#90 アキ
肩で背負うように抱えていたアキがゆっくりと意識を取り戻す。
「…ここは」
これまでの状況と展開を説明し、アキはイケの肩から腕を離した。
「…そうか、イマさんが。」
「イマ隊長のあの姿…見た事もない怪物になってたよ。アキは、何か知ってる?」
アキは息を飲み、「知ってる」と呟いた。
そして、 海上機関車の停車位置の方向を見て指を向けた。
「実は紹介したい人がいる。」
アキは突然言い出した。よく見ると停車位置には、誰かが立っていた。
駆け寄った先にいたのは、隊員のミカナだった。
「ミカナッ!」
彼女の顔が見えた瞬間に誰よりも早く駆け寄り、そして密着したのはアンナだった。
「良かった…良かった…」
アンナが泣き崩れる中、ミカナはアンナの頭を撫でる。
「…ありがとう。」
ミカナはそれだけを告げ、アキに向かって頭を下げた。
「アキさん、改めてお礼を言わせてください。助けて頂いてありがとうございます。」
アンナとミカナの話を聞くと、どうやらミカナは泉の中で死を覚悟する状況だったらしい。しかし、その泉はアキのいた古城の湖に直結していたらしく、ミカナは一命を取り留めたのだ。
彼女達が遭遇した審判の泉は、大昔から存在している泉らしく、撤去されないまま放置されているらしい。
そして、ミカナにはこれまでの状況を説明した。サマー軍団長やイマの死を知り、暗い表情で俯いた。
「…皆、もう此処にいる必要はないよ。直に迎えが来る。それに乗ってアリスランドという外国に向かうんだ。話はそれからだよ。」
話を切り出したのはアキだった。
しかし、彼はそれだけ告げ、地平線の彼方を見つめていた。
言われるがまま、ベアーズロックの隊員達はその場に立ち尽くす。
・・・時刻は、三を指す。
数分間待機していると、地平線の向こうから、再び海上機関車が現れたのだ。
「何で!?」
アンナが声を荒らげ、海上機関車はあっという間に目の前に停車した。
「何でぇい!もう用は済んだんか?」
「ネブタさんじゃないですか!」
ナオの歓喜の声にネブタも微笑みを隠しきれなかった。
「いやなぁ、一度帰ったんだけんど、何か戻った方が良い気がしてよぉ。戻ってきたら案の定兄ちゃん達が見えたんで驚いたべぇ。所で知らん顔もいるが、軍団長様はどうしたべぇ?」
その言葉に全員が顔を逸らした。
その様子を見たネブタさんは全てを察したようで
「…そうか。ならせめて、全てが終わった時は良い結果を報告せんといけんべぇ。」
ネブタさんの言葉で、再びその場にいた全員が顔を見合せた。そして、それぞれが海上機関車に乗り込んだ。
「ネブタさん」
イケは懐中時計を取り出し、ネブタの前に差し出した。
「本当に助かりました。ありがとうございます。」
しかし、ネブタは懐中時計を受け取らなかった。
「やるべぇ。それはもうお前さんのもんだ。それに欲しい欲しいって顔に書いてるべぇ。」
その言葉を聞いた後、イケは焦りながら頬や口元を触った。
その様子を見たネブタは笑っていた。
「んで?次の目的地はどこだべぇ。」
「アリスランドって行けますか?」
アキは様子を伺うように問い掛けた。
「アリスランド?聞いた事ないべぇ、外国だべか?」
「そうです。アウストラリアン地区の中心にある土地なんですが、そこに伝説の一枚岩と呼ばれるものがあります。それこそがベアーズロックの始まりとも言われる場所なんです。」
アキの言葉にベアーズロック隊員達は、驚きを隠せずにいた。
「ちょっと待ってもらっても良いですか?」
手を挙げて話を中断させたのはナオだった。
「すみません、アキさんの言うベアーズロックの真実…勿論知りたいです。ですけど、それよりも聞きたいことがあるんです。アキさん…貴方は何者なんですか?」
凝視するその目は、不安を表しているようだった。
「…あのさ、それは僕から説明するよ。」
「…何でイケ隊長がアキさんの事を話せるんですか。」
ナオの目は、不安から警戒へと変わる。
「それも含めて話すよ。僕自身、これを知ったのは気を失っている時の話で…」
「それって、夢の話って事ですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。何かがきっかけでその光景を見せたんだと思うんだ。そして、そのきっかけをくれたのがアキだった。」
ナオは首を傾げていた。
「言っている意味がわかりません。」
「じゃあ今から話す事をまずは信じて欲しい。」
イケは勢いよく席から立ち上がり言った。
「アキは…元ベアーズロック隊員で僕の同期。そして、今は、変異種王のベア…そうだよね?」
するとアキは突然苦しみ始めた。
胸を押さえたり、頭を押さえたりと。
次第には呻き声をあげて、その場に跪いた。
しかし、王のベアと聞いた後にその姿を見た為、ナオやアンナは刃を向けていた。




