幕間 祝祭
その日は、すべてが上手くいっていた。
「第一王女殿下、本日は夜会のご開催、おめでとうございます」
そう言われた瞬間、
セラフィーナは、心の中で小さく鼻を鳴らした。
(ほらね)
結局、こうなるのだ。
閉じ込められていた?
慎重に?
自室待機?
――全部、過剰反応。
第一王女を、いつまでも奥に引っ込めておくなんて、無理に決まっている。
「当然よ」
笑って答え、差し出された杯を受け取る。
「私が出なければ、場が回らないもの」
周囲の貴族たちが、曖昧に微笑む。
だが、それで十分だった。
※
夜会用の広間は、久々に“華やいで”いた。
燭台は増やされ、香は甘く、酒は惜しみなく振る舞われる。
音楽隊の演奏は少し慌ただしいが、気にしない。
今日は雰囲気が大事だ。
「もっと明るくして」
「その花、色が沈んでるわ。替えて」
命令は軽やかに飛び、
人は走る。
それを見て、セラフィーナは満足そうに頷いた。
(やっぱり、こうでなくちゃ)
長椅子に身を沈め、左右に人を侍らせる。
若い貴族たち。
機嫌取りの得意な連中。
「殿下、お久しぶりで」
「お変わりなくて何よりです」
挨拶が続く。
どれも似たような言葉。
だが、量がある。
(ちゃんと、戻ってきてる)
それが、重要だった。
「心配してたのよ」
そう言われれば、軽く肩をすくめる。
「少し休んでいただけ」
それ以上は、説明しない。
※
夜は、自然と長引いた。
踊り。
酒。
囁き。
セラフィーナは、広間の中心にいた。
視線が集まる。
笑い声が向けられる。
話題が、自分を起点に回る。
(ああ、これ)
閉じ込められていた時間が、嘘みたいだ。
「明日は、南庭でも何かできるわね」
「昼の集まりもいいわ」
予定を口にする。
誰も、止めない。
否定もしない。
だから、確信する。
(もう、制限は解けたのよ)
※
翌日。
南庭は、明るかった。
白い天幕。
新しい花。
整えられた席。
昨日よりも、人が多い。
「第一王女殿下」
「お顔を拝見できて光栄です」
頭を下げる者。
微笑む者。
以前ほどの熱気ではないが、
“戻った”と言うには、十分な光景だった。
「……外は、いいわね」
椅子に腰掛け、そう呟く。
閉じ込められていた部屋の空気とは、まるで違う。
(やっぱり、エルフリーデが戻ったから)
当然の結論。
あの子が裏で調整すれば、
こういう場は、自然と回る。
自分は、何も変えなくていい。
「……本当に、助かるわ」
感謝ではない。
評価でもない。
ただの事実確認。
※
夕方。
私室に戻ったセラフィーナは、鏡の前で髪を解いた。
今日はよく笑った。
よく話した。
よく飲んだ。
「……疲れたけど、悪くないわ」
椅子に腰を下ろし、息を吐く。
(この調子なら)
夜会は続けられる。
社交も戻る。
そのうち、完全に元通り。
「……やっぱり、私がいないと駄目ね」
何の疑いもなく、そう思う。
この二日間が、
誰かの限界の上に成り立っていることも。
この“天国”に、
期限が設定されていることも。
考えない。
考える必要が、ないと思っている。
セラフィーナは、満足そうに目を閉じた。
明日も、
きっと同じ日が続く。
――そう、信じて。




