年賀状は馬に乗って
異世界に召喚されて三年目の冬、私は王城の文書係として静かに暮らしていた。
この世界には年賀状のように、新年に手紙を送りあう文化は無かった。
年末に向けて古い書類を整理している時にふと思った。
……今年は書いてみようかな、年賀状。
確か干支は午だったはずだ。動物の馬ならこの世界にもいる。
私に家族は居ないが、この世界に来てから親しい友人は何人か出来た。彼らに送ろう。
小さな紙に馬のイラストを描き、感謝と祝福の言葉を差し込む。
あらかじめ友人達には年賀状の仕組みを伝えておいたので、きっと元旦に送ってくれるだろう。
全員分書き終えたところで、用意していた紙が一枚余っていることに気が付いた。
……うーん、どうしようかな。紙は貴重だから無駄にしたくないし……
悩んでいる私の脳裏に、とある人物の顔がよぎる。
騎士団副団長のレオン。
毎朝、城内見回りの時に無言で私に挨拶をしてくれる、不器用そうな青年だ。
少しだけ躊躇ったが、私はおもむろに宛名を書いた。
彼には年賀状の事を伝えていない。返事は来ないだろうが、まあ平気だろう。
私は軽い気持ちで投函をした。
◇
元旦の朝。
友人達からの個性的な年賀状を一通り楽しんだ後、やはりレオンからの年賀状が届いていない事に、申し訳ない気持ちが込み上げる。
……やっぱり年賀状の事、伝えてあげた方が良かったかな?
後でレオンが年賀状の仕組みを知った時、元旦に返事を出さなかった事に対して後ろめたさを覚えてしまうのではないか……そんな事を考えていた。
家でモヤモヤしていると、ふと玄関のドアが叩かれた。
友人が遊びに来たのだろうか?
私がドアを開けると、小さな馬に跨ったレオンの姿があった。
「れ、レオン様? どうしてこちらに? その馬は……」
レオンは私が書いた年賀状を手に持ったまま返事をする。
「貴殿は馬が好きなのだろう? わざわざ元旦に絵を描いて送って来られたのだからな。貴殿のご期待に応えるべく、特別に厩舎から馬を拝借してきた。良かったら一緒に街を一周でもしようかと思ったのだ。」
初めて聞くレオンの声。
腹の底に響くような低い声と、困惑した表情を浮かべながら、元旦の朝に可愛らしい馬に跨って立ち尽くしている姿に、私は思わず吹き出してしまった。
「……どうした? 好みの馬では無かったか?」
「フフッ……たった今、好きになりました」
とっておきの年賀状をプレゼントしてくれたレオンの期待に応えるべく、私はそっと足を踏み出した。




