私でも、殺せると。


 「嘘。王は話したりなんてしなかったわ。ただただ悪で、私は苦戦したの……共に戦っていた友人を、目の前で何人もなくしたわ」

 疲労が見えていても、確かに王で。非力な私は多くの犠牲の上に勝利を収めた。友人たちは果敢に王へ向かっていったわ。その後ろで、私は一瞬を待ったの。……上手くはいかなかったわ。友人の死体につまずいて、滑って、もう必死で、ほとんど覚えていないのだけれど、ちょっと運が良かったみたいで。何とか私は、王の部屋にあった派手な剣を王に突き立てることができたの。


 「嘘。王は疲れてなんかいなかったわ。元気一杯、笑顔で出迎えてくれたの。美味しい紅茶と、優美な細工を施されたお菓子を出してね。……王の死は、ほとんど事故のようなものだったの」

 貧しかった村では見ることのなかった豪華な食器類。天井には星屑を集めたように輝く、装飾の凝らされたガラスの照明が冷たく部屋を光で満たしていたわ。私達から搾り取った財で、こんな贅沢をしていたのかと思うと腹が立ったけれど、素直に感動もした。もちろん警戒した私達は、出されたものに手をつけなかったけれど、王はそれでも構わないといった風だった。王は私達に言ったわ。君達の望みはこの首だろう、と。一瞬で優雅なお茶会の空気はかき消され、先に動いたのは、そうね、王だったかしら。次々と倒れ伏す友人達だったけれど、暴れ回るうちに誰かが支えを傷付けてしまったのね。上から照明が落ちてきて……刺々しい程美しく加工された、槍のようなガラスに、王の体は貫かれたの。


 「嘘。そもそも王は、悪なんかじゃなかったわ……違う、悪だと気付いていなかったの。彼の中では全て、正義だったのよね。魔王、なんて呼ばれていたのを知りもせずに……嘘。全部嘘よ、本当は。王は疲れきって、今にも果ててしまいそう。お喋りは大好きで、愚痴もこぼすけれど、民衆では知ることもできない外国の話ができるわ。この部屋は豪華な装飾がちりばめられているし、派手な剣や、美味しい紅茶と細工菓子もあるわ」


 「下らない戯れ言を、聞いてくれてありがとう。私はもうすぐ疲れ果ててしまうだろうし、君は包丁を持っている。そこの派手な剣を使ってもいいけれど、天井の照明を落としてもいいでしょう。何度だって殺されようじゃありませんか……こだわりのない、君に」


 こだわりのない彼女はこだわりのない私へ。満足気な穏やかな微笑みと、退屈を残していったの」


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