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チョコミント  作者: siro


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後編

みんなの作品は、CG以外だったら乾燥棚に置かれているため何を今描いているのか見ることが出来た。

沙耶花は、早く来てしまった部室で自分の作品を取り出しながら、部員の作品を眺めていた。


その中に一つ不思議な絵が一つ紛れていた。


一面ミント色に塗られたキャンバス。


「誰のだろう?」


不思議に思いながらも、沙耶花は自分の課題作品を終わらせるべく席に着いて描き始めた。






いつものように、繰り返しの日々が過ぎていくなか、ある日の朝エリカが沙耶花にスクープと言って椅子の前を陣取った。


「ど、どうしたの?エリカ」


「聞いて!拓也先輩好きな女の子居るんだって!!!」


「ぇ・・」


「まじ、びっくりじゃね?!今まで断るのにそんな理由つけなかったのに、今回はあの吉永先輩が告りに言ったらそう断られたんだって。」


「ぇ、吉永先輩ってどこかの社長令嬢って噂の?」


「正確には、重役らしいよ。ってそうじゃなくって!あの高ビー女吉永が、今まで拓也先輩が使ってた断り文句を全部跳ねつけたら、先輩がそういったんだって!」


「そっかぁ」

まぁ、いてもおかしくないよね。というか、こんなにモテてるのに彼女が居ない方がおかしいし、隠れて付き合ってたりしてるのかな~

沙耶花は、むかむかする思いに蓋をした。


彼女でもなんでもないのに、嫉妬するなんておかしいよね。そう心の中で呟いて。


その日の午後、部室ではその話題で持ちきりだった。


「あの拓也がね~」


「先輩!拓也先輩の好きな人って誰ですか?」

後輩の女子の一人が手を上げて先輩達に聞いてきた。


「さぁ~俺らも知らないな。お前しってる?」


「私が知るわけ無いじゃない、むしろこっちが聞きたいわ。ぁ、沙耶花ちゃんは知ってる?」


「いいえ」

沙耶花はムカムカする胸を押さえつけるように、キャンバスを机の上に置いた。


「俺・・・いや、なんでもないや」

遠矢先輩は何か言いかけて口をつぐんだ。

「何ですか!遠矢先輩!!言いかけて止めないでくださいよ。」

後輩に襟首掴まれ遠矢先輩は口を開いた。

「なんとなーくなぁ~あの子じゃないかな~ていう人物が思いついただけだ。」


「「えぇ!!教えなさいよてください」」


「いや、俺の勝手な想像だし。」


ぎゃーぎゃー騒ぐ部室でなぜか、その声だけ凛と響き渡った。

「騒がしいけど、どうしたんだい?」


「「「ぁ」」」


「ここは絵を描く場所であって、井戸端会議するばしょじゃないよ」


にっこり笑顔の拓也先輩の周りには吹雪がまってるように感じた。


「「アハハハハ」」


バタバタと慌て自分達の定位置へと移動した。

まったく、とため息を着きながら拓也先輩は沙耶花の席の前に腰掛けた。


「大変ですね」

沙耶花は拓也先輩に声をかけた。その言葉に苦笑しながら、君だけだよそう言ってくれるのは、と呟いて席を離れた。

拓也先輩は乾燥棚からミント色に塗られたキャンパスを取り出し自分の定位置の席へと移動した。


あの絵、拓也先輩のだったんだ。


声をかけられた嬉しさと共に先輩の告白騒ぎと胸の中がざわついていた。


こっそり見つめながら、沙耶花いつまでも流れ続ける”滝”の絵を描き始めた。

まるで自分の心のように浮き上がり、落ちていく。


先輩と一緒の空間にいられるのも今年いっぱいかぁ。


この絵のように、いつまでも同じ時を刻むことは叶わない、そう思うと手が止まってしまった。





「・・・ちゃん、沙耶花ちゃん」



「はい!?」

顔を上げると、部室は薄暗く目の前には拓也先輩が立っていた。


「熱中するのはいいけど、もう最終下校時刻だよ」


「ぇ!」

そう言われて、沙耶花は周りを見るとすでに部員は沙耶花と拓也先輩以外皆居なくなっていた。

沙耶花はいそいで帰り支度を始めた、その様子を拓也先輩は机に腰掛けながら見つめた。


「・・・沙耶花ちゃんは何も聞いてこないね。」


「ぇ?何がですか?」


「俺の好きな人について」


「ぇ?」

口の中に苦いものが広がった。


だって、そんなの聞きたくない。


それが沙耶花の本音だった。



「・・・聞いた方がよかったですか?」


「・・・そうだね」


「じゃ、聞きません。」


「ぇ?」


「私優しくないんで、聞きません」


「沙耶花ちゃんって変わってるよね」


「芸術家は皆変わり者なんですよ」

鞄を閉めて、沙耶花は立ち上がった。


帰り支度が整った沙耶花は、机から動かない先輩を不思議そうに見た。

美術室の窓からは外の街灯の光が入り先輩の顔を隠していた。





「君だよ」




呟かれた言葉の意味は、闇と一緒に溶けてしまい沙耶花は一瞬何を言われたか分からなかった。



「ぇ?」



「遠まわしの方法で攻めても無駄みたいだしね、正面きって突破することにした。」


「へ?先輩の言ってる意味の方がわかりません!」

沙耶花はますます混乱して、拓也先輩を見上げた。


「だって、君拗ねちゃって俺のこと今日全然見てくれないだろ?」


「すね・・・」


「このままほっとくと、ひとり拗ねて溶けちゃいそうだしね」


「先輩!顔近いです!」

どんどん近づいてくる拓也先輩に後ずさりながら、沙耶花は顔に熱が集まるのを感じた。


「クールなのもいいけど、俺の前では甘い顔しててよ」

背中が美術室の壁の柱に当たり、これ以上下がれなくなると拓也先輩が囲むように沙耶花を閉じ込め、額をコツリとぶつけた。


「意味が・・・わからないですぅ。」

拓也輩の胸に手を当てて押してもビクともせず、沙耶花はこれ以上先輩の顔を見れずに目を瞑った。


すると、唇に暖かくしっとりとした感触があたった。


「甘い、また、ミントチョコの飴食べてたの?」


「っ・・・!」



「俺は、沙耶花が好き。沙耶花は俺のこと好き?」







「すきです。」








美術室の床に映るシルエットが一つになった。





まだ、暑さが残る暗い夜の美術室。






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