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幕間 遅れてくる通知

その日は、レオナルトは久しぶりに気分が軽かった。


机の上の書類は、減っている。

完全ではないが、目に見えて片付いていた。


(……やっぱり違うな)


エルフリーデが戻った。

それだけで、王宮は回り始める。


文官の動きも、以前より早い。

会議の空気も、少しだけ柔らいだ。


「……これで、だいぶ楽になる」


独り言が、自然と零れる。


評議会も、しばらくは静かだろう。

地方からの苦情も、整理される。


そうなれば――


(ミレーネとも、話ができる)


昨日届いた手紙を、ふと思い出す。


内容は短い。

だが、以前より棘が少なかった。


「近々、時間を作れるかもしれない」


それだけで、十分だった。


(ほらな)


やはり、環境が整えば戻る。

問題は、自分ではなかった。


扉がノックされる。


「殿下」


入ってきたのは、文官だった。

顔色が、妙に硬い。


「どうした」


「……評議会より、通達が」


差し出された書類は、一枚だけ。


薄い。

だが、嫌な予感がした。


「……?」


目を通す。


――第一王子殿下は、当面の間、国政決定の場への出席を見合わせること。

――関連案件は、評議会預かりとする。


「……は?」


声が、素直に間抜けだった。


「どういう意味だ、これは」


「……事実上の、権限停止です」


淡々とした説明。


「停止?」


言葉を、繰り返す。


「誰が決めた」


「国王陛下と、評議会の合議です」


胸の奥が、ひやりと冷える。


(知らされていない)


「……理由は?」


「“判断の一貫性に懸念がある”とのことです」


懸念。


曖昧で、逃げ場のない言葉。


「……待て」


書類を握りしめる。


「エルフリーデは戻っただろう」


「実務も、回り始めている」


「問題は、解消されつつ――」


「殿下」


文官が、静かに遮る。


「それは、“殿下ご自身の評価”とは、別の話です」


言葉が、頭の中で滑った。


「……別?」


「はい」


文官は、視線を伏せたまま続ける。


「第三王女殿下の能力が確認された、というだけで……」


その先を、言わない。


言わなくても、分かった。


(……俺じゃない)


(俺が評価されたわけじゃない)


「……そんな」


喉が、ひくりと鳴る。


「じゃあ、今までの――」


「“代行が機能していた”と判断されたのでしょう」


代行。


その言葉が、胸を抉る。


「……俺は」


言葉が、続かない。


(じゃあ、俺は何だ)


机の上の書類が、急に重く見える。


紙の白さが、今はやけに冷たかった

さっきまで「成果」に見えていたものが、ただの置物に変わる。


さっきまで

「片付く」と思っていた山。


今は――


(触るな、と言われている)


「……ミレーネは?」


思わず、口に出る。


文官は、一瞬だけ間を置いた。


「……すでに、本国へ報告が行っております」


それで、終わりだった。


分かる。


これは

“もう戻らない”報告だ。


「……ちくしょう」


小さく、吐き捨てる。


「エルフリーデが戻れば…… 全部、元に戻ると思っていた」


誰に言うでもなく。


文官は、何も言わない。


否定もしない。

慰めもしない。


その沈黙が、答えだった。


「……下がれ」


そう言うしかなかった。


文官が出ていく。


扉が閉まる。


レオナルトは、椅子に深く沈み込んだ。


(……違う)


(こんなはずじゃない)


自分は、何も変わっていない。

王子のままだ。

第一王子のままだ。


なのに。


(……誰も、俺を必要としていない)


気づくのが、遅すぎた。


エルフリーデが戻ったことで、

自分の価値が戻るわけではなかった。


むしろ。


彼女がいれば、

自分がいなくても回ることを

証明しただけだった。


レオナルトは、机に突っ伏す。


誰にも見られない場所で。


王子は、まだ王子だ。

だが――


もう、王になる男ではなかった。


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― 新着の感想 ―
幕間を読み進めてるけど、さっきの第一王女のシーンと矛盾してないかな? 評議会がこれだけ動いているのに、あの状況で第三王女がボコボコにされるのは不自然だと思う。
王宮の人間は現代の我々の姿そのものですよね。 世の中がどういう仕組み、鉄道や電気や水道などのインフラは使えて当たり前、スーパーに行けば商品棚に商品が並んでいるのは当然という生活を何に疑問もなく過ごして…
分かりにくいけど時間軸としては117話の前くらいかな?
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