第3話・案内
彼女と出会って3日目。
初恋しちゃった俺、日立衆に初恋された耳が聞こえなくて声が出ないオンナノコ、神沢綾と一緒に歩いている。
胸がチクチクして、でもほわほわして、なんだかよく分らない初めて知った感情だ。
どうかこの絆を、右に進む時計の針もずっとこのままで明日がきてくれ。
この先もずっと…俺達に灯りを照らし続けて…
後日。学校が終わるのが早くなった日俺と彼女は街へと出た。カンニングペーパーと言う名の一枚の計画が
練ってある紙と『誰でもすぐできる!基本の手話』を持って…
『えーと…見たい物ある?』…ってどうすんだっけな。頭の中で色々な動作が横切る。おかしい、結構練習してきたんだけど…。
そして出た結論。もう自分でも何してるんだか…あわ踊りやら何言いたいんだか、本当頭ゴチャゴチャだった。からやめた…
情けない俺。
“何処行くの?”
トントンと肩叩かれ紙を渡される。はっと思って気付かれないようにカンニングペーパーを見た。
“最初は動物園。ココらじゃ産まれ立ての象がいて観光客も多いんだ。”
顔を上げる彼女。嬉しそうにはしゃいでる。勿論、産まれたての象がいるって知ったのは昨夜…。
上手くいくと思った。上手く…い…。
“人が多くて見えないよ”
文句の紙…。なんだよそれ、しょうがねぇーだろ多いんだから。
その後も人の流れ流れで二人ともぐったり状態。…何でだか上手く行かない…何もかもが
だんだんウザく見えてきたんだ。
11時前、もうすぐ昼飯の時間か…。そういえば、この後何処だっけ…トイレでも行って見てくるか。
「お れ ト イ レ 」
「??」
「ト イ レ」
「…?」
「だぁっもうっ ト イ レっつってんだろっ!?」
「!!」
納得してへらへら笑ってどうぞという様子が嫌にムカついた。何で、こんな事してんだ……。
馬鹿か…俺は…。気がついたら思いっきり計画のカンニングペーパーを握りつぶしてた。
“次、何処行くの??”
「…。…次はお前の好きなとこだってょ…。」
俺を軽く叩いてきた手を軽く払った。…今俺の顔、絶対イラついてる。
見せたら落ち込むだろーな。
“御免、何言ったの?紙に書いてくれる??”
「…っち。」
舌打ちした瞬間、彼女の表情は曇ったのがよく分った。
『御免、別に傷つける気じゃなかったんだ。次はお前の行きたいトコ。何処がいい?』…何で言えない。こんな短い言葉。
“次はお前の行きたいとこ。”
彼女の顔を見ず紙を渡した。そういえば名前で呼んだコトねぇな…手話もできねぇし…。
“…じゃあ…ゲームセンターがいい…。”
驚いた。の一言、だって、女ってゲーセンなんかいきたがんのか!?
普通だったら…。………ど。何処、行きたがるんだ…?
多分俺の顔は彼女を見ずに一人で悩んでたと思う。本当にそれでいいのかって…。
***
「馬鹿ッお前、それ取るんなら右、右だっつの!!」
只今、ゲーセンにて番号ついた箱と景品交換するUFOキャッチャー中・・・。思った通り下手糞だった…。
「貸せよ、どれが欲しっ…。…紙っと・・。えーと、ど…れが…欲…し…い…んだ…?…」
ゲーセンなんかで大声出しても聞こえやしない。持ち合わせた紙を出して彼女に聞いた。
“あの、右端の14番”
「14…ねぇ…。こーいうのはなぁ、コツがあるんだよ。コツが…」
俺の指示通りに動き出すクレーン。…おしっ。完全に取れる位置だ。
ガチャンッ!!
「ほらっ、取れただろ。交換場はあっち行って、右だから…。」
降りてきた箱を取って彼女に渡して、走る様を見て。…嬉しそうだったな…、景品ひとつで…。ん、もう戻ってきた。
コッチに走ってくる彼女の腕にはクマの人形が抱えられていた。
「…そ…それ?」
それでも、嬉しそうな彼女。ニッコリして紙に何か書くと俺に渡した。
紙には…“やっと、私の顔見てくれた♪有難う、このクマ 大事にする ”こう書かれてた…って、え?
見てくれたって…俺の頭に動物園での行動が思い出された。
…あぁ、それで…ココに来たら見てくれるかもってか?
チラッと紙越しに彼女を見た。そしたらニッコリ笑って微笑んで…やっぱりそうみたいだ。そんな彼女を見て恥ずかしいけれど、何処か嬉しい気持ちが込み上げた。