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幕間 袋小路

知らせは、予告もなく届いた。


「……第三王女殿下が、連邦へ?」


侍女の声が、わずかに震えている。


ミレーネは、最初その意味が分からなかった。

言葉としては理解できる。

だが、状況として、繋がらない。


「……それは、どういうこと?」


声が、自分でも驚くほど冷静だった。


「本日、正式な引き渡しが行われたと……国王陛下のご判断だそうです」


正式。

引き渡し。


その二語が、遅れて胸に落ちる。


(……は?)


一瞬、頭の中が真っ白になる。


(戻ってきた、ばかりじゃなかった?)


(王宮が、やっと回り始めたって――)


指先が、きゅっとドレスを掴む。


「……第一王子殿下は?」


「……ご存じではなかったご様子で」


それで、すべて察した。


――まただ。


レオナルトは、何も知らされていない。

重要な局面ほど、蚊帳の外。


それはつまり。


(もう、見限られてる)


王宮に。

評議会に。

そして――各国に。


「……そう」


短く答え、ミレーネは椅子に腰を下ろした。


侍女は、それ以上何も言わない。

言えない。


部屋に、静寂が落ちる。


(……最悪)


心の中で、はっきりとそう思った。


ここ最近、ようやく流れが戻りつつあった。

エルフリーデが帰還し、王宮の実務が整い始めた。


それを、見ていた。


(あ、持ち直すかも)


そう、思ってしまったのだ。


王位継承は、まだ確定ではない。

だが、“候補から外れる”空気は、薄れていた。


本国からの手紙も、少し柔らかくなっていた。


――「情勢を注視する」

――「判断は急がない」


あれは、猶予だった。


(なのに)


エルフリーデが、また消えた。


しかも今度は、

王宮から追い出されたのではなく、奪われた形で。


それが、どれほど致命的か。


ミレーネには、痛いほど分かる。


「……完全に、終わったわね」


ぽつりと、呟く。


レオナルトは、また落ちる。

しかも今回は、以前より深い。


「戻せば何とかなる」という選択肢が、もうない。


(負け馬、確定)


脳裏に、はっきりとその言葉が浮かぶ。


かつては、勝ち馬だった。

王位継承がほぼ約束されていた第一王子。


だからこそ、婚約した。

だからこそ、自国は自分を送り込んだ。


愛情ではない。

期待でもない。


投資だ。


だが、今は。


(投資先が、潰れかけてる)


いや、

潰れたと判断される直前だ。


「……婚約破棄、するしかない?」


一瞬、そう考える。


だが、すぐに現実が追いかけてくる。


(今さら?)


年齢が、頭をよぎる。


若くはない。

「次」を探すには、遅すぎる。


しかも、王宮での立場は

“失敗した婚約者”。


それを背負って、

より良い相手が見つかるか?


(無理ね)


自嘲が、喉の奥に広がる。


婚約を続けても地獄。

破棄しても地獄。


どちらを選んでも、

上がり目はない。


「……私、詰んでるじゃない」


誰もいない部屋で、呟く。


本国は、いよいよ見切るだろう。

これ以上、支援する理由がない。


“第一王子の婚約者”という肩書きは、

もう、価値がない。


それどころか。


(……重荷だわ)


失敗した賭けの証明。

王位を逃した男に賭けた女。


そう見られる。


胸の奥が、じわじわと冷える。


(なんで……)


問いは浮かぶが、答えは出ている。


レオナルトを選んだからだ。

勝てると思ったから。


「……馬鹿みたい」


そう呟いて、唇を噛む。


レオナルトが嫌いなわけじゃない。

だが、好きでもない。


そして何より――

もう、信じられない。


彼は、何も分かっていない。

何が起きているのか。

自分が、どこに立っているのか。


それが、致命的だった。


「……終わりね」


静かに、結論づける。


破局は、まだ表向きではない。

だが、もう修復は不可能だ。


王宮に残る意味も、

本国に戻る意味も、

どちらも薄れていく。


ミレーネは、窓の外を見る。


王都は、今日も穏やかだ。

何も変わっていないように見える。


けれど。


彼女の人生は、

この瞬間、確実に袋小路に入った。


選び直すには、遅すぎて。

引き返すには、進みすぎた。


――それを、誰よりもよく理解しているのが、

彼女自身だった。


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― 新着の感想 ―
この人が、もっと早い時期に、エルフリーデの真価並びにその置かれた状況の過酷さと不当さを認識していたら、どうなっていましたかね。
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