散る花と、芽吹く花
アザミが消滅してから、数週間が経った。
世界は、呆気ないほど、いつもの顔を取り戻しつつあった。
テレビのワイドショーでは、連日専門家たちが「棘姫事件」について、様々な憶測を交わしていた。
国際社会では、核兵器を使用したとされる大国への非難が巻き起こったが、当事国は「あれは核ではない。その証拠に、現地にはいかなる放射能汚染も確認されていない」と、一点張りでそれを否定した。
その主張は、検証可能な「事実」として、非難の声を徐々に、しかし確実に沈めていった。
アザミがその身を賭して地上への影響をゼロにしたという、真実には誰も辿り着けないまま。
事件の舞台となった街は、半壊したが、人々はたくましく復興の槌音を響かせ始めていた。
あの日の出来事は、歴史上最も奇妙で、大規模な「原因不明の災害」として記録された。
深く刻まれた爪痕の上を、それでも日常は、ゆっくりと覆い隠していく。
人気のない、復興地区の片隅。
新しく建てられた公園の、まだ誰も座っていないベンチの上に、トリリウムが何もない空間からぽとりと現れた。
「魔法少女の消滅を確認……ついでに、どこかで育っていた蝕花も、観測不能か」
アザミの大きすぎた愛は、意図せずして、蝕花を根絶やし寸前にしてしまっていたのだ。
トリリウムは、復興が始まった街を見渡し、そして、どこまでも青い空を見上げた。
「……少し、休みが長くなりそうだね」
その声には、何の感情もこもっていなかった。
アザミの歪んだ愛は、次に生まれるはずだった名もなき魔法少女の悲劇を、ほんの少しだけ先延ばしにした。
彼女が遺したものは、破壊の爪痕と、わずかな猶予だけ。
必ず《次》はやってくる。その事実だけは、何も変わらない。




