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幕間 唐突に終わる

その朝も、目覚めは悪くなかった。


カーテンの隙間から、光が差し込んでいる。

昨日と同じ。

いや、昨日よりも少し明るい気がした。


(……今日は、何をしようかしら)


南庭の続きをしてもいい。

夜会の礼状も出さないと。


やることは多い。

けれど、どれも楽しいことばかりだ。


「ねえ」


寝椅子から起き上がり、声をかける。


「今日の予定を――」


返事がない。


(……?)


もう一度、呼ぶ。


「誰か、いないの?」


少しして、扉が開く。


入ってきたのは、侍女ではなかった。

近衛兵が二人。


一礼はするが、距離が近い。


「……何?」


胸の奥に、微かな違和感が走る。


「王妃陛下より、通達です」


短い言葉。


近衛の一人が、巻かれた書状を差し出す。


封は、すでに切られている。

読む前から、嫌な予感がした。


だが。


「……どういう、こと?」


読み終えた後も、意味が繋がらなかった。


「外出、夜会、訪問――すべて、停止?」


声が、素直に裏返る。


「昨日まで、できていたでしょう?」


近衛は、淡々と答える。


「本日を以て、許可は失効しました」


失効。


その言葉が、理解を拒む。


「……待って」


紙を握りしめる。


「何かの間違いじゃない?」


「いいえ」


即答だった。


「昨日は、問題なく――」


「昨日まで、です」


遮られる。


(昨日まで?)


思考が、追いつかない。


「理由は?」


必死に聞く。


「私、何かした?」


「……理由は、開示されておりません」


開示されない。


それはつまり、

説明する必要がない、ということだった。


「……そんなの」


笑おうとするが、口元が引きつる。


「私は、第一王女よ?」


言えば、通じるはずの言葉。


今までは、そうだった。


「第一王女に、そんな扱い――」


「命令です」


その一言で、空気が変わる。


押し返せない。


通らない。


(……おかしい)


胸が、ざわつく。


「昨日は……」


小さく呟く。


「昨日は、あんなに人がいて、笑ってて、皆、戻ってきたって……」


言葉が、途切れる。


近衛は、何も答えない。


答える義務が、ない。


「……じゃあ」


声が、震え始める。


「今日は?」


「自室待機です」


「……明日は?」


「未定です」


未定。


それは、期限がないということだ。


「……エルフリーデは?」


思わず、口を衝いて出る。


「第三王女殿下は、現在、王宮におりません」


その一言で、頭の中が、真っ白になる。


(……いない?)


(昨日まで、全部……)


「……そんな」


紙が、指から落ちる。


床に、音もなく滑る。


「戻ったから……、戻ったから、全部――」


言葉が、形にならない。


(じゃあ、あれは何?)


(昨日の夜会は?)


(南庭は?)


(私の……)


理解しようとするほど、現実が、遠ざかる。


「……私は」


喉が、ひくりと鳴る。


「私は、何だったの?」


近衛は、沈黙したままだ。


答えがないのではない。

答える必要がないのだ。


「……出ていいわ」


ようやく、そう言う。


近衛は、一礼し、部屋を出る。


扉が閉まる。


鍵の音。


今度は、はっきりと聞こえた。


セラフィーナは、その場に立ち尽くす。


(……分からない)


何が起きたのか。

何が間違っていたのか。


「私は、第一王女なのに」


その言葉が、宙に落ちる。


返事は、ない。


昨日まで“あった”世界が、

今日は、どこにもない。


怒られたわけでもない。

断罪されたわけでもない。


ただ――


使われなくなっただけ。


その事実に辿り着くには、

彼女は、まだ遠すぎた。


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― 新着の感想 ―
現実を見る能力が、ここまで無いとは。 思いますに、コレはコレで、王のやらかしですね。 王子についてもそうですが、今までナニを教育してきたのでしょう。 第三王女とどの様な違いが有ったのやら。 エルフリー…
「腕の中の温度」で第一王女はエルフリーデがルーカスに奪還され王宮から退去する場面に立ち会っていたのでエルフリーデが王宮内に居ないのは認識していると思ったのですが。それもルーカスから「次は清算だ」大見得…
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