招待状
連合商務調整局本部、執務室。
午前の光が、窓から斜めに差し込んでいる。
書類の山はすでに片づいており、部屋は静かだった。
扉を叩く音。
「……どうぞ」
入ってきたのは、エルフリーデだった。
いつも通りの装い。
いつも通りの足取り。
ただ、その手に持つ封書だけが、わずかに異質だった。
「こちらを、受け取りました」
差し出されたそれを、ルーカスは一目見ただけで理解した。
封蝋。
色。
紙質。
――シュトラール公爵家。
彼は何も言わず、受け取る。
開封は、躊躇なく行われた。
中身は短い。
余計な修辞も、感情的な言葉もない。
⸻
シュトラール公爵家より
このたびは、然るべき経緯を踏まえ、
内々にて言葉を交わす機会を設けたく存じます。
つきましては、
エルフリーデ殿を当家へお招き申し上げたく、下記日程のうち、ご都合のよろしい日をご指定いただければ幸いです。
当日は、形式に拘らぬ私的な席とし、
必要な移動および周辺の手配は、すべて当家にて責任をもって整えます。
なお、本件は公にせぬものとして取り扱い、
外部への通知・記録は不要にございます。
良き折に、御目通り叶えば幸いです。
シュトラール公爵家当主
アルブレヒト・フォン・シュトラール
⸻
日付は、三つ。
いずれも、そう遠くない。
ルーカスは、書簡を閉じた。
「……来たね」
感想ではない。
事実の確認だった。
「はい」
エルフリーデは、そう答える。
それだけだ。
驚きも、戸惑いもない。
(……来た)
胸の奥で、そう思うだけ。
「日程は、どれにする?」
「こちらで問題ありません」
即答だった。
指したのは、最も早い日。
ルーカスは、一瞬だけ視線を上げる。
「……準備期間は短いけど」
「承知しています」
迷いはない。
「調整は、可能です」
それは自信ではなく、判断だった。
ルーカスは、軽く頷く。
「分かった。こちらから返答する」
書簡を、机の端に置く。
「当日の同行は、僕がする」
確認事項のように言う。
「移動、段取り、表向きの名義処理も含めて」
「はい」
エルフリーデは、一礼した。
「必要な資料があれば、準備します」
「頼む」
それだけで、話は終わった。
――感情の入る余地は、ない。
扉へ向かう背中を見送りながら、
ルーカスは、書簡にもう一度だけ視線を落とす。
それを、重いとも、軽いとも思わなかった。
ただ。
次の盤面に進んだ。
それだけだ。
扉が閉まる。
午前の執務室には、
再び、静かな時間だけが残った。




