第2話・自覚
朝、青く貼れたホッペを隠すように湿布を始めて貼った。…こんなカッコ悪いトコ見られたくねぇー…。
「ぁ。 ハ ヨ 」
登校して早速彼女に出会った。後ろから近寄って頭をポンッと叩いて口パクで…って何やってんだか、俺…。
「!!」
コッチに気付いて顔を上げる。ココまでは良かった。ココまでは…。
「…。…。…。」
俺の顔を見て吃驚し返事さえもしねぇ。…やっぱり…あいつらと同じ反応…。
「…俺…先、行くから。」
彼女の目を反らして先に歩んだ時だった。グイッと腕を引張られたんだ。
「え?ちょっ、何して…もうすぐ始るぞ?いいのかよ、お前サボって!?」
されるがままの俺を木の後ろまで引張ればドンッと押しやがった、何するんだ?怪我人だぞ、一応!?
「…。」
俺は怒った。そりゃそうだ。足を組んで視線を下に落として、おまけにポケットから紙とペン取り出して
“帰ってもいい!?”という走り書きを渡した。あーあー…何してんだ俺…。
「返事無しイコールOKって事で帰るかっ…って!?」
次は頭を引張られた。すると、彼女の真剣な顔が目に入って次にバンソコウが出てきた。
「バンソコウ…??」
何時の間にか濡れているハンカチで傷口ふき、そのバンソコウをふいた上から張られて。
「…お前…。」
あっけとした。ミニ救急箱持参して俺の怪我を治すおんなのこ。見てて可笑しくなった。
「???」
彼女は笑っている俺に不思議そうな顔で見てきた。
「…くくっ…何で、逃げないんだよ?変な奴だな。」
言っている言葉なんか通じてないのに、救急セットをしまいながら二ッとマヌケな笑顔で俺の頭をポンポンと叩いて来た。
そして母親のように優しく抱きしめたんだ。
「俺になんか抱きついて何して…。………っ」
嫌じゃない。むしろ安心するんだ。安心しすぎて不思議に体の奥から何かが溢れそうになった。
俺はそれを一生懸命食いとめた。そうしている内に頬を伝って落ちる涙と共に悔しさと苦しさと寂しさが込み上げた。
「…っ…何、ないてんだよ…俺っ…っく…放れ…ろよ、お前…っ」
そしてより一層彼女は俺を抱きしめた。俺よりも細くてすぐ折れそうな腕に小さな手に思いもしない安心があったんだ。
こんなに小さいのに…何でだろう。
その日、俺は何時の間にか眠りに落居っていた。彼女の腕の中で。目覚めた時はもう夕方でやけに体が重いと思えば
彼女も深い眠りに落ち俺の上で寝ていた。
…今日はキャルミーに行かなくていいんだ、昨日払ったとこだから…ゆっくりしてられる…。まわりはすでに人の気配は無かった。
下校した後だろうか、俺は彼女をゆすって起こしとりあえず帰る事にした。
「学校をサボってしまった」
という表情を見せながらも
俺に気遣い笑っている彼女が側にいる。なんだか嬉しくて苦しくてもっと一緒にいたい、って思った…。
…遅い初恋…。
“街を案内して欲しい”
それは、彼女が書きだしたひとつの紙から始った。泣きついた後日のためでか少々恥ずかしい気持ちもあったと思う。
「…あ、案内…??」
来た紙に吃驚して俺は慌てて見ていた本を机の中に放り投げた。
彼女はそれを不思議に思ったか下から覗こうとする。
見せられるわけない。『誰でもすぐできる!基本の手話』なんて…。
「やめろよっ。…なんでもねぇから…あー。書かないと。案内だっけ。…何…処、…行―き・・たい…んだ??っと」
“わかんないから聞いてるんだよ。”
すぐに戻ってきた紙。あ、そっかと一人で納得して返事を書いた、周りからは信じられないという目で見られているだろうか。(特に女子)
もうすっかり彼女一本になってる俺。愛し方も知らないのに、
何をすればいいってんだよ。どうすれば喜ぶ?何をしたら…。
“日立君の好きなところに行きたい。”
ふと、机の端っこに何時の間にか来てた紙。彼女はなんだかそわそわして返事を待っていた。
…スキナトコロ…?…どっか…あったっけ?まぁいいや、その日でいいし。
俺は適当な気分で居たんだ。コレを聞くまでは…
「昨日、先輩に誘われて泉公園に行ったの」
クラスの女子の会話。…泉公園か。行った事ねぇけど、確かボートに乗れたような…。
「まじ?あそこ有名なスポットだもんね〜。ってか付き合ってんの!?」
「え?何でそうなんのー。全然まだまだだよ。」
「怪しい〜。一人の男と一人の女が二人っきりで何処かへ行くなんてデートじゃん。」
…………でーと…?ぇ。あ…デート…?初めて気付いた。彼女が…そわそわしてた理由。
「街案内とか言って…デートなんじゃん…。俺が行くのって…。」
そう思うと嬉しいんだか恥ずかしいんだかワケがわかんなくなった。