第5話・偽者
これが、夢だったら
どうか 目が覚めてくれ。
何もかもくれてやる。 だから悪魔との契約書を破り捨てて 彼女を守ってくれ…。
置き去るのは俺だけでいい。
「準備はいいか?小僧。」
今、警察署の前…つっても、されど警察署。多分、日本を仕切ってる所。何で、こう なった。
「俺ぁ、20年サツから逃げてきてよぉ、今まで色んな仕事をこなしながら生きてきた。今回も楽勝だからよ、そんな心配するな。」
…心配?…今は俺の事なんてどうだっていいんだ。あの後、
どうなった…、気がついたらキャルミ-で眠ってて、彼女はいなかった…。
「…どうやら、女の事が気になって気になってしょーがねぇーみたいだな…。安心しろ。また会えるだろ。無事にこなせたらの話だがな。」
「…無事に…こなせたら…???」
そうか、俺はこうしないと、ダメなのか…。筋書きを変えられる力がないんだ。でも、もし捕まったら…。
そう考えると情けない程ビクビクした。…最初だけ…。後から『俺には刑務所の方が
似合ってるのかもしれない、食費とか稼がなくていいんだし…。』
って思う事で自分を納得させる。
「おぃ、聞いてるか?いいか、よく聞け。ルールは簡単だ。お前が警官になりすませばいい。
俺が奴らをひきつけるからよその間に爆薬を配置しろ。なるべく見えないトコロにな。」
「…簡単だな…。」
「やっと口開きやがった。んじゃ、いっちょやるか。ゲーム・スタートだ。」
「すいません、泉公園までの道を教えていただきたい。」
「泉公園?泉公園ならこの大通りを真っ直ぐ歩いて、2つ目の信号を右にそのまま歩いてると15分ぐらいでつきますよ。」
「すいません、なにせ仕事でね。あんたに恨みはねぇけどよ」
効いた一発。俺はその警官をずるずる引っ張って服を貸してもらう。…まだ夕方だ。彼女は何処だ?キャルミーか?
警官の服を着ながら頭の中で彼女を捜し求めていた。やっぱり変だ俺、あんな女のために何やってんだ…。
「お疲れ様です。」
中に入ったら結構スムーズだった。爆薬が入っているカバンも顔も誰も見ていなくて
ただ挨拶してるだけで…少し安心した。どうかこのまま気付かずに事を進ませてくれ。
「何階ですか?」
「すまんな、7階にしてくれ。大事な会議があるんだ。」
「分りました。」
このままいい子ぶって7時になるのを待つ。まだ1時間もあるけど…大丈夫だ。大丈夫。
エレベーターは俺と偉そうなオッサンの二人をのせて動き始めた。沈黙した密室。けどそれはすぐに破られた。
「…君は、あれかね?警備の方かね?」
「は…(?)…あ、はい。」
胸が高鳴った。何だ、このオッサン…俺には何を言ってるのか分らない事まで聞いてきた。勿論・・・鞄の中身の事も…。
「あぁ、中身ですか?資料類が入ってるんです。仕事に使う物で…」
相手は
「ほう、そうかね。」
とかほざいて目にもくれなかったらしい。けれどその後も質問は続いた。
それに俺は合わすように何とかすり抜けていった。…やばいか…?
「…にしても、君とは気が合うね。いや、何。実は今から始る会議はある男からの緊急連絡で始ってね。
ははは、面倒だと言ったらありゃしない。…お、私はココで。それでは失礼するよ。」
礼儀正しい一礼。警察も色々と大変なんだな…。はぁ…と一息ついた。
「…7時まであと57分…。全然、たってない…。」
そりゃそうだ。エレベータ-で移動しただけだもんな…。
俺はとりあえずエレベーターを出て館内の資料を何枚か持ちトイレの中へと入った。
暑苦しい首元を少し楽にして鏡の前の自分を見た。
「…日立…衆…か。」
ただ、なんとなく変な独り言を言ってフッと自分で自分に笑いかけた。
「…成功…させないと…。絶対に」
もう一回頭の中で次にする行動をイメージし、鞄の中に入ってる時限爆弾をチラッと見た。
タイムはあと、約70分。そうだな、あと50分待って俺がいろんなトコロに
仕掛けて終わるのが10分間。大体残りの10分間で脱出して…
「あの、すまんが…トイレ、いいですかい?」
考えすぎたか、隣には何時の間にか人が居て俺を待っている人と勘違いしたみたいだった。
「っあ、…あ。あぁ、どうぞ。」
「すいませんねぇ・・・。・・・ぇ・・・。」
相手の視線。間違いだと思った、けどしっかり瞳に写っていた、鞄から少し見える時限爆弾が。
「…こ、これは、違うんだ。実験でね…。」
「じ、実験?…馬鹿言え…。本物じゃないか!」
後ろを向いて大声で叫ぼうとしたんだ。相手が…。慌ててソレを止めに入るために腹に一発、そして首を思いきりしめた。