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幕間 公爵家

夕刻。


内室には、すでに客はいない。

茶も下げられ、扉も閉じられている。


――密談は、終わった。


アルブレヒト・フォン・シュトラールは、椅子に深く腰を下ろし、静かに息を吐いた。


「……まったく」


誰に向けたでもない呟き。


机の上には、二種類の書類が置かれている。

一つは、エルフリーデ・アルディア・フォン・ローゼンハイムに関する正式資料。

もう一つは――表に出ない、覚書。


後者を、指先で軽く叩く。


「そこまで、差し出すか」


苦笑にも似た声音だった。


側近が、一歩下がった位置で応じる。


「……異例かと」


「異例だな」


即答。


「だが、筋は通っている」


アルブレヒトは、先ほどの会話を思い返す。


条件は、明確だった。

遠回しでもない。

駆け引きも、ほとんどない。


――この娘を迎えてくれるなら。

――その後の扱いについては、こちらで引き受ける。


それ以上は、語られなかった。

だが、それで十分だった。


「王妃ではない」


アルブレヒトは、ぽつりと呟く。


「……だが、それ以上に厄介な立場だ」


側近は黙っている。

理解しているからだ。


表に立たず、だが王家の中枢と切り離せない位置。


しかも。


「母方が、あちらだ」


アルブレヒトは、わずかに視線を上げる。


「連邦から見て、手が届きにくい場所」


その一言で、すべてが通じた。


極東。

直接触れれば、摩擦が起きる。

だが、間に誰かが立てば、話が変わる。


「……なるほどな」


机に置かれた、エルフリーデの資料に目を落とす。


追放王女。

だが、無傷ではない。


いや――

無傷すぎる。


「この娘自身も、分かっている」


アルブレヒトは、静かに言う。


「これは保護ではない。利用だ。それでも、呑む覚悟がある」


側近が、低く応じる。


「……だからこそ、選ばれたのでは」


「そうだ」


アルブレヒトは、頷いた。


「駒にされると分かっていて、なお盤に立つ人間は少ない」


そして。


「それを、横から掬い上げるような真似をする男は、もっと少ない」


机に背を預け、目を閉じる。


「……第五、か」


名は出さない。

だが、立場は浮かぶ。


正統から外れ、だが、正統よりも自由で、そして――腹が決まっている。


「シュトラール家としては、断る理由がない」


側近が、確認するように言う。


「正式に迎えますか」


「迎える」


即断だった。


「だが、条件は変えない」


書類を、指で揃える。


「この娘には、“選んだ結果”として来てもらう。後から、真実を知るかどうかは別だ」


アルブレヒトは、わずかに間を置いた。


「今は、知らない方がいい」


側近は、深く頭を下げた。


「……承知しました」


アルブレヒトは、最後にもう一度、資料を見る。


エルフリーデ・アルディア。


「面倒な盤面だ」


だが。


「だからこそ、価値がある」


視線を窓の外へ向け、静かに結論づけた。


「――これは、良い縁になる」


その言葉は、家としての判断であり、個人としての予感でもあった。

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― 新着の感想 ―
まさかの!?第五王子キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! 貴族だろうな〜とは思いましたが王族とは☆ 確実に外堀埋め埋めされてますね(・o・;)
こわー((( ;゜Д゜)))こわー そしてワクワクドキドキしちゃった
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