至急の連絡
※本日複数更新です。本日分は展開の都合上、少し重たい話が続きますが、翌日更新以降で物語は大きく動いていきます。
監査用会議室は、静かだった。
紙をめくる音と、ペンの擦れる音だけが続いている。
(……もう、会合場所に着いている頃だ)
考えないようにしていた思考が、ふと浮かぶ。
その時。
扉が、控えめに叩かれた。
「……失礼します」
入ってきたのは、調整局の若い職員だった。
監査局の人間ではない。
――それだけで、嫌な予感がした。
「統括官。業務連絡です」
監査官が、ちらりと視線をやる。
「短く済ませてください」
「はい」
職員は、ルーカスにだけ聞こえる声で続けた。
「港湾管理局から、航路履歴の自動照合で異常が出ました」
その瞬間。
ルーカスの指が、止まる。
「……異常?」
「はい。“照会案件”に紐づく人物移動です」
紙を一枚、差し出される。
船籍番号。
出航時刻。
積載名目。
(……船?)
(照会で?)
ルーカスは、目を落とした。
――数秒。
それで、十分だった。
「……アルディアの船」
低く、確認するような声だった。
「照会案件で?」
職員が、困ったように頷く。
「本来、該当しないはずなのですが……」
(そりゃそうだ)
照会は、確認だ。
移送じゃない。
ましてや、船を使う理由はない。
「……出航先は」
「まだ確定前ですが、連邦外航路に接続可能な申請が出ています」
ルーカスは、静かに目を閉じた。
(……やられた)
怒りじゃない。
驚きでもない。
「分かってたことが、起きた」だけだ。
目を開く。
「“確認”で船を動かす国は」
低く、吐き捨てる。
「もう、交渉する気がない」
監査官が、怪訝そうにこちらを見る。
「……何か問題でも?」
ルーカスは、書類から顔を上げない。
「いいえ」
嘘だ。
だが、今はそれでいい。
「業務です」
(……アルディア)
(やっぱり、踏み越えたな)
制度。
記録。
正当性。
全部、守ってきた。
――だからこそ。
(……ここからは)
(制度の外だ)
その続きを、口には出さない。
まだ、ここは監査室だ。




