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顔合わせ

馬車が、静かに止まった。


音が、消える。


それだけで分かる。

ここは、迎え入れる側が「騒がせない」場所だ。


扉の外に立つのは、門番ではない。

儀礼担当でも、案内役でもない。


――家そのものだ。


シュトラール公爵家の本邸は、

威圧的な造りではなかった。


高い塔も、誇示する紋章もない。

だが、視線の置き場が、自然と制御される。


近づく者に、「どこを見ていいか」だけを、静かに示す建築。


ルーカスが先に降りる。


周囲を一瞥し、必要な確認だけを済ませると、振り返った。


「……大丈夫だよ」


声は低く、落ち着いている。


差し出された手は、

助けるためではない。


隣に立つための位置を示すものだった。


エルフリーデは、その手を取る。


足が、石畳に触れる。


一歩。


もう一歩。


敷地に入った瞬間、

空気が、はっきりと変わった。


(……見られている)


視線は、ない。

だが、“見られていないこと”自体が、管理されている。


通されたのは、応接用の広間ではない。

謁見の間でも、談話室でもない。


――中間だ。


正式すぎず、私的すぎない。

「確認」を行うための部屋。


扉が閉まる。


そして、奥から足音がした。


ゆっくり。

だが、迷いのない歩調。


現れた男は、思ったよりも質素な装いだった。


派手な礼服も、勲章もない。

ただ、上質な布と、無駄のない線。


年齢は、測りにくい。

老成しているのに、衰えがない。


――アルブレヒト・フォン・シュトラール。


だが、その名は、呼ばれない。


彼は、まずルーカスを見る。


一瞬。

ほんの一瞬。


値踏みではない。

確認だ。


そして、視線をエルフリーデへ移す。


長くは見ない。

だが、外さない。


その視線は、

装いでも、立場でもなく――


「盤に立つ人間かどうか」を見ていた。


沈黙。


だが、それは不快ではない。


やがて、公爵が口を開いた。


「――遠路、ご足労を」


声は低く、抑えられている。

命令でも、歓迎でもない。


「本日は、非公式の場です」


一拍。


「ですので、名も、肩書も要りません」


エルフリーデの胸が、わずかに鳴る。


「ただ」


公爵は、静かに続けた。


「ここに立っている“あなた”として、話をしましょう」


それだけだった。


フルネームは、出ない。

出す必要がない。

過去も生い立ちも、今は問題ではない。


この場で問われているのは、ただ一つ。


――この女は、判断を引き受ける人間か。


ルーカスは、何も言わない。


ただ、一歩分だけ、エルフリーデと並ぶ位置に立った。


それが、この場で示せる、すべてだった。


公爵は、その位置取りを見て、ほんのわずかに口元を緩めた。


「……結構」


短い一言。

空気が、わずかに緩む。


「では、」


視線を上げる。


「まずは、腰を落ち着けましょう」


それは、歓迎でも試験開始でもない。


――盤を広げる合図だった。


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― 新着の感想 ―
ICONIX的な用語を小説に落とし込んでいるような言葉がちょくちょく見受けられるのですが、ソフトウェア開発経験者の方でしょうか。
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