空は気まぐれで、残酷だ
カキーン、とバットとボールが甲高い音を上げて上空に打ち上げられた。
そのすぐそばの道路に隣接して斜面になっている草原で、レジャーシートを広げて足を組み堂々と宙を見上げ寝転んでいる人間が一人。
それとは対照的に隣でお姉さん座りをして、ホームランだと騒いでいる人間が一人。
「ねえねえ、あっくんホームランうったよ!」
「よかったねー愛しの敦くんが活躍しててー」
適当に返したつもりが真に受けたらしく、ちょっともう何言ってんの、と照れ隠しにか組んでいる足を軽く叩かれた。
今日の恵は服装から見ても気合が入っている。
私がジーパンにTシャツという可愛げの無い服装なのと対照的に彼女はワンピースという乙女ならではの格好をしている。
正直言って幼なじみの私でも初めて見る姿だ。
「あ、試合終わったみたい」
空を見上げながら呑気にめんどくさいなあと思う私はきっと最低な女だ。
今日の私はこの空を話し相手にしている。
「どっちが勝ったの」
本心からでもなく興味は無いが一応尋ねてみた。
来る前、あわよくば負けてしまえと思っていた私は可愛くない。
結果は上機嫌に恵が伝えてくれたが、それはより一層私を不機嫌にさせた。
今日の恵とはテンションが合いそうにない。
夕焼けが迫るこの空に語っていたかった願望を隅に置き、"あっくん"と呼ばれる人が向かってくるとのことで失礼の無いように体を起こした。
しばらくして私の目の前では少女漫画のごとく、ラブコメが繰り広げられた。
目を輝かせた少女に、運動ができる爽やかな少年。
会話には常に笑顔が溢れていて、恵に合わせるように私は笑い繕った。
激戦を経てきた彼から見たらラブコメではなくスポコンなのだろう。
「ちょっとかかるけどこのあと待っててくれる?」
うんいいよ、と私をよそ目にあっさりと恵は承諾した。
彼が去った後、恵が目に見えてそわそわし出した。
なるほど、そういうことか。
女が綺麗になりたいと美に欲を出すときは決まっている。
その人の中に異性の存在があるからだ。
それに今日の恵は私でも初めて見るぐらい可愛いのだから彼女にとってよほどの何かがあるに違いない。
「んー、じゃああたし先に帰るわー」
今度埋め合わせするね、なんて呼んでおいて先に帰らせるなんて理不尽だと思いつつも帰路を辿って行く。
数時間後に彼女もここ通るんだろうな。好きな人と一緒に。
朝も私は一人で登校するのが増えるだろう。
男と女はすぐに情が湧いてセコい。
幼なじみの私ですら簡単に突き放せるのだから。
ふと空を見上げると、赤く染まった空はやはりいつもと変わらず綺麗だった。
私があの綺麗な空であるならばきっと今頃雨を降らしているだろう。
この涙を隠せるように、と。
閲覧いただきましてありがとうございます。
広大な空に向かって話しかける少女を描きたかったんですが、思いのほか暗い話になってしまいました。
どうしてか一人だけの小説を書きたかったんですよね。
周りの者が介入してこない短編小説。
でも次はなるべく明るいものが書けるように頑張りたいと思います。